鮎川俊介の「幕末・明治の日本を歩く」

渡辺崋山や中江兆民を中心に、幕末・明治の日本を旅行記や古写真、研究書などをもとにして歩き、その取材旅行の報告を行います。

「企画展 渡辺崋山・椿椿山が描く 花・鳥・動物の美」について その8

2013-11-03 05:02:28 | Weblog

 「Ⅳ」は、「絵の広がり 絵の中にメッセージ」というもの。

 「風竹図」は、佐野市立吉澤記念美術館で観たことがありますが、やはり迫力というか、観るものの気持ちを引き締めるものがありました。

 しかし、個人的に好きな作品(たとえば身近に飾っておきたい作品)となると、たとえば「秋草小禽図」、「桃花文禽図」、「橙柿図」、「崋山俳画譜」といった、小鳥などの小動物や草花、果物などが描かれたもの。

 肩の力が抜けて、穏やかでリラックスしている気分がうかがえる作品には、観るものの緊張をほぐし、清新な気分を感じさせるとともに優しい気分にさせるものがある。

 そういう作品には俳画なども含めて、そこはかとないユーモアも含まれています。

 一方で、崋山の作品には、「風竹図」や「猛虎図」に見られるように、観るものの心に厳しく迫ってくるものもあります。

 観るものの緊張をほぐし、清新な気分を感じさせる、という点では、椿山の作品にもそのような作品が多数存在しています。

 「紅葉小禽図」、「寒香図」、「梨小蓮荷甲蟹」、「花画譜」、「琢華堂画譜」、「歳寒二友図」、「花鳥画帖」などがそれ。

 身近なもの、それもどちらかというと小さなものに目が注がれた時、それに対する愛情のこもったスケッチから、そのような作品が生まれているようであり、椿山の人柄を感じさせるものがあります。

 それはもちろん崋山にも共通しています。

 椿山の「過眼掌記」は、作品の模写や、作品の構図を参考のために記録したもの、またスケッチ類をまとめたもの。

 「作家・作品解説」によれば、掛川市に29冊、田原市に18冊があり、文政・天保・弘化・嘉永という、椿山活躍年代の全般に及ぶ、とのこと。

 その画作に対する日々の精進ぶりに一驚します。

 今回の企画展示は、「花・鳥・動物の美」であるために、崋山や椿山の風景画はもちろん展示されていませんが、椿山はどのような風景画を描いているのだろうか、ということが気になりました。

 そこで『江戸後期の新たな試み-洋風画家谷文晁・渡辺崋山が描く風景表現』をみてみると、「山海奇勝図」(部分・文政10年)、「日光道中真景図巻稿」(部分・文政12年)、「日光道中真景」(部分・文政12年)、「道中図」(部分)、「縮図冊」(部分・文政~嘉永年間)が紹介されていました。

 これによれば、椿山は、中山道を通って江戸から信州へと至り、その道中の景色を描いたこと、また日光街道を通って日光へと至り、その道中の景色を描いたこと、また東海道を歩いたことなどがわかります。

 特に中山道沿道を描いた風景画は、景観の伸びやかな広がりを清新な筆致で描いたものが多く、谷文晁・渡辺崋山を継承する、椿山の風景画家(真景画家)としての画力をも見せています。

 

 続く

 

〇参考文献

・『秋田蘭画の近代』今橋理子(東京大学出版会)

・『渡辺崋山・椿椿山が描く 花・鳥・動物の美』(田原市博物館)

・『江戸後期の新たな試み-洋風画家谷文晁・渡辺崋山が描く風景表現』(田原市博物館)



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