うてん通の可笑白草紙

江戸時代。日本語にはこんな素敵な表現が合った。知らなかった言葉や切ない思いが満載の時代小説です。

見えない橋

2013年01月06日 | 澤田ふじ子
 1993年9月発行

 妻が不義密通の末、出奔。藩命にて女敵討ちに出た岩間三良が旅の果てに出した結論とは…。

第一章 早春城画譜
第二章 仲秋夜能(やのう)
第三章 闇の足音
第四章 無明の旅
第五章 見えない橋 長編

 美濃大垣藩士・岩間三良は、家中屈指の剣の遣い手として知られる一方、生真面目な性格から上役や同輩との折り合いが悪く、郡同心へと役替になった。
 郡同心の役目は、領内の村々を視察することで、役目に邁進する三良だったが、役宅に残された新妻の加奈には、埋め切れない寂しさがあった。
 そんな折り、ふと出会った大蔵奉行の息子・大隅佐四郎に強い思慕を抱いた加奈は、あろうことか、三良の留守を良いことに不義密通を重ね、事が露見すると佐四郎共々出奔を果たす。
 藩から下されたのは、女仇討ち。宛のない旅に身をやつしながら三良は、その空しさを胸に抱え込むのだった。
 そして仇に巡り会った時、三良は苦渋の決断を…。

 表題、そして最終章の「見えない橋」の持つ意味合いが、大きく伸し掛かる作品であった。夫婦愛、藩内での政治、そこに文化・芸術を背景にした、壮大な時代が展開される。
 三良の役替前の務めである勝手方掛(納戸役)が、物語の終盤に大きな意味合いを持つばかりか、話の枝葉で、絵師を目指す子どもが登場するが、その子を通して物語全体の時代を芸術面から読ませるなど、深い内容の作品になっている。
 結果は、全く予期せぬ終わり方で、私個人としては、三良に刃を振るって貰いたかったの念が否めないが、作者は、当時の決まりの無意味さ、空しさ、そして命の尊さを説くと共に、そうならざるを得なかった事の過程を言いたかったのだと思われる。
 ひとつの結果に至までに、辿った道筋を、三良の旅を通して思い知ることが出来る。
 同時に、人もひとつの顔だけではなく、幾重もの表情を持ち備えながら、たまたま巡り合わせでそれが善にも悪にもなると受け止めた。
 読めば読む程、作者から投げ掛けられた人=生き方といったものを深く考えさせられる作品である。
 至極の作品に巡り会えた。

主要登場人物
 岩間三良...美濃大垣藩戸田家・郡奉行所同心
 岩間加奈(おきぬ)...三良の妻、大垣藩寺社奉行与力・生田平内の娘
 沖伝蔵...大垣藩・歩行横目付、三良の朋友
 浄円(飯森惣助)...京・知恩院派浄願寺住持、元大垣藩・足軽の五男、三良の朋友
 岩根帯刀...大垣藩大目付番頭、三良の義兄
 乙松...生田家下男
 小平太...大垣藩領平野村の百姓の息子→京四条富小路の絵師・松村景文の弟子
 杉田市兵衛...大垣藩・郡奉行所同心
 大隅佐四郎(佐助)...大垣藩・大蔵奉行・大隅太兵衛兵の庶子(四男)
 櫟屋七郎兵衛...京仏光寺烏丸西・諸道具目利屋の主 



書評・レビュー ブログランキングへ



にほんブログ村 本ブログ おすすめ本へにほんブログ村
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

江戸の怪奇譚~人はこんなにも恐ろしい~

2013年01月06日 | ほか作家、アンソロジーなど
氏家幹人

 2005年12月発行

 「怪談の向こうに江戸の真実が見える」と唱える著者による、江戸時代の物の怪にまつわる話の集大成。

プロローグ
神隠し
河童
十六歳
奇病
猫娘
嫉妬
イジメ
炎の女
老人介護
ひとつ家
懐疑的
凶宅
エピローグ

 江戸で起きた奇々怪々な出来事。それは物の怪の悪戯なのか。今も昔も本当に怖いのは、人の心の闇が生んだ「現実」と著者は言う。
 魑魅魍魎の仕業とされた事件ながらも、そこには人の嫉妬や妬みなどが渦巻いていたのではないか。
 「一話一語」、「天保雑記」、「甲子夜話」、「耳嚢」、「微妙公家夜話」など、実に百冊にも及ぶ江戸時代から現代に書かれた文献を元に著者が編纂した不思議な話と、その解釈が記された一冊。
 例えば、口から針を吐いた少女。殺人鬼へと豹変した真面目な旗本の亡霊。突如、母親を切り刻んだ姉弟から旗本の虐めによる刃傷などなど、実際に起きた(とされる)事件が事細かに記されている。

 とても丁寧に、年代、関係者の在所、所属、身分、名前まで入っており、著者が言うように、江戸の真実が見えてくる。
 そして興味深かったのは、歴々の時代小説作家が題材として取り上げた事件も多々含まれており、やはり江戸を語る上には、当時怪談とされていた出来事は欠かせない事件であったと実感する。
 そして、江戸時代にも拉致、虐待、イジメ、ストリートチルドレンなど、現代社会にも通底する諸問題があったことを実感させられた。歴史書として読んでみたい一冊である。




書評・レビュー ブログランキングへ



にほんブログ村 本ブログ おすすめ本へにほんブログ村
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする