うてん通の可笑白草紙

江戸時代。日本語にはこんな素敵な表現が合った。知らなかった言葉や切ない思いが満載の時代小説です。

ぼんくら(上・下巻)

2012年05月08日 | 宮部みゆき
  
2000年4月発行(発行年月は単行本の初版)

 南町奉行所臨時廻り同心の井筒平四郎が、本所深川の下町に暮らす人との交流を描いた、人情捕り物劇シリーズ第1弾。
 鉄瓶長屋存続の危機に平四郎は、甥の弓之助と共に真実を究明する。

上巻
殺し屋
博打うち
通い番頭
ひさぐ女
拝む男
長い影

下巻
長い影
幽霊

 深川北町の鉄瓶長屋で八百屋を営む、八百富の跡取り太助が殺された。妹のお露は殺し屋の存在を仄めかす。  その殺し屋の狙いは己にあると言い残し、差配の久兵衛は店移りをしてしまう。
 次の差配としてやって来たのは、未だうら若い佐吉という植木職人だった。
 その後も、次々と店移りをする店子たち。鉄瓶長屋は、櫛の歯が欠けたようになってしまうが、平四郎は、蔭に湊屋総右衛門が関わっているのではないかと、探索を始める。
 そこには、17年前に起きたとされる湊屋にまつわる陰謀があった。
 とにかくキャラ設定が楽しい。
 怠け者で面倒が苦手。家督を継ぎたくないばかりに、父の隠し子を捜して押し付けようとしたり、岡っ引きは大嫌いと、同心らしさの微塵もない四十路半ばの平四郎。
 見廻りの途中で、つまみ食いをするのが好きで、市井に溶け込み、万人受けは良いが、これといった手柄もなければそれを欲しくもない。
 妻との間に子がないが、それさえも悩みではないのだ。だが妻は、次姉の子である弓之助を養子に迎えたがっているのだ。その弓之助が、美形なことこの上ないばかりか、大層頭も切れ、文武に稀なる才を持つ。唯一の欠点は、12歳になってもおねしょが治らないこと。
 こんな2人が、鉄瓶長屋に隠された秘密を暴く為に奮闘する。
 ほかにも、どこまでも平四郎に従順な中間の小平次。
若造と鼻であしらわれながらも誠実な人柄の差配人佐吉。口は悪いが情に厚く世話焼きで、竹を割ったような気質の煮売屋のお徳。
 人望く実直な岡っ引きの政五郎。そして暗記力に優れたその手下で12歳のおでこ。
 章の始めは平四郎の現行から始まるパターンが多いのだが、それがまた洒落ているので是非味わって頂きたい。また、弓之助の件(くだり)は、思わず笑みが溢れる。
 難があるとしたら、湊屋総右衛門の仕掛けの意図が、もうひとつはっきりとはしないのだが、これを言い出したら物語自体が成り立たなくなってしまうので、深く考えるのは止しておこう。
 また下巻最後の「幽霊」。この章に登場する女性が何を意味しているのか、誰なのか、どっちなのかが最初分からなかったが、よくよく考えてみたところ。成る程と、ここで種明かしをしていることに気が付いた。こういった手法はさすがである。

主要登場人物
 井筒平四郎...南町奉行所臨時廻り同心
 弓之助...佐賀町藍玉問屋河合屋の五男、平四郎の甥(養子候補)
 小平次...井筒家の中間
 佐吉...深川北町鉄瓶長屋の差配人、総右衛門の縁者、元大島村植半の植木職人
 官九郎...佐吉の飼い烏
 久兵衛...元鉄瓶長屋の差配人、前勝源の番頭
 お徳...鉄瓶長屋の煮売屋
 政五郎...深川を仕切る茂七の手下の岡っ引き
 おでこ...(三太郎)政五郎の手下
 おくめ...商売女
 辻井英之介(黒豆)...南町奉行所隠密廻り同心、平四郎の朋友
 総右衛門...築地俵物問屋湊屋主、明石町料亭勝源主、鉄瓶長屋地主
 おふじ...総右衛門の妻
 みすず...総右衛門の娘
 葵...佐吉の母、総右衛門の姪

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