うてん通の可笑白草紙

江戸時代。日本語にはこんな素敵な表現が合った。知らなかった言葉や切ない思いが満載の時代小説です。

本朝金瓶梅

2012年11月23日 | ほか作家、アンソロジーなど
林真理子

 2006年7月発行

 中国・四代奇書のひとつである「金瓶梅」の舞台を江戸に置き換え、西門屋慶左衛門と妾のおきん・おりんの好色な色恋模様を描く。「本朝金瓶梅(お伊勢篇)」、
「本朝金瓶梅(西国漫遊篇)」と続く第1弾。

第一部 おきん、西門屋と出会うの巻
第二部 おきん、間男するの巻 
第三部 おきん、美味い河豚を食べるの巻 
第四部 おきん、芝居見物に行くの巻 
第五部 慶左衛門、大奥の女を誘うの巻
第六部 おきん、子授け寺へ行くの巻
第七部 慶左衛門、跡継ぎが生まれるの巻 
第八部 慶左衛門、柳屋お花とわりない仲になるの巻 
第九部 慶左衛門、女力持ちと寝るの巻
第十部 おきん、百物語をするの巻
第十一部 慶左衛門、枕絵を描かせるの巻
第十二部 おりん、武松に殺されるの巻 計12編の連作長編

 大層な分限者で、江戸の札差・西門屋慶左衛門。唸る程の資産に加え、「今助六」の評判をとる色男は良いとして、手の付けられない無類の女好き。
 玄人女はいざ知らず、人の女房だろうが、生娘だろうがひとたび気に入れば手を付けづにはいられない性分である。
 そんな慶左衛門が、ようじ屋の看板女・おきんに下心を抱いて近付くが、こちらも一筋縄ではいかない性悪女。なんと、破落戸(ならず者)の夫・彦次を殺め慶左衛門の妾の座に着いたばかりか、西門屋に乗り込み、妻妾同居の奇妙な生活が始まるのだった。
 愛とエロスの「金瓶梅」江戸版開幕。

 林真理子氏の作品を読むのは、数十年振りになるが(無論時代小説は初めて)、やはり筆裁きの巧さには頭が下がる。頁を開いた当初は、林氏が時代小説をここまで書けるとは予想だにしていなかったのだが、時代背景や世情の下調べも万全であり、私的には時代小説作家のイメージの薄い(ほかにも著書有)氏ではあったが、そんな先入観が払拭された。
 登場人物も、本家「金瓶梅」に因んでの設定で、内容も本筋を守りながらも江戸情緒を織り込み、かつ辛辣ではなくコミカルなタッチで描いている。
 例えば、河北の清河県の大金持ちで放蕩者の西門慶は西門屋慶左衛門。正妻の呉月娘はお月。蒸し餅売りの武大の妻・潘金蓮はおきん。おきんの下女・お梅は龐春梅。資産家花屋の女房・李瓶児がお花。おりんは李嬌児だろうか? 
 やはり、巧い。ただ、作品としての完成度は高いと評価しても、私的には官能小説は好きではないので、続編への興味は薄い。好きではないと言っても、原文が「金瓶梅」だから仕方ないのだが。

主要登場人物
 西門屋慶左衛門...蔵前金貸・札差商の主
 おきん...慶左衛門の妾、元富岡八幡宮参道・ようじ屋の看板女、破落戸(ならず者)彦次の女房
 おりん...慶左衛門の妾、元鳥追い
 お月...慶左衛門の正妻、札差・蔵前茅町俵屋の娘
 お陶...富岡八幡宮参道・ようじ屋の女将、おきんの悪友
 おせい...慶左衛門・お月の娘
 お花...慶左衛門の妾、両国饅頭屋・柳屋の後家、辰蔵のまた従兄弟
 久衛門(応伯)...慶左衛門の悪友、老舗の二男
 希...慶左衛門の悪友、旗本の三男
 柳屋辰蔵...慶左衛門の悪友、両国饅頭屋の嫡男
 伊兵衛...両国本沢町魂胆遣曲道具・四ツ目屋の手代 
 武松...彦次の舎弟


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