さて、謎はまだ残っていると思う第441回は、
タイトル:覆面作家は二人いる
著者:北村薫
文庫名:角川文庫
であります。
読んだ後で知ったのですが、『覆面作家シリーズ』の第一作。
日常を扱った推理物なのでミステリにしましたが、内容的にはファンタジーです。
短編集なので、一つずつ感想を書いていきます。
『覆面作家のクリスマス』……『推理世界』の編集者・良介は怪しげな原稿と、それを書いた投稿者に会いに行く役目を先輩に押しつけられた。題名が『クリスマス』、著者は新妻千秋。会いに行ってみれば、家は豪邸、作者は深窓の令嬢、それでいて投稿理由はお金が欲しかったから(!)。仕事を忘れて話し込むうちに、良介はついつい、刑事の兄から聞いた事件の話をしてしまう――。二人の主人公、千秋と良介の紹介編。謎解きはかなり強引で首をひねってしまうが、家の内と外で性格がガラリと変わる千秋、兄と双子であることを利用して刑事のフリをする良介、といったキャラクターの味は上手く出している。問題は、これで終わっても別にいいんじゃないかと思えることだが、それは連作物全てに言えることかも知れない。
『眠る覆面作家』……『覆面作家』のペンネームでデビューした千秋。めでたく最初の原稿料受け渡し、となるはずだったが、約束の日の朝まで徹夜していた良介は見事に遅刻してしまう。意気消沈して家に帰ると、兄がその日にあった誘拐事件と、犯人とおぼしき少女に投げ飛ばされた顛末を話してくれた――。なんか良介が、ちょっと反抗期入った娘を相手にしている親父と化している。こーゆー娘が欲しいのか、作者? とか邪推してしまうのは私だけではなかろう。ちなみにミステリとしては非常に素直にまとまっていていい感じ。
『覆面作家は二人いる』……間の悪いことに、良介は兄と一緒にいる時に千秋と出会ってしまった。何だかんだ言っても刑事、長話をしていたら、すぐに千秋が自分を投げ飛ばした犯人だと気付いてしまうだろう。すったもんだのあげく、三人は良介達のアパートで一服することになる。千秋が帰った後、兄は一つの推理を口にした――。編集部の先輩の娘と姉が登場、少しばかり人間関係が込み入ってくる。今まで、いかにも間抜けな刑事役だった兄が、それなりにらしい所を見せるのも面白い。特に意味はないが、良介の「えげつな!」の台詞は笑えた。
ちょっと浮いたキャラクター達と手の平サイズに収まる事件がマッチしており、軽妙な文体と相まって非常に読みやすい作品に仕上がっています。
トリックを好み、謎解きに熱中するミステリファンには少し物足りないかも知れませんが、ちゃんと筋は通っているので御安心を。
作家がホームズ、編集者がワトソンという構図を上手く利用して、いつの間にか事件に関わって、ささっと解決してしまうという見せ方はお見事。
ただ、千秋のキャラクターについては、何だかなぁという気がしないでもない。
思わずぽかんとしてしまうような物凄い美人で、花も恥じらう清楚なお嬢様。
外に出ると気っ風のいい姐御肌に変身するのだが、微妙なところで弱々しげな仕草を見せる……あ、書いてて頭痛がしてきた。
そもそも、名前が新妻って時点でオジサンの萌え心全開なのは間違いなし。(笑)
外・千秋は最初から良介のことを名前で呼んでたりしますしねぇ……。
まぁ、都合のいいファンタジーって意味では、フェロモン全開で兄貴に迫る『血のつながらない妹』も大して変わんないのでこのぐらいにしときますが。
(おお、また敵が増えた)
息抜きのため、あっさりした作品を読みたいという方に最適。
個人的に引っかかる部分はありますが、作品としてはきっちりしているのでそれなりにオススメです。
☆クロスレビュー!☆
この記事はSENが書いたものです。
LINNの書いた同書のレビューはこちら。
タイトル:覆面作家は二人いる
著者:北村薫
文庫名:角川文庫
であります。
読んだ後で知ったのですが、『覆面作家シリーズ』の第一作。
日常を扱った推理物なのでミステリにしましたが、内容的にはファンタジーです。
短編集なので、一つずつ感想を書いていきます。
『覆面作家のクリスマス』……『推理世界』の編集者・良介は怪しげな原稿と、それを書いた投稿者に会いに行く役目を先輩に押しつけられた。題名が『クリスマス』、著者は新妻千秋。会いに行ってみれば、家は豪邸、作者は深窓の令嬢、それでいて投稿理由はお金が欲しかったから(!)。仕事を忘れて話し込むうちに、良介はついつい、刑事の兄から聞いた事件の話をしてしまう――。二人の主人公、千秋と良介の紹介編。謎解きはかなり強引で首をひねってしまうが、家の内と外で性格がガラリと変わる千秋、兄と双子であることを利用して刑事のフリをする良介、といったキャラクターの味は上手く出している。問題は、これで終わっても別にいいんじゃないかと思えることだが、それは連作物全てに言えることかも知れない。
『眠る覆面作家』……『覆面作家』のペンネームでデビューした千秋。めでたく最初の原稿料受け渡し、となるはずだったが、約束の日の朝まで徹夜していた良介は見事に遅刻してしまう。意気消沈して家に帰ると、兄がその日にあった誘拐事件と、犯人とおぼしき少女に投げ飛ばされた顛末を話してくれた――。なんか良介が、ちょっと反抗期入った娘を相手にしている親父と化している。こーゆー娘が欲しいのか、作者? とか邪推してしまうのは私だけではなかろう。ちなみにミステリとしては非常に素直にまとまっていていい感じ。
『覆面作家は二人いる』……間の悪いことに、良介は兄と一緒にいる時に千秋と出会ってしまった。何だかんだ言っても刑事、長話をしていたら、すぐに千秋が自分を投げ飛ばした犯人だと気付いてしまうだろう。すったもんだのあげく、三人は良介達のアパートで一服することになる。千秋が帰った後、兄は一つの推理を口にした――。編集部の先輩の娘と姉が登場、少しばかり人間関係が込み入ってくる。今まで、いかにも間抜けな刑事役だった兄が、それなりにらしい所を見せるのも面白い。特に意味はないが、良介の「えげつな!」の台詞は笑えた。
ちょっと浮いたキャラクター達と手の平サイズに収まる事件がマッチしており、軽妙な文体と相まって非常に読みやすい作品に仕上がっています。
トリックを好み、謎解きに熱中するミステリファンには少し物足りないかも知れませんが、ちゃんと筋は通っているので御安心を。
作家がホームズ、編集者がワトソンという構図を上手く利用して、いつの間にか事件に関わって、ささっと解決してしまうという見せ方はお見事。
ただ、千秋のキャラクターについては、何だかなぁという気がしないでもない。
思わずぽかんとしてしまうような物凄い美人で、花も恥じらう清楚なお嬢様。
外に出ると気っ風のいい姐御肌に変身するのだが、微妙なところで弱々しげな仕草を見せる……あ、書いてて頭痛がしてきた。
そもそも、名前が新妻って時点でオジサンの萌え心全開なのは間違いなし。(笑)
外・千秋は最初から良介のことを名前で呼んでたりしますしねぇ……。
まぁ、都合のいいファンタジーって意味では、フェロモン全開で兄貴に迫る『血のつながらない妹』も大して変わんないのでこのぐらいにしときますが。
(おお、また敵が増えた)
息抜きのため、あっさりした作品を読みたいという方に最適。
個人的に引っかかる部分はありますが、作品としてはきっちりしているのでそれなりにオススメです。
☆クロスレビュー!☆
この記事はSENが書いたものです。
LINNの書いた同書のレビューはこちら。