つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

お嬢様は最強

2006-02-22 22:40:52 | ミステリ
さて、何だかんだ言いつつ続けて読んでしまう第449回は、

タイトル:覆面作家の愛の歌
著者:北村薫
文庫名:角川文庫

であります。

『覆面作家は二人いる』に続く、覆面作家シリーズ第二段。
一作目はどうかなぁ……と思ったのですが、にゅきみさんたぬきさんのオススメを頂きましたので、続けて読んでみました。
短編集なので、例によって一つずつ感想を書いていきます。

『覆面作家のお茶の会』……春が来て、良介の周囲でも人の入れ替わりがあった。馴染みの先輩の人事異動、ライバル会社に勤める静美奈子との出会い、新人の配属、ゆっくりとだが確実に時間は流れていく。いつものように千秋と打ち合わせをしていたところに美奈子が現れたため、面白くない顔をしていた良介だが、土産菓子が出てから話はなぜか不思議な方向に――。息子の嫁が作ったサンマルクに感動し、修行のため寺に引き籠もってしまった菓子職人を巡るミステリ。例によって千秋が抜群の洞察力で事件の裏を完璧に読み解く。美奈子が千秋の褒め役に徹してるのが引っかかるが、ストーリーとしてはすらっと読めていい感じ。皆の悩みをあっさり解決してしまう爽やかなオチも悪くない。

『覆面作家と溶ける男』……接待でカラオケに出かけた良介は、偶然、千秋と美奈子に出会う。何となく面白くない顔をすると、美奈子は一枚の写真を見せた。そこには、美奈子と一人の少年、そして兄の優介が写っている。帰宅後、その件についてそれとなく探りを入れようとすると、兄は現在関わっている誘拐事件の話を始めた――。不審な男、被害者に良く似た少年、雨と晴れ……数多くのピースが登場し、今までの話の中で最も非常にミステリらしい話になっている。だが、途中で良介が指摘しているように、千秋の推理はちと強引な感じ。優介が美奈子に興味を持つという展開はちょっと面白かった。

『覆面作家の愛の歌』……祐介は千秋、美奈子と一緒に芝居を観に行くことになった。待ち時間の間、美奈子は今まで謎だった千秋の過去を話し続ける。ようやく千秋が現れて楽しい観劇と相成ったのだが、数日後、その舞台の主演女優が殺されるという事件が起きた――。挑戦的な犯人と、物怖じしない千秋の会話がかなり面白かった。トリックも凝っていて、謎解き好きにはたまらない話になっている。ただ、途中まで面白いキャラクターだった犯人が、最後の最後でただの間抜けに落ちたのはちと残念。でも、ラストで祐介に罠をしかける千秋に拍手喝采してしまったので、いいとしておこう。

非常に良くできたミステリ短編集です。
前作は妙にキャラクターの個性を押しつけてくるような感じだったので、個人的には本作の方が好きですね。
相変わらず、無駄のない構成と読みやすい文章であっという間に最後まで読ませてくれます――非常に上手い人、という印象がさらに強くなりました。

ミステリ好き、キャラ物好き、どちらにもオススメ。
本巻で一気に時間が経過しましたが、完結編はどうなるやら……楽しみです。