つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

地上の星座

2006-02-21 23:58:15 | その他
さて、旅先でふと手に取ってみた第448回は、

タイトル:ナスカ 砂の王国――地上絵の謎を追ったマリア・ライヘの生涯
著者:楠田枝里子
文庫名:文春文庫

であります。

ナスカの地上絵に魅せられ、その分析・保護に半生を賭けたマリア・ライヘの生涯を追うドキュメント。
「世界まる見え!テレビ特捜部」「なるほど!ザ・ワールド」等の司会で知られる楠田枝里子著。

地上絵が天文図であると提唱した学者。
正直、マリア・ライヘに対する私の認識はその程度でした。
しかし、本書で印象がガラリと変わりました――この方、本当に凄い。

マリア・ライへは1903年生まれ。
著者がペルーで彼女に出会ったのは1985年。
マリアが故郷ドイツを離れてから、実に53年の歳月が流れていました。

マリアは、長身と言われる著者よりさらに背の高い女性でした。
ドイツ語で話しかけると、親しげな笑みを浮かべます。
過去の話になり、真面目なお子さんだったのでしょうね、と言う著者にマリアは答えました、一つのことに夢中になると他はお構いなしになる性格だったと。(笑)

マリアの過去を追って、ドイツを訪れる著者。
壁崩壊前の東ドイツ、スパイを警戒する空気の中、僅かな手がかりだけを頼りに彼女はベルリンの町をさまよいます。
当然ながら、せっかく資料を得たとしても持ち出しは厳禁、写真も駄目、おまけに町並みはすっかり変化している。

それでも、本人の語る思い出と、彼女が通っていた大学に残された資料、この二つからマリア・ライヘの実像が少しずつ浮かび上がって来ました。
森を駆け回った少女時代、最愛の父を奪った第一次世界大戦、急激なインフレのおかげで進学できた大学、そして運命の募集広告――教師求む、場所はペルー。
何度も挫折しつつも、破天荒な姉と正反対に堅実な妹レナーテや異郷の地で得た親友エイミーに支えられ、マリアは地上絵に挑みます。

ドキュメンタリーと言うより、ミステリに近い感覚で読めました。
ペルーと東ドイツの景色や人々を眺める著者の視点は非常に優しく、自然に出てくる個人的感想も面白いので、引っかかるところもなし。
マリアの足跡を追いつつも、後半では地上絵研究の変遷、その保護活動についても大きくページを割いています。

地上絵の謎解き、と大上段に構えた書ではありません。
しかし、激動の時代を駆け抜け、無理解と戦い続けてきた女性の生涯は、それだけで心を打つものがあります、オススメ。
最後に、我々が現在でも地上に描かれた芸術を堪能できるのはマリア・ライヘのおかげです、これだけは強調しておきたい。