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さんたろう日記

95歳、会津坂下町に住む「山太郎」さんたろうです。コンデジで楽しみながら残りの日々静かに生きようと思っています。

柿の影映して暗い水鏡

2017-11-11 | 日記
冷たい晩秋の雨降りしきる



昨日の爽やかな秋晴れが嘘みたいです。近くの山はたぶん雪なんだろうと思い、身を刺すような冷たい風が吹いています。今年初めての冬型の気圧配置です。


この柿のお庭は空き屋になって久しいお隣のNさんのお宅のお庭です。
Nさんは私より10歳ほど年上のお方でした。横須賀海兵団の海軍中尉で終戦を迎えられ
復員後はあちこちの県の地方事務所をお勤めになられ某地方事務所の所長を退職なさり私の家の隣に新居を新築なさってご夫婦お二人でお暮らしになっておりました。子どもさんたちは皆独立して遠い地に暮らしていたのです。Nさんご夫婦は心優しいお方で私たち夫婦もいろいろと親切に教えて頂いたりご援助頂いたりしておりました懐かしいお方です。

Nさんのお墓にはこんな句を刻んだ石碑あるんです。

「大川を渡れば他郷揚げひばり」

4月の地方事務所職員の移動で転勤なさった時にお詠みになった句だと思います。長年なじんできた前任地から大川にかかる橋を渡ると新任地になる、そのときの前任地を離れる侘しさと新任地に入る時の高揚感が見事に歌いこまれていると私は思うのです。


実はNさんは新居にお入りになって数年でガンでお亡くなりになりました。お墓の句碑には辞世の句が刻まれていました。

「湯のたぎる音して風邪寝人を恋う」

当時はガンは不治の病で患者には決して告知はしないことになっていました。Nさんは自分がガンであることを知らず風邪であると思って自宅で療養なさっていました。Nさんがお休みになられている部屋の隣の茶の間の長火鉢には炭火が熾されていて五徳の上には銀口の南部鉄瓶がシ~ンシ~ンと湯の滾る音を静かに立てていたのです。人徳のある方でしたからたくさんの人たちがお見舞いに訪れましたけど時にはお見舞いの人の絶える時もあたんでしょうね。Nさんはこの句をお詠みになって間もなく遠い地の病院に入院なさってお亡くなりになりました。

奥様は数年お一人で暮らしていらっしゃいましたけどやがてご自分もガンに罹患され遠い地の息子さんのお家で亡くなられました。ご自宅は空き屋になりましたけど息子さんや娘さんがお孫さんを連れてお盆などの節々お帰りになって2~3日お泊まりなさっているようです。

実は私はNさんがこんな素晴らしい句をお詠みになられる方とは知りませんでした。お墓参りの時この句の刻まれて句碑を見て感動して息子さんにお願いして句集を頂いて楽しませていただいているんです。

見事な「身不知柿(身知らず柿)」が採果もされず晩秋の冷たい雨に打たれているのを見て懐かしいNさんことが思い浮かび思わず駄文を書きました。

「大川を渡れば他郷揚げひばり」
「湯のたぎる音して風邪寝人を恋う」

Nさんご夫妻に合掌