迷宮映画館

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道中の点検

2011年05月02日 | ロシア映画シリーズ
今回のロシア文学館シリーズは、中村先生のご希望の作品。当初はいつまで続けられるか、数回で終わるかと思いきや、がんばって続いてます。

さて、今回は71年に製作されたレン・フィルムの作品なのだが、検閲を通らずお蔵入りになっていた。その後、ペレストロイカによって公開されたといいわくつきなのだが、その辺の理由も含めて、鑑賞。

舞台は第二次世界大戦の独ソ戦。ナチスの占領下ソ連の村。パルチザンが村を守りつつ、村人は軍隊について行くしかない状況で、戦闘にも巻き込まれる。ナチスは村を一個一個つぶすように、殲滅作戦を遂行していたと言うが、それが如実にわかる戦い方だ。

過酷な戦闘の最中、一人の男が投降してくる。ソ連軍の伍長だったラザレフ。彼は同胞を裏切って、ドイツ側に協力していたが、またソ連軍に戻ろうとしていた。一度裏切り者のレッテルを貼られた人間が信頼を取り戻すのは困難だ。すぐさま断罪すべきだという軍の少佐の意見を抑えて、パルチザンの隊長のロコトコフは、ラザレフを協力させようとする。

作戦は成功。しかし犠牲者が出ると、ラザレフに非難が浴びせられる。ラザレフが出来ることは、身を挺して精一杯戦うこと。ドイツ軍の食料輸送車を奪う危険な任務につくラザレフ。ここは彼のドイツ側にいたことが役に立つはずだ。途中まで作戦はうまくいった。しかし、途中でドイツ兵に化けていたことがわかる。ラザレフと同じように捕まっていた捕虜がドイツ側に逃げて、戦っていたのだ。それが彼らの正体をばらした。

壮絶な戦い。ラザレフは己を犠牲にして、作戦を遂行しようとする。そして、命を散らす兵たち。

この戦いでソ連の死者は2000万人を超えるといわれている。ラザレフもその一人に過ぎない。数え切れない屍を乗り越え、戦い続け、ソ連が勝ち得たものは一体なんだったんだろう。。。

さて、ここからは先生の解説。監督はアレクセイ・ゲルマンという寡作の方。日本でもわずかしか公開されてないのだそうだが、観客も圧倒的に少ないのだそうで。監督の3作目を東京で上映したときに見ていた観客数は10名。そのうち9名が先生の知り合いだったというオチがついている。

それくらいに名の知れてない監督作品。パルチザンの戦いの様子、ドイツ軍とソ連軍の違い、なぜに村で正規軍とパルチザンが混在しているか・・・等々、戦争の背景を知らないとわかりにくい面があるのは事実。当然、軍の中には捕虜になったものもいれば、やむを得ず裏切りを強要されたものもいるはずだ。

なぜに製作された71年当時、公開が認められなかったのかは、明確ではない。裏切り者がいるということをあらわしてはいけなかったり、いったんは裏切ったものがソ連を救う・・などというシナリオが許せなかったのかもしれない。単に、検閲官の機嫌という話もある。

あるいは、パルチザンの活躍が大きく描かれ、正規軍はそれに追随するしかなかったというのもまずかったのかもしれない。しかし、とにかく描かれるのは戦いというとんでもない大きな力に巻き込まれた人間の無力さや、抗えない宿命みたいなもん。それがソ連にとってあの戦争であり、国家と人々の心に刻まれた大きな傷であることだけは確かにわかった。

「道中の点検」

原作 ユーリー・ゲルマン「"祝新年"作戦」
監督 アレクセイ・ゲルマン
出演 ロコトコフ、パルチザンの隊長:ロラン・ブイコフ ラザレフ:ウラジーミル・ザマンスキー ぺトゥシコフ少佐:アナトーリー・ソロニーツイン インガ:アンダ・ザイツェ ミーチカ:ゲンナジー・ジュジャエフ 少年:ニコライ・ブルリャーエフ


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