北京の街並に残る古い路地、ここを胡同というそうな。古くは元の時代に作られた道路の巾によって定められた名称とのこと。なるほど、『胡』の字がついているのも合点する。『胡』とは中国から見て、北方や西の方の異民族のことをさすからだ。
そのふるい長屋のような街並に暮らす張庚年と秀清夫婦に、1967年、男の子が生まれた。見事に咲いたひまわりから向陽と名づけられる。時代は【文化大革命】の真っ只中、ごく普通の生き方をしていたとしても、いつ何時告発されるかも分からない。何が罪なのかも釈然としない。しかし、自分が追い落とされないためには、別の誰かを祭り上げなければならない。まるで魔女狩りのようだが、その集団ヒステリーのような状況が、中国全土に巻き起こったのがかの【文化大革命】だった。
父はそこで告発され、地方の農場で働かされる。そして帰ってきた。向陽は9歳になっていた。いままで父を知らずに育った向陽は、どうしても「父さん」と呼べない。遊びたい盛りの向陽はいたずら三昧のきかんぼうだったが、父は向陽に絵を描かせる。嫌がる向陽にむりやり描かせるが、彼には才能があった。
北京に大地震があった1976年、毛沢東主席が亡くなり、10年間吹き荒れた【文革】は終る。絵を描かせることに取り付かれたような父。向陽はこの手が怪我でもすればとの思いまで持つようになってしまう。
1987年、大学生になった向陽は、北京から逃れたいと絵葉書を売って小金を貯める。そこで出会ったスケートの上手な于紅とたちまち恋に落ちる。幼なじみの劉軍と広州に行こうとするが・・・・・。
1999年、画家として活動する向陽。父は相変わらず頑固で、融通がきかない。母は、念願だった胡同から抜け出し、アパートに暮らすようになった。次々と壊される胡同の街並。まだ残る古い街並の向こうには、近代的なビルがにょきにょきと建っている。
30年の間、嵐が吹き荒れたように流れていった激動の北京。めくるめく月日の中で、変わらない父の思いがあった。向陽の絵画展を見た父は、初めてその思いを吐露する。
「こころの湯」でじんわりしっとり、北京に住む人々の心情をあったかく描いたチャン・ヤン監督の新作。監督も1967年生まれだそうなので、ちょうどこの時期を生きてきた自分と重ね合わせているのではないかと思う。異常な状況下の【文革】の最中に生まれ、劇的な変化を体験する。そして今、古いものから、新しいものへの劇的な変化。そのことを、画家の親子と言う視点の軸をしっかりとさせて、ゆっくりと描いている。この若さで老練の味さえ感じさせる監督振りだ。上手い。いい。
時折見せるユーモアもちゃんといい味を出している。間の取り方、表情の映し出し、父と友人の葛藤、それを時代に組み込ませる。本もいいが、総合的なバランスが上手く取れたいい映画になった。久々に満足した中国映画だった。
そんでもって付録の歴史講座。この中国がたどったなんとも摩訶不思議な【文化大革命】という10年間の嵐。このことは一体なぜ起きたんだろうという考察をさしてもらった。今回は人数少なめで、小さなにばんかんでの講座だったのだが、こっちの方が私的にはずっとよかった。さんばんかんだと目が泳いで、どこに向かってしゃべったらいいのか・・・難しいんです。
全ては稀代の革命家《毛沢東》という人の生き方が大きく影響した【文革】なのだが、それだけでは片付けられない人間の弱さや、私達の未熟さも大きく関係しているように思える。理想の社会と思えた社会主義は本当は一体どんなものなのだろうか。私達人間には、真の社会主義は理解し得ないのではないかと思うのだ。
理想の社会などこの世にはない。だから人間はまだまだ前進しなければならないのだが、大いなる失敗の【文革】はいいお手本の一つなのかもしれない。
『胡同のひまわり』
監督 チャン・ヤン
出演 スン・ハイイン ジョアン・チェン リウ・ツーフォン チャン・ファン ガオ・グー ワン・ハイディ ホン・イーハオ リー・ビン チャン・ユエ リャン・ジン
そのふるい長屋のような街並に暮らす張庚年と秀清夫婦に、1967年、男の子が生まれた。見事に咲いたひまわりから向陽と名づけられる。時代は【文化大革命】の真っ只中、ごく普通の生き方をしていたとしても、いつ何時告発されるかも分からない。何が罪なのかも釈然としない。しかし、自分が追い落とされないためには、別の誰かを祭り上げなければならない。まるで魔女狩りのようだが、その集団ヒステリーのような状況が、中国全土に巻き起こったのがかの【文化大革命】だった。
父はそこで告発され、地方の農場で働かされる。そして帰ってきた。向陽は9歳になっていた。いままで父を知らずに育った向陽は、どうしても「父さん」と呼べない。遊びたい盛りの向陽はいたずら三昧のきかんぼうだったが、父は向陽に絵を描かせる。嫌がる向陽にむりやり描かせるが、彼には才能があった。
北京に大地震があった1976年、毛沢東主席が亡くなり、10年間吹き荒れた【文革】は終る。絵を描かせることに取り付かれたような父。向陽はこの手が怪我でもすればとの思いまで持つようになってしまう。
1987年、大学生になった向陽は、北京から逃れたいと絵葉書を売って小金を貯める。そこで出会ったスケートの上手な于紅とたちまち恋に落ちる。幼なじみの劉軍と広州に行こうとするが・・・・・。
1999年、画家として活動する向陽。父は相変わらず頑固で、融通がきかない。母は、念願だった胡同から抜け出し、アパートに暮らすようになった。次々と壊される胡同の街並。まだ残る古い街並の向こうには、近代的なビルがにょきにょきと建っている。
30年の間、嵐が吹き荒れたように流れていった激動の北京。めくるめく月日の中で、変わらない父の思いがあった。向陽の絵画展を見た父は、初めてその思いを吐露する。
「こころの湯」でじんわりしっとり、北京に住む人々の心情をあったかく描いたチャン・ヤン監督の新作。監督も1967年生まれだそうなので、ちょうどこの時期を生きてきた自分と重ね合わせているのではないかと思う。異常な状況下の【文革】の最中に生まれ、劇的な変化を体験する。そして今、古いものから、新しいものへの劇的な変化。そのことを、画家の親子と言う視点の軸をしっかりとさせて、ゆっくりと描いている。この若さで老練の味さえ感じさせる監督振りだ。上手い。いい。
時折見せるユーモアもちゃんといい味を出している。間の取り方、表情の映し出し、父と友人の葛藤、それを時代に組み込ませる。本もいいが、総合的なバランスが上手く取れたいい映画になった。久々に満足した中国映画だった。
そんでもって付録の歴史講座。この中国がたどったなんとも摩訶不思議な【文化大革命】という10年間の嵐。このことは一体なぜ起きたんだろうという考察をさしてもらった。今回は人数少なめで、小さなにばんかんでの講座だったのだが、こっちの方が私的にはずっとよかった。さんばんかんだと目が泳いで、どこに向かってしゃべったらいいのか・・・難しいんです。
全ては稀代の革命家《毛沢東》という人の生き方が大きく影響した【文革】なのだが、それだけでは片付けられない人間の弱さや、私達の未熟さも大きく関係しているように思える。理想の社会と思えた社会主義は本当は一体どんなものなのだろうか。私達人間には、真の社会主義は理解し得ないのではないかと思うのだ。
理想の社会などこの世にはない。だから人間はまだまだ前進しなければならないのだが、大いなる失敗の【文革】はいいお手本の一つなのかもしれない。
『胡同のひまわり』
監督 チャン・ヤン
出演 スン・ハイイン ジョアン・チェン リウ・ツーフォン チャン・ファン ガオ・グー ワン・ハイディ ホン・イーハオ リー・ビン チャン・ユエ リャン・ジン
「F通信」も見ましたよ。もう最終回なんですか?
通信そのものも結構楽しみなんです、いまの「F便り」は作品紹介で精一杯ですしね。自分も学生の頃は「便り」に感想書いて招待券もらってた口なんで・・・
今回は知ってる顔が多くて、逆に話しづらい面もあったのですが。
映画自体はよーくできてるので、別に余計な事を言わなくてもいいのですが、ぜひ「さらばわが愛」はごらんになってください。多分、スクリーンで見れる最後のチャンスではないかと思われるので。
F通信、3回シリーズということで今回は終わりです。執筆者を蔵にしこたま貯めこんでるので、次は誰か、また違った切り口で楽しんでください。
なんか要望やら、ご意見やら、ご批判などありましたら、どんどんとリクエストボックスに入れてもらえるとうれしいのですが、どうぞよろしく。
今度こそ映画終ったらご挨拶しなくてはと思ったら・・・すでにわからなくなってしまい(汗)。実は、人様のお顔を覚えるのが苦手なのであります・・・
講座終了後の休憩ですぐに声かければよかったのですね。
ちなみに「LOFT」は、前売り買ったのに、仕事でいけませんでした(泣)。
なるほど、リクエストボックスと言うのがありましたね~。次回も楽しみにしたいです!
「LOFT]は、・・・・・でした。監督の話は人柄の良さがにじみ出てて、とっても良かったので、映画の〇〇はちゃらになりましたが、なんか黒澤監督にしてはキレがなかった、です。
ということで、次回ももしありましたら、どうぞよろしく。帰り際、「皆勤賞なんですよ」なんておしゃってくださった方とちょっと挨拶したのがうれしかったです。