迷宮映画館

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タブロイド

2006年04月13日 | た行 外国映画
マイアミに本拠のあるタブロイド番組のTVクルーが、南米エクアドルに取材に来た。そこでは子供ばかりを狙う“モンスター”と呼ばれる連続殺人犯が、人々を恐怖に陥れていた。

被害者となった子供の葬式に取材に行く。残された双子の弟から、話を聞こうとしようとしたときに悲劇が起こる。聖書販売をしている家族思いの男の運転するトラックに、その子が轢かれてしまう。人々は何かに憑かれたかのように、男を叩きのめす。リンチを加える。TVクルーは、その状況を全てカメラに収める。

ひどい事件や、悲惨な目にあっている場面がTVに流れると、見ている方は「まず撮る前に助けろよ!」と思う。売れっ子リポーターのマノロは、その辺のバランスもきちんとわきまえている。警察も入っていけない人ごみの中に分け入って、撮りながら助ける。こんな画が撮れたら、TV製作者冥利に尽きるだろう。

轢いたほうも、子供を殺されリンチを加えたほうも、どちらも投獄されるが、牢獄の中を自由に移動できる凄さだ。轢いたほうは、身の危険を感じ、悲惨な目にあう。この一部始終を撮っていたTVクルーに、取引を申し込む。あの映像を使って、自分をこの牢獄から自由にして欲しい。その見返りに自分の持っている“モンスター”の情報を話すというのだ。

他にも大きな事件は待っている。一人の男にいつまでもかかわっている余裕はない。衝撃の映像を撮っただけで、すでにクルーは満足している。でも“モンスター”の情報も、・・・・おいしい。時間を決めて、話を聞くことにしたマノロを待っていたのは、真実なのか、虚像なのか。

TVが映すものは真実ではない。TVなど一過性のものだ。しかし、その影響力は何よりも大きい。人は一瞬にしてヒーローに変わり、一瞬にしてヒールになる。TVに映し出された人物は、昨日までの自分とは違うもになってしまうのだ。そのTVのおそろしさも、力も十分に知っている人々が、それを十二分に利用しようとする。

TVに映し出された瞬間から、その虚像は真実になり、一人歩きしてしまう。その恐ろしさを派手な演出もなく、エンターテイメントさのかけらもなく、脚本の持つ強さで遺憾なく見せた。

いまや、犯罪者に定義などないのではないかと思わせる時代になってしまった。ごく一般の常識では考えられないような犯罪が渦巻いている。犯罪者にも家族があり、生活があり、妻を愛し、子供を養っていた。ごく普通の人間が一線を越える何かがあるのか。それを超えたとき、何が違ってしまったのか。本当に私たちはどうしたらいいのだろうと考えなければならない事態に陥ってしまっているのか。そんなことを考えながら、ジョン・レグイザモの悲しい表情が心に残った。


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2 コメント

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見ました・・・ (カオリ)
2006-04-15 01:01:56
冒頭のリンチのシーンがホントに怖かったです。でも、あのような光景が世界のどこかでも実際にあるのかもしれないのですね。

「ホテル・ルワンダ」を見ても思いましたが、報道の影響力って、やっぱりあると思うんですよ。でも、それは事実なのか、恣意的な何かがあるのか。受け取る側の力が試されてる、そんな気もします。
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なんて (sakurai)
2006-04-15 14:30:13
熱いんだあ!などとも思いましたが、後で子供が授からなくて、やっと・・・だったのね、なんて分かってきて、なるほど、と。



いつも斜に構えて見るのは大変ですが、今の世の中、全てを鵜呑みにはできないし、的確な判断力がますます必要になってきてます。

いろいろがんばりませう。
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