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一枚のハガキ

2011年08月30日 | あ行 日本映画
御年、99歳!言わずと知れた新藤兼人監督のまっすぐな、思いのたけがこれでもか!と叩き込まれた作品。やはり、これは見ずにはおられない・・・ということで、拝見いたしました。

すでに戦争も末期。召集される男にもう若いものはいない。掃除部隊として召集された100人のおっさんたち。兵隊の宿舎を隅々まで綺麗にしたあと、彼らに待っていたのは前線に行くこと。。。誰が行くのかは上官の引くくじで決まる。なんとも不条理で納得がいかないことに従うしかない。

フィリピンに向かう船に乗せられることになった定造は、妻・友子から届いたハガキを下のベッドの男に見せる。祭りに日に夫がいないことを嘆くハガキ。「風情がない・・・」なんとも素敵で物悲しい言葉だ。返事を書いても検閲で書けない。自分は絶対に死ぬ。もしかしたら生き抜くかもしれない下の男に、この手紙を受け取ったと妻に伝えて欲しい。それだけでいい。

案の定、定造は戦死。残された妻は年老いた舅と姑に、夫の弟と結婚するように懇願され、言うとおりにするという。情けない、悔しい、やり切れない思いを抱きながら、あねさんと呼ばれる男と床をともにする。しかし、その弟にも召集令状が来る。友子の思いはただ一つ。生きて!

その思いもむなしく、帰ってきたのは白木の箱。小さな幸せすらもむしり取るのは戦争。あの時、どれだけの家族が壊されたのか。夫を兵隊にとられ、生殺し状態にあった妻。意に添わぬ人と無理やり結婚させられる人たち。



人の尊厳を奪い、追いつめ、生きながら地獄に突き落とすのは紛れも無い戦争だ。

監督が体験したことがもとになっているそうだが、100人いた仲間のうち、生き残ったのが6人だけ。運がよかったと言うだけで終わらせていいのか。その運命を握ったのはくじ。そんなくじで、人の命が、尊厳が左右されていいのか!その憤りをなんとかして残さねばならない。そう決意た監督のまっすぐな気持ちが伝わる。

決してスマートな映画ではない。泥臭く、古式然とした映画だが、力とバイタリティに溢れている。これが99歳の人間が作ったものなのかと思うと、こちらも背筋を伸ばして、居ずまい直してみなければならない。

淡々としながら、はっきり、くっきりしたてらいのないまっすぐな映画だった。しっかりと見せていただいた。いつものユーモアも忘れず、いつまでもHな精神もちゃんと描いてくれる枯れない男。

監督の半分しか生きてないのに、疲れた、気力がない、やる気が出ない・・とぐちぐち言ってる自分が情けない。白寿に恥ずかしい。

◎◎◎◎

「一枚のハガキ」

監督 新藤兼人
出演 豊川悦司 大竹しのぶ 六平直政 大杉漣


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8 コメント

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Unknown (KLY)
2011-08-30 21:40:15
銃後の戦争を扱った作品がいくつかこのところありますが、御年99歳にしてこのエンタテインメント性とメッセージ性の両立が素晴らしいと思います。
大竹さんがちと若く描かれすぎな気がしなくもないのですが、だとしても演技の上手さに変わりはないワケで、トヨエツとの2人芝居も素晴らしかった!
最後なんて言わずに撮って欲しいところです。
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>KLYさま (sakurai)
2011-08-31 21:23:05
ははは、大竹さんはちょっと若い設定でしたね。まあ、監督からしてみれば、まだこ娘なのかも知れません。
でも、乙羽さん亡き後、彼にもう一回映画を撮らせようと思わせた女優さんですから、気慨が違いますね、やっぱ。
もう一回、100年インタビュー見直して、監督の思いを再確認しました。
やっぱもう一本、行ってもらいたいです。
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戦争時代 (mariyon)
2011-09-01 07:58:02
この時代を実体験で語れる人は、どんどん少なくなっていますよね。
父も海軍で人間魚雷に乗る口でした。海軍時代の話を聞くといろいろ話してくれましたが、もうだいぶぼけてきて記憶もあやふやですが、人間魚雷に乗る1週間目に終戦になって、運よく生きてかえってきました。80代です。
99歳の監督の実体験!この時代の理不尽さを思うと、今の時代に生きる幸せを感謝しないと…と思います。

>監督からしてみれば、まだこ娘
ですね~~。舞台のような作品だったので、俳優さんの歳とかも気にならなかったし、、戦争映画特有の泣かせ部分がなかったのもよかったです。

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瑞々しい映画 (KON)
2011-09-01 13:01:07
99歳、戦争という情報だけでは図れない若々しさに溢れた映画でした。
出てくる人たちがみな素朴でいい。
何とも言えない明るさに満ちていました。

まっすぐな監督の思いを感じることができました。
大杉蓮さんがものすごく面白かったです。
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>mariyonさま (sakurai)
2011-09-02 08:47:31
子供のときは、死んだ爺さんが戦争の話を始めると、「また始まった・・」って、露骨に嫌がったのですが、勿体なことをしたかなあと反省。
しかし、人間魚雷ですか!それはヒドイ。あれもとんでもの話でしたね。
しかし、戦争の実際の悲惨な話もそりゃひどいですが、その頃の政治とか、理不尽とか、意味不明なもろもろのことが、ごく普通に行われていたと思うと、人間のすさまじさを痛感するばかりです。
貴重でした。
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>KONさま (sakurai)
2011-09-02 09:02:07
新藤監督の作品は、ムラがあるって言ったら失礼ですが、後半息切れかなあ~と感じる作品があるような気がするんですよ。
でも、これはきちんと見ないと!と、居ずまい正して、正座してみないと!!と。
そしてら、結構笑えましたね。
コミカルさとHさをいつまでも表現できる!凄いと思います。
大杉蓮さん!オーバーな感じもよかったです。
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99~ (cyaz)
2011-09-02 12:44:50
sakuraiさん、こんにちは^^
TB&コメント、ありがとうございましたm(__)m

99歳の新藤監督、
この脚本はかなり前から温めていたものらしいですが、
注入された監督の“想い”は映像の上では
意外にシンプルで、
それでいて根底に流れる反戦へのプロテストは
しっかりと描き出されていました
トヨエツと大杉さんとショートコントは笑えましたし、
横綱大竹しのぶ関もウケました(笑)
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>cyazさま (sakurai)
2011-09-02 22:08:46
60年くらい温めていたんでしょうかね。
いい按配に熟成されたと言うか、気負いがなく描かれていたのが、逆にリアリティを感じさせました。
こんだけの体験って、やっぱ凄いですよね。
こういうのこそ、若い人にぜひ見てもらいたいですよ。
嵐あたりに出てもらうと、みてくれるんでしょうかねえ。
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