迷宮映画館

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ブーリン家の姉妹

2008年10月30日 | は行 外国映画
イギリスの黄金時代を作り出したと言われる女王・エリザベス。

彼女の功績は幾多も語られ、あまたの物語が作られてきた。
女性は結婚するもの、後継ぎを生むもの、男の出世の道具になるもの・・、女王であろうと、そうでなかろうと、女はそうでなければならないと思われていた時代に、結婚もせず、政治に腐心し、強国を作り上げたエネルギーの根源はどこから来たものだろうと思っていた。

勝手に私は、稀代の王・ヘンリーの血だと思っていた。しかし、この映画を見る限り、もしかしたらそれは母の血、アン・ブーリンのDNAのなせる技なのかもしれない。そんな気もさせるような作りだった。控えめでたおやかで知的な女性アン。高慢でプライドばかり高く、なにかと実家を引き出して、王を辟易させていたカザリン。そんなイメージを別の視点から見せてくれた。


商人のトマス・ブーリンは、貴族の娘・エリザベスとの間に3人の子をもうけた。女の子はアンとメアリ、男の子はジョージ。3人は年も近く、仲のよい姉弟だった。

出世欲に駆られた父と伯父は、鹿狩りに来る国王ヘンリーに、美しく成長した娘を出会わせる。目に留まり、もし男の子でも生むようなことになったら、一族の栄華は約束されたようなものだ。

そして計算どおり、美しいアンに釘付けになったヘンリーだったが、自己主張の激しいアンよりも、やさしく控えめで、心暖かい妹のメアリに気持ちが移ってしまう。



メアリはすでにウィリアム・ケアリーという商人の息子と結婚をしていたが、人妻であろうと、そんなことは関係ない。夫ともども宮殿に上がり、ヘンリーの寵愛を受けることになる。

王の心を射止めることができず、おまけに王は妹に惹かれた。ショックを隠しきれないアンは、イングランドでも王に次ぐ有力な貴族のノーザンバーランド公の息子と秘密裏に結婚をしてしまう。

しかし、王の許しを得ていない結婚はただのスキャンダルに過ぎない。この結婚は認められないと、解消され、アンは座敷牢代わりにフランスに送られる。

一方、メアリはヘンリーの寵愛を一身に受け、念願の子供を宿す。王妃のカザリンは、子供を生める年はとうにすぎていた。カザリンには女の子しかいない。生まれたのは男の子。しかし、正式な妻ではない女から生まれた子は、単なる庶子だ。



あれほどメアリをやさしく愛していたヘンリーだったが、すでに心は離れている。次に彼の目が行ったのは、かつて袖にしたフランス帰りのアンだった。しかし、アンはただ愛されるだけで満足するような女ではなかった。

ヘンリーの子を生むのなら庶子など生まない。正式な跡継ぎ、王の子を生む!自分は王妃でなければ絶対に王の愛は受けられないと主張する。

そのためには長年連れ添った王妃・カザリンと離婚をしなければならない。敬虔なカトリックであったヘンリーには思いもよらなかったことになる。教皇とも対立することになり、カザリンの故郷の大国スペインを敵に回す。

ヨーロッパの中で完全に孤立してしまうイングランドだったが、それほどまでのことをして手に入れた女性、アンの産んだ子は女の子だった。

アンへの愛もさめたヘンリーの目は、優しく、有力貴族の娘、ジェーン・シーモアに移っていた。どうしてもヘンリーを振り向かせたいアンは、一世一代の賭けに出る・・・。

とまあ、ヘンリー8世にまつわる女性たちの悲喜こもごも、愛憎物語なのだが、いままで我々が抱いていた女性たちの対するイメージとはずいぶん違っている。それは一つの見方として捉えるべきではないかと思う。

実はそうだったのよ・・と判断を下すには、早計だ。いままで、表舞台に出てくるこのなかったアンの姉妹のメアリをクローズアップさせ、こういう愛憎物語もあったのかもしれないと想像をたくましくするのは、非常に面白い。

当時の状況や、暗ーい宮殿、お風呂の入り方やら、種々のドレスなどなど。丁寧で、忠実な描き方に、いたみ入った。しかし、話を劇的にさせるために、ずいぶんとはしょられ、年代の描き方の雑さが気になる。メアリらしき人がヘンリーの寵愛を受け、捨てられ、そのあとアンが召されるのは、実際には10年の間がある。



たぶん、こうだったら面白いだろうなあということを本当らしくしているが、これはあくまでも物語と考えることを忘れてはいけないと思う。

はっきりとした性格をあらわしたアンの解釈も面白かったが、ここは女性としての芯の強さを描いたメアリの生き方が軸のような気がした。

個性の違ういい役柄に恵まれた二人の女優さんはどちらも甲乙つけがたし。どっちもうまい。あとはちょっと可愛そうなジョージ@ジム君もなかなか好演。

どろどろの世界で、唯一良識を表していた母が、狂言回しとして救いだったが、一番印象が薄かったのがヘンリー@エリック・バナだなああ。

上下1000頁ちかい本だったので、映画はずいぶん薄味に感じたのはやむを得ないか。

◎◎◎○

『ブーリン家の姉妹』

監督 ジャスティン・チャドウィック
出演 ナタリー・ポートマン スカーレット・ヨハンソン エリック・バナ ジム・スタージェス マーク・ライアンス クリスティン・スコット・トーマス デビッド・モリッシー ベネディクト・カンバーバッチ オリバー・コールマン アナ・トレント エディ・レッドメイン


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22 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
薄味? (武子丸)
2008-10-30 22:10:48
sakurai先生、こんばんは。

「私がクマにきれた理由」と一緒に本日鑑賞してきました。あんなにドロドロしていたのに、あれで薄味なんですか はーーー、すんごいですね。しかも、アンは王を6年も焦らしたとか。
アンがエリザベスを出産してからは、ケイト・ブランシェットがちらついて、「エルザベス」観たくなっちゃいました。
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>武子丸さま (sakurai)
2008-10-30 22:28:03
どうもお。
薄味っていうか、本を読んでいるもんで、本のねちっこさに比べると、ずいぶんあっさり描いてるなあという印象です。
ハリー・ポッターみたいに、点で描いている?そもそ2時間くらいで見せるもんじゃないなあというのが感じたところです。
あたしとしては、イギリスを根幹から揺るがした国教会の設立の混乱とか、スペインとフランスとの関係あたりも描いて欲しかったなあという贅沢な望みです。
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元々 (miyu)
2008-10-31 06:38:48
原作が小説なワケですし、まぁかなり脚色されてますでしょうね~。
でも、1000ページもあるとそれなりに世界観が
強まりますものね~。
映画になるとそこが薄れて、作り物感が強くなっちゃうのかしら?
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>miyuさま (sakurai)
2008-10-31 08:15:46
上下2冊持ち歩くのが大変です。
いろいろあって忙しく、読むのがなかなか進みません。
結構ねちっこい描き方なのですが、映画の方は年代の描き方に雑さを感じてしまって、すんなり流れに乗れませんでした。
いやいや作りものでいいと思います。あくまでも映画ですから。
宮廷というか、王室というか、この辺のことについてイギリスの人っていうのは、ものすごく好きなんだそうですね。
ゴールデンタイムにさまざまな歴代の王の特集番組を組んだり。人気のTVだとか。
ゴシップは大好きのようです。
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おぉ!原作を読まれたんですね! (あん)
2008-10-31 10:37:10
私も、こういう描き方もあるんだなぁ~と思って観ました。
ヘンリー8世にまつわる女達の描写をすると、際限なく色んな物語ができますよね。

エリザベス1世!
第2のメアリー1世になってもおかしくないはずなのに...。カトリックを弾圧し、それまでの復讐もやれたはずなのに...。
賢明な女王として、長い間、英国に君臨したエネルギーは何処から来たんだろう、と思っていました。

いやはや、この辺りの英国歴史は興味が尽きないですね~!
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うす味…。 (mori2)
2008-10-31 18:18:21
TBいただきました。そうですか、原作からするとアレでもうす味なんですね~。でも、事実は更に濃かったようですね。
歴史モノって、どこまで実像に迫れて、尚かつ
面白く描けるかってのが、出来不出来を左右しますよね。そういう意味で、この映画は合格点だったといえるんじゃないでしょうか?
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>あんさま (sakurai)
2008-10-31 22:54:30
どうもです。
私はエリザベスはもとより、メアリ1世に結構興味があって、もともと調べていたのですが、この二人の姉妹も考えて見ると、凄い姉妹ですよね。
この二人の生い立ちとか、考え方とか、歪み方とか、インタビューでもしたいくらいに興味深々ですわ。

ヘンリーもかなりな軽薄なエロおやじに見られてますし、私も授業ではそこを強調しますが、不安定な時代背景や、イングランドの置かれた崖っぷちの立場の中では、辣腕をふるった王ではないかと思ってます。
べスはその血じゃないですかね。
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>mori2さま (sakurai)
2008-10-31 22:56:28
うす味というか、ダイジェスト版という印象を受けます。
本がとってもねちっこく、丁寧に書かれているもんで。
映画は監督の思い入れが入り込んでる・・という感じもしました。
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sakuraiさんへ♪ (mezzotint)
2008-11-01 00:02:06
今晩は★☆
先日、鑑賞しました。まだレビューは
書いておりませんが・・・・。本を読んでは
いないのですが、期待していた程ではなかった
かな?という感じです。薄味とおっしゃるsakuraiさんと同感ですね。ナタリーもスカちゃんも素晴らしいんですが、作品全体で観ると、
物足りなさがありますね。せっかく注目の女優2人が共演なのに、ちょっと残念な気がしました。
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>mezzotintさま (sakurai)
2008-11-01 18:17:41
うん、そんな感じ。
あくまでもダイジェスト版っていう感じでしたかね。
でも、二人の有名どころを使って、多くの人に興味を湧かせた功績は大きいかと思います。
「エリザベス」だと、女優さんは通好みで、多くの人が劇場に・・という感じではなかったですから。
女性の方をかなり悪目に書いてましたから、女性に恨みのあるのかなあとも思いましたよ、原作者は。
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