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第533回 江戸の難解川柳を楽しむ

2023-07-21 | エッセイ
 以前、「俳句編」をお届けしました(第354回 江戸の難解句を楽しむー文末にリンクを貼っています)。今回は、「川柳編」です。「謎解き 江戸の川柳」(太田保世 里文出版)から、8句を選んでみました。説明文もヒントに、クイズ感覚で謎解きをお楽しみください。

★九十九は選(えら)み一首は考える★
 最初ですから、あまり難解でない句にしました。九十九と一首といえば、そう百人一首の世界です。選者・藤原定家の苦悩(?)を題材にしています。こちらの方。

 他人の代表作1首ずつを選ぶのも苦労しただろうけど、自分のを決めるのも(いい作品ばかりだから?)さぞ大変だったろう、と余計な心配をしています。結局「来ぬ人を松帆の浦の夕なぎに 焼くや藻塩(もしお)の身もこがれつつ」という恋歌に決まり、悩んだだけのことはあったようです。

★男十七女は三十一★
 十七と三十一といえば、俳句と和歌の文字数です。ともに雨乞いのためのものだというのです。  
 俳句は、芭蕉の高弟・宝井其角が、三巡(みめぐり)神社での雨乞い儀式で詠んだ「夕立や田をみめぐりの神ならば」のこと。
 和歌は、小野小町が、京の神泉苑(空海が雨乞いの修法を行なったとされる所)で詠んだ「ちはやぶる神もみまさば立ちさわぎ 天の戸川のひぐちあけたまえ」だとされます。ともに雨が降ったようです。雨乞いが身近な儀式だった江戸の人たちなら、はは~ん、と察しがついたのかも。

★那須余市様を駒込だとおぼえ★
 那須余市(与一とも)といえば、弓の名人。源平の戦いで、平家方の女官たちが船上に立てた扇を見事に射落したことでよく知られます。「駒込」と関係あるんでしょうか。実は、江戸の上駒込村(現在の本駒込あたり)が、駒込「茄子(なす)」の産地で、「夜市」で有名だったから、という語呂合わせです。そうまでして覚える地名、行事とも思えませんが・・・

★仲人口七百五十くらいまで★
 「なこうどぐち」が読めればお分かりですね。嘘八百まではいかないけれど、ほどほどに双方のことを「盛って」夫婦にさせるのもワザのうち、ということでしょうか。本書では、「四百ずつ両方へ売る仲人口」も挙げられています。仲人といえばそんな発想になるんですね。

★日に三箱鼻の上下臍(へそ)の下★
 「日に三箱散る山吹は花の江戸」という川柳があります。「山吹」はその色から小判のことです。一箱千両で、一日に千両の金が落ちるとされた3つの場所を詠んでいます。「鼻の上」は目ですから、芝居、歌舞伎、演芸の世界を、そして、「鼻の下」は口ですから、食べ物、特に魚河岸の繁盛ぶりを指しています。「臍の下」は、そこに用がある例のあの場所、ということでお察しください。

★五万石捨てれば五百石拾い★
 忠臣蔵のエピソードです。五万石捨てたのは、いうまでもなく浅野内匠頭です。で、吉良への刃傷に及ぶ浅野を後ろから抱きかかえて止めたのが、「梶川与三兵衛」で、その「功績」で五百石加増になっています。でも、「事情はどうあれ、覚悟の上だろ。最後までやらせてやるのが「武士の情け」じゃねぇのか」と梶川への江戸町民の評判は散々。そんな空気を詠み込んでいます。

★角力(すもう)好き女房に羽織ことわられ★
 当時、金持ちの相撲ファンは、贔屓(ひいき)の力士が勝つと、着ている羽織を土俵に投げる習慣がありました。現在の座布団とは違って、プレゼントだぁ、という意味合いだったのでしょう。付き人が返しに来てくれるのですが、祝儀をはずまなくてはなりません。小判1枚が相場でしたから、そりゃ女房もことわるはず。

★同じ字を雨雨雨と雨るなり★
 漢字の国ならではの句です。「あめ」「う」のほかに、「春雨」「秋雨」では「さめ」。五月雨では「だれ」、「時雨」では「ぐれ」と読むじゃないか?だったら、「「あめ」「さめ」「だれ」と「ぐれ」る」と読んでもいいだろう、との屁理屈です。「ぐれる」とまで読ませるところには、時に迷惑な雨への思いが込められているようです。

 いかがでしたか?なお、冒頭でご紹介した記事へのリンクは<こちら>です。
 それでは次回をお楽しみに。
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