★★★ 芦坊の書きたい放題 ★★★

   
           毎週金曜日更新

第501回 村上春樹の英語術 英語弁講座40

2022-12-02 | エッセイ
 村上春樹は相当な英語の使い手(のはず)です。現に、数多くの翻訳を手がけています。また、1991~92年の2年間、米国のプリンストン大学の客員研究員としてセミナーの講師も勤めました。ですから、相応のコミュニケーション能力もあると踏んでいます。でも、彼のエッセイで英語に関わるエピソードを読んだ記憶はほとんどありません。謙虚なキャラに加え、自慢するほどのことでもない、との認識なのでしょう。プリンストン時代のあれこれを綴った「やがて哀しき外国語」(講談社文庫)でも、中古レコードショップで珍しいレコードを見つけたとか、珍しい場所を訪れたとかの日常的な話題が中心です。

 ところで、「村上さんのところ」(新潮文庫)という本があります。期間限定のサイトで、彼への質問を受け付け、回答するという企画が行われました。その中から選んだ質問・回答を書籍化したものです。そこでは英語についても、「珍しく」いくつかのやり取りをしています。彼が英語に向き合う姿勢に共感し、有益なアドバイスも得たのを思い出しました。私なりのコメントも含めてご紹介することにします。なお、<  >内は、本書から引用した村上の回答部分です。

★英語なんて必要ないじゃん★
 高校の英語教師から、「将来、英語なんて使わないから必要ないじゃん」という英語嫌いの生徒へ、どう対応するかのアドバイスを求められました。<僕は基本的に、語学というのは興味がある人がどんどん自分で深めていくものだと思っています。やりたくない人にいくら無理にやらせても、単なるエネルギーの消耗じゃないかと。>
 ホントにその通りです。回答の後半では、コンピュータの世界ではすでに英語が共通語になっていること、イタリアとかフランスとかでも英語が通じる時代なったことなどを書いています。ネットでいろんな情報を集めるのに「便利」だ、とか、いろんな国の人と交流できて「楽しい」、とかも出発点にして、興味のおもむくままに「付き合っていく」のが、私の経験上も、おススメです。

★英語の本を読む秘訣★
 彼が英語をどのように学習し、身につけたか、というもう少し具体的な質問には<僕の場合は、「外国語で小説を読む」という行為そのものの素晴らしさそのものにすっぽりはまってしまいました。高校生のときです。日本語にまだ訳されていない本も読めますし、そこには「他人と違うことをしているんだ」という喜びもありました。>
 どうしても読みたい、という気持ちがきっかけで、結果的に英語が身についた、という説明にナルホドと納得できます。私も若い頃、どうしても読みたいペーパーバックを、がんばって読破した経験があります(←ちょっと自慢)。最初の回答の各論として、役立てて欲しいです。

★無人島に持っていきたい文法書★
 仮定法現在と仮定法過去の使い分けができないというニッチでコアな質問に、<「表現のための実践ロイヤル英文法」(綿貫陽、マーク・ピーターセン著 旺文社)は優れた本です(無人島に持っていってもいいくらいです)。>とススメています。
 私もさっそく通読しました。700ページほどと大部ですが、確かに優れモノと断言できます。
 中学、高校で学んだ項目を幅広く、詳しくかつ丁寧にカバーしています。「表現のための」とあるように、作り物でない自然な例文が実に充実しているのが何より素晴らしいです。例えば、
・この近辺では強盗が多いが、殺人は少ない。
・チンパンジーでもその仕事を楽々とできるはずです。
・僕の背中をかいてくれれば、君の背中をかいてあげる。
 およそ文法書らしからぬこんな砕けた例文なら身につけたくなります。数多くの語学書を手がけているマーク・ピーターセンとの共著はダテではありません。
 さらに、2~3ページ毎くらいにコラムがあって、それを読むだけでも楽しめます。
 例えば、" find "という動詞は、「見つける、発見する」などというちょっと重たい日本語が思い浮かびます。でも、コラムによれば、「単に「思う、感じる、印象を受ける」」という日本語があてはまるケースが多いとあります。「それをするのは難しかった」は、
"It was difficult to do that." より、
"I found it difficult to do that."のほうが、「(やってみたら)難しかった」との感じが出せて、「英語らしい」というのです。なるほど、なるほど。

 いかがでしたか?最後はちょっと講座っぽい内容になりました。この記事がきっかけで、「自分なりに」英語をやってみようかな、という人が増えれば嬉しいです。なお、冒頭部分でご紹介した「村上さんのところ」でのやり取りを、以前ネタにしています(第284回「村上春樹がくれたアドバイス」リンクは<こちら>です)。よろしければ是非お立ち寄りください。
 それでは次回をお楽しみに。
この記事についてブログを書く
« 第500回 99と100をめ... | トップ | 第502回 人名いろいろ-5(海外編) »
最新の画像もっと見る