★★★ 芦坊の書きたい放題 ★★★

   
           毎週金曜日更新

第515回 英国流ユーモアのお勉強

2023-03-17 | エッセイ
 イギリス人というと謹厳実直で、ユーモアとは縁遠いイメージ(あくまでイメージですが)があります。たまたま並行して読んでいた2冊の本に、イギリス人のユーモア話が載っていたのが、なかなか笑える内容でした。ねじり鉢巻の「勉強」ではなく、気軽に楽しく「お勉強」していただこうという趣向でご紹介します。最後までお付き合いください。

 「昭和史を歩きながら考える」(半藤一利 PHP文庫)から、ジョージ5世(1865-1936年)とメリー皇后をめぐるちょっとセクシーなエピソードをご紹介(セリフ部分は同書から)。こちらがジョージ5世です。

 二人が家畜の品評会を訪れた時のことです。会場の中央に、飾りをいっぱい付けた立派な牛が展示してあります。皇后が、係員から説明を受けました。「この雄牛には特別優秀賞が授けられました。1日に42回も種付けができる功績が認められたのです」
 そこで、ジョージ5世は声を低くして、「「1頭の雌牛に42回も種付けをいたすというのか?」と尋ねると、係員は「いいえ、42頭の雌牛にでございます」
 ジョージ5世はにっこり笑って「その旨をハッキリと今一度、皇后によく説明するように」」

 ついで、「物語 イギリス人」(小林章夫 文春新書)から3つお届けします。
 まずは、チャーチル首相の登場です。
 劇作家・バーナード・ショウと仇敵同士であったのはよく知られています。ある日、チャーチルの元へ、ショウから手紙が来ました。
「閣下のために、わたしの劇の初日の切符を2枚用意してあります。お友達と、もしおられるのならですが、ご一緒にどうぞ」(同)嫌味たっぷりの招待状です。
 チャーチルの返事がふるっています。
「残念ながら、初日には出席できません。2日目がもしあるのならですが、うかがいます」(同)どうせ初日でポシャるんじゃないの、と言わんばかりの痛烈なお返しで、さすがチャーチル。

 次は、アイルランド系イギリス人作家のスウィフトです。「ガリバー旅行記」の小人国の話がお馴染みで、童話作家のようなイメージがありますが、人間不信、ブラックユーモアに彩られた作品を発表するなど、生涯を通じてその奇人ぶりを発揮しています。同作品の第四部「馬の国」では、馬が人間をこき使うという倒錯的な状況設定です。また、第三部では、不死という人間の夢が現実のものとなった時、いかなる醜悪な世界が現出するかを描いています。一筋縄ではいかない人物です。
 さて、そんな彼の作品の中に「奉公人に与える教訓」というのがあります。同書から、2つの「教訓」を引用してご紹介します。
 まずは、「過ちを犯したときには、常に無遠慮かつ横柄な態度で、被害を受けたのは自分だとばかりの態度をとるのがいい。そうすれば烈火のごとく怒っている主人も、自分のほうから折れてくるものだ。」
 そして、「3回か4回呼ばれるまでは決して行かないほうがいい。1度口笛を吹かれてすぐに飛んでいくのは犬だけである。あるいは主人が「誰かいないか」と言ったときには、行く必要はない。「誰かいないか」などという名前はないからである。」
 いかがですか?奉公人への教訓という形で、階級社会を皮肉るブラックユーモアを感じます。

 最後に登場するのは、極地探検家のスコットです。
 彼が、政治家のロイド・ジョージに南極探検のための資金援助を求めに行くと、南極探検に興味を持っている大地主を紹介されました。
 その地主を訪問後、再びロイド・ジョージを訪問して「うまくいったかね?」と訊かれたスコットの答えがこれです。
 「1000ポンドいただきましたが、もしあなたを探検隊に参加させるとしたら5万ポンド、あなたを極地に置き去りにしたら、100万ポンド出すと言われました」(同)
 ロイド・ジョージが大蔵大臣時代、上流階級、富裕層に負担増を強いる「人民予算」を強引に成立させた事実が背景にあります。これほど強烈なユーモアを放てる気概・・・・これもイギリス人なんですね。

 いかがでしたか?それでは次回をお楽しみに。