当ブログでは、生き物にまつわるいろいろな話題を、小難しい理屈は抜きにして、興味本位で時々取り上げています。
今回取り上げるのは、「本能」です。ヒトに限らず、生き物に、生まれついた時から備わっているとしか考えられない能力、しくみという理解でいいでしょう。
で、最近読んだ「本能」(小原嘉明 中公新書)には、実に精妙で合理的な「本能」の例がいっぱい登場して飽きさせません。本書に拠り「遺伝子に刻まれた驚異の知恵」(本書の副題)の一端をご紹介します。
★母乳を吸うしくみの不思議★
ほ乳類は生まれてすぐ母乳を飲まねばなりません。ヒトでもこればかりは教えるわけにいきませんし、できなければ死んでしまいます。
ストローで飲み物を飲む場合を想像してみてください。飲み物が吸い込まれるためには、口の中は陰圧(外部より圧力が小さくなっている状態)でなければなりません。鼻から空気が入っては陰圧になりませんから、本来なら一時的に鼻から空気を取り込むのを中止する必要があります。でも、ストローを使う時、いちいち呼吸は止めませんし、気にもしないはずです。
結局、口はしっかり乳首に密着させたまま、口の周辺の筋肉とかほっぺたを微妙に動かせて、陰圧を作り出している「ようなのです」。なんだか歯切れが悪いですが、詳しい仕組みは未だに分かってないといいます。ヒトって、ほかの動物に比べれば、経験とか、学習で身につけることが多いですが、この母乳を吸う「本能」には感謝しなければなりません。
★星座を読む鳥★
ルリノジコという鳥がいます。鮮やかな色をしたこんな鳥です。
夏はアメリカ東部で繁殖し、9~10月になると、およそ3000キロメートルも南方のバハマ諸島やメキシコ南部などの中央アメリカに渡り、そこで越冬します。
渡りは夜に行われます。雲がかかって星が見えない夜は、正しい方位を目指すことができません。プラネタリウムを使った大掛かりな実験で、この鳥は、夜空の星を手掛かりにして、方位を見定めることが分かりました。
具体的には、地球から見た宇宙の回転中心、つまり北極星の近くの大熊座やカシオペア座などが作る星座パターンを手掛かりにしていることが分かったのです。
幼鳥を使った実験でも、この能力は確認されましたから、まさに「本能」です。それにしても、星座の情報が遺伝子に刻まれているわけで、驚異、不思議を通り越して、唖然とします。
★多言語を操るメスのホタル★
アメリカに棲息しているフォツリス・ベルシコロルという種名のホタルのオとメスは、光言葉を何度か交わし合い、合意に達すれば交尾します。これだけでも結構スゴいですが、このメスにほもっと驚くべき能力があります。
交尾を終えたメスに仲間のオスが光言葉で誘っても、見向きもしません。もう交尾する必要はありませんから。ところが、近縁の種のオスの光言葉(当然、仲間の言葉とは別)には、巧みに反応、やりとりし、誘うというのです。
誘いに乗ってきたオスをどうするのでしょう?なんと、食べてしまうというから恐ろしいです。出産、子育てに備えて栄養をつけなければならないのは分かりますが、それにしても・・・・
調査によると、この種のメスは、「母国語」のほかに、なんと4カ国語(でいいのでしょうか)を「話す」というから呆れるしかありません。マルチリンガルのおネエさんに誘われて、しめしめとついていったら、待ってたのは地獄だった、というわけです。
英語だけでも四苦八苦している私などからすれば羨ましい限りの「本能」です。同時に、生き物の世界の不思議さ、奥深さをあらためて思い知りました。
いかがでしたか?それでは次回をお楽しみに。