★★★ 芦坊の書きたい放題 ★★★

   
           毎週金曜日更新

第332回 今どき珍しいもの

2019-08-16 | エッセイ

 以前、大の読書好きで、古本の世界にも詳しいエッセイストの岡崎武志さんのことを少し紹介しました(第273回「特殊古書店の話」)。
 最近出版された「これからはソファに寝ころんで」(春陽堂出版)では、還暦を迎えた氏の身辺雑記や本の話が(以前よりも)ユルいトーンで書かれてあって、癒(いや)されます。

 大阪出身ということで,もともと親近感を感じていましたが、今は、私と同じ市に在住だというのをこの本で知りました。私と同じように、最寄りの国立(くにたち)駅周辺にもこまめに足を運んでおられようです。残念ながら遭遇するチャンスには恵まれていませんが、身近な話題、知らなかった情報などを楽しみました。

 さて、この本の中で、国立駅南口のロータリーの出入口にある「横断歩道」のことが話題に上っていました。まずは、写真をご覧下さい。


 右手ロータリーの奥に駅舎が見えます。手前に、片側2車線の大学通り(一橋大に通じています)を渡るための横断歩道が写っていますが、これが話題になっている横断歩道です。

 これだけの道幅があり、交通量も多いにもかかわらず、信号機(車両用も歩行者用も)がないというのが「今どき」珍しいです。私も、時にドライバーとして、また、時に歩行者として、ここをよく通るのですが、いずれの立場でも、実に「快適」で「安全」です。

 信号機がないために、「横断歩道では、歩行者優先」という道路交通法上のルールに運転者側が気づかされます。それを煩(わずら)わしいとか思うことはなく、運転していても、ごく自然に、しかも余裕を持って、歩行者の流れに注意を向けられるのが不思議です。歩行者の時も、早めに止まったり、譲ってくれる車が多いですから、軽く手を挙げて、感謝の気持ちを表し、気持ち早足で渡るのが習慣になっています。

 人をやさしくさせ、交通ルールの原点を思い起こさせてくれる「いい横断歩道」なんですけど、残念ながら、今や圧倒的に少数派です。車用と歩行者用の信号が設置されている横断歩道が主流です。確かに、車用と歩行者用の信号があれば、「双方が信号を守る限り」安全ですから。
 でも、特に運転者の方は「とにかく信号を守る」ことに集中しがちで、「歩行者優先」という原点を忘れそうになります。

 「歩行者優先」が当たり前の外国からのお客さんがやってくる東京オリンピックを控えて、取り締まる側もその事に気付いたのでしょうね、渡ろうとする歩行者がいるのに強引に通ろうとする車への取り締まりを強化する、との報道がありました。現に、この横断歩道でも物陰に潜んでいる白バイを、以前より頻繁に目にします。

 取り締まりの強化や、信号機の増設という役所的、短絡的な発想でなく、今回紹介したような「あえて信号機を設置しない横断歩道」を、「教育的配慮で」設けておくというのもひとつの有効なやりかたではないかな、と考えたりします。

 「珍しい」ついでに、同じ大学通りにあるものを、もうひとつ紹介します。それは「自転車専用道」です。車道の端に自転車の絵をペイントしただけの「横着な」ものが多い中、ここのは本格的な「専用道」です。歩道側から、自転車専用道を撮りました。


 ご覧のように、自転車1台分の幅ですが、通りの左右に1本ずつあって、駅に対して、上り専用と下り専用で使い分けています。車を運転する立場から見ても、歩行者にとっても、自転車って、(便利だけど)やっかいな存在です。
 駅から南へ、3キロほどの区間ですが、車、自転車、歩行者が共存できる仕組みとしての専用道を設けている卓見に感心します。

 また、専用道と歩道の間に、立派な植え込みがあって、その切れ目切れ目にベンチが置かれているのが(部分的ですが)ご覧いただけると思います。これがなかなかのくつろぎスペースで、缶ビールを片手に、ひとり飲み会をやるのが、実は、私の秘かな楽しみ。写真には写っていませんが、手前の歩道も3~4人が並んで通れるほどの幅が確保されています。

 歴史をさかのぼれば、1926年から箱根土地株式会社(現・プリンスホテル)が、東京商科大学(現・一橋大学)を中心とした学園都市構想を立ち上げ、計画的に開発を進めてきた街です。「国分寺」と「立川」の間にあるから「国立(くにたち)」という命名がイージーですが、駅周辺の交通環境の良さは、そのおかげかな、などと感じながら、今日も日課の散歩でうろつき、時にひとり飲み会を楽しんでいます。

 いかがでしたか?次回をお楽しみに。