平家との和平にも応じるし、東国の他の反乱軍の鎮圧が必要ならば
それを討つのも厭わないという内容である。
頼朝は院へ密書を送るのと時期を同じくして自身が上洛する構えを見せた。
必要であれば上洛も辞さないという、院に対する示威である。
これが範頼や東国の諸豪族を当惑させている「上洛」の正体である。
もっとも、これにはもう一つの深謀が隠されているので有るが
それを知るのは頼朝とその腹心梶原景時のみである。
一方密書を受け取った院側近は、この密書を後白河法皇に差し出した。
法皇は坂東に住する源頼朝からの文と知り、目を通した。
これが、他反乱勢力からの文であったならば法皇が目を通すことはなかったであろう。
法皇に過去数度拝謁したことがあり、院近臣に人脈をもつ頼朝の文であったゆえの事、である。
法皇は密書に目をやった。
まず、院には敵対する意志はない、という一文に目が行った。
平家を討たない考えもある、とも書かれている。
法皇はしばし考慮した。
全国で勃発している反乱は「平家を倒せ」という以仁王の令旨に従う形で発ち上がっているのである。
頼朝も「平家を倒せ」というその令旨を受けて挙兵した。
その一文を放棄しても構わないというのか。
法皇は頼朝の真意を図りかねた。
しかし、密書の内容はあくまでも院の意志には従うと書かれている。
「頼朝は院には背くつもりはない」
その内容は法皇を安堵させた。
「平家との和平にも応じる」
この一文は魅力的であった。
法皇は朝廷の廷臣たちが内乱の収束を願っていることを知っている。
その為には反乱勢力との和解をも辞さないという空気が流れつつあることも。
都に住む者達が飢え、苦しみ、畿内の人々が戦によって起きている数々の負担に悲鳴を上げていることも知っている。
そして、何よりも戦によって国土が荒廃することを、法皇も恐れている。
昔から院としての資質を疑われ、政治の実権は現在は平家に奪われている。
それでも、後白河法皇は治天の君である。
国の安寧を、人々の平穏無事な生活を願う心は法皇の中にもある。
反乱勢力のうち頼朝だけでも態度を変えてくれるならば、
泥沼に陥っている全国規模の内乱の終結に向けて希望の光が灯る。
法皇は頼朝の提案を受け入れる決断をされた。
あとは、平家の意志を確認するのみである。
もしこれで平家と反乱勢力の一つである源頼朝との和平に成功すれば
法皇は平家の上段から発言できるようになる。
法皇は、かつて姉宮上西門院の側に控えていた美しい少年の姿を思い出した。
かの少年は二十年の時を経て今東国に在る。
現在はどのような男に成長したのだろうか。
法皇は遠い東国に在する頼朝に思いを馳せた。
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それを討つのも厭わないという内容である。
頼朝は院へ密書を送るのと時期を同じくして自身が上洛する構えを見せた。
必要であれば上洛も辞さないという、院に対する示威である。
これが範頼や東国の諸豪族を当惑させている「上洛」の正体である。
もっとも、これにはもう一つの深謀が隠されているので有るが
それを知るのは頼朝とその腹心梶原景時のみである。
一方密書を受け取った院側近は、この密書を後白河法皇に差し出した。
法皇は坂東に住する源頼朝からの文と知り、目を通した。
これが、他反乱勢力からの文であったならば法皇が目を通すことはなかったであろう。
法皇に過去数度拝謁したことがあり、院近臣に人脈をもつ頼朝の文であったゆえの事、である。
法皇は密書に目をやった。
まず、院には敵対する意志はない、という一文に目が行った。
平家を討たない考えもある、とも書かれている。
法皇はしばし考慮した。
全国で勃発している反乱は「平家を倒せ」という以仁王の令旨に従う形で発ち上がっているのである。
頼朝も「平家を倒せ」というその令旨を受けて挙兵した。
その一文を放棄しても構わないというのか。
法皇は頼朝の真意を図りかねた。
しかし、密書の内容はあくまでも院の意志には従うと書かれている。
「頼朝は院には背くつもりはない」
その内容は法皇を安堵させた。
「平家との和平にも応じる」
この一文は魅力的であった。
法皇は朝廷の廷臣たちが内乱の収束を願っていることを知っている。
その為には反乱勢力との和解をも辞さないという空気が流れつつあることも。
都に住む者達が飢え、苦しみ、畿内の人々が戦によって起きている数々の負担に悲鳴を上げていることも知っている。
そして、何よりも戦によって国土が荒廃することを、法皇も恐れている。
昔から院としての資質を疑われ、政治の実権は現在は平家に奪われている。
それでも、後白河法皇は治天の君である。
国の安寧を、人々の平穏無事な生活を願う心は法皇の中にもある。
反乱勢力のうち頼朝だけでも態度を変えてくれるならば、
泥沼に陥っている全国規模の内乱の終結に向けて希望の光が灯る。
法皇は頼朝の提案を受け入れる決断をされた。
あとは、平家の意志を確認するのみである。
もしこれで平家と反乱勢力の一つである源頼朝との和平に成功すれば
法皇は平家の上段から発言できるようになる。
法皇は、かつて姉宮上西門院の側に控えていた美しい少年の姿を思い出した。
かの少年は二十年の時を経て今東国に在る。
現在はどのような男に成長したのだろうか。
法皇は遠い東国に在する頼朝に思いを馳せた。
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