時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

蒲殿春秋(百九十六)

2007-10-26 04:58:35 | 蒲殿春秋
ほろ苦い気持ちを抱えて安達館へと戻った。
その足取りは重い。
安達館にも範頼の心にひっかかるものがあるからである。
ここのところ安達館の様子が少しおかしいのである。
安達館をいうよりも、藤九郎の娘瑠璃の様子がと言ったほうがいいのであるが。

ついこの前まではずかずかと範頼の部屋に入ってきて
新太郎の世話をしたり、範頼に対して生意気な口を利きに来たりしていたのであるが
ここ数日範頼の部屋に来ることもなく
館の中で会っても直ぐに範頼から目をそらすのであった。

その瑠璃の態度が気にかかる。
━━ 何か嫌われることをしたのだろうか。
とも考えてみるが思い当たる節は何も無い。

当麻太郎にも相談してみるのであるが、こちらも全然女心に疎いときている。
藤七ならば、と思うのであるが
彼は本来の主佐々木秀義の元に帰ってしまった。

それから数日の間も瑠璃の範頼に対する態度がおかしい。
瑠璃がおかしな態度をとるのは範頼に対してだけであって
当麻太郎や家の者に対する態度は全く変わらない。
瑠璃以外のその母小百合などの範頼に対する態度は
変わらないようには見えるのであるが・・・

どうしたものか、と思い悩んでいたある夜
瑠璃の母小百合が範頼の部屋で眠ってしまった新太郎を引き取りにやってきた。
範頼の部屋には赤ん坊の新太郎以外に人はいなかった。
その様子を見て小百合は意を決して範頼に思わぬことを告げた。
「娘があなた様に失礼な態度をとっていることをお許しください。
これには訳があるのです・・・・・」
少しためらってから言葉を続けた。
「数日前、鎌倉殿から娘に縁談が持ち込まれました。縁談の相手は・・・・
蒲殿、あなた様なのです。」

範頼は絶句した。

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