星を見ていた。

思っていることを、言葉にするのはむずかしい・・・。
良かったら読んでいってください。

クリーム色の家(6)

2012-03-10 11:32:57 | クリーム色の家
結局レシートはしばらくそのまま取っておいたけれども、私はその件を切り出す勇気がなかった。結婚式を挙げ、まだ1か月ほどしか経っていなかった。もし浮気だとして、それだからといってどうしたものだろう。ついこの間親戚友人関係者の前で結婚を誓ったそのたった一か月後に、その結婚を破断させる勇気はその時の私には無かった。
あの結婚直後のレシートの件を思い出すと、やはり今回もかなり疑わしいとしか思えなか
った。

私が相変わらずじっと空を見て佇んでいると、夫は台所に行き、冷蔵庫からミネラルウォーターを出しコップについだ。
「どこって御殿場だよ。場所はお前に言ったって分かんないだろう。泊まったのは箱根。」
夫はまくしたてるように言い、箱根の私も一度行ったことがある旅館の名前を言った。
「誰と行ったの?会社の人?」
夫はグラスを流しに置くとそのまま居間へ行きソファにどかっと座った。
「会社のほかの課の人とだよ。会社の人に決まってるだろう。いつものメンバーとちょっと違うけど。」
私が今度は夫の顔をしつこく視線で追いかけていると、夫は私と目を合わさないようにテーブルにあった新聞を手に取り、眺めていた。
「正直に言って。誰と行ったの?」
私は視線を外さなかった。横を向いている夫の顔を凝視していた。
「誰とだっていいだろう。お前に関係ないじゃないか。」
「関係なくないでしょう。昨日だって仕事の件で佐藤さんから電話が掛ってきて、私いつものように佐藤さんと行ってるものだとばっかり思っていたからそう言ったら、佐藤さん、えって感じだったわよ。電話掛ってきたってどこに行ったのかも誰と泊まっているかもわからなければそういう時困るでしょう。」
私の話をさえぎるように「佐藤から家に電話掛ってきたのか?」と夫はこちらを向いて言った。
「そうよ。携帯が繋がらないって困ってた。急な仕事があるからって。恥ずかしかったわ。何も聞いていなかった私も悪いけど。」
佐藤さんは夫と会社で同期の、私が唯一何度も会ったことのある人だった。
「誰と泊まったの?」「誰か、女の人と泊まったんじゃなくて?」
「佐藤たちと違うメンバーだったんだ、今回は。中には女の人もいたよ。だけどそれは浮気じゃない。」
私は昼間電話を掛けてきた佐藤さんの、泊まりで、と言った時の困惑ぶりを思い出した。
「こんな時期に、ちゃんと連絡とれるようにしてくれないと困る。もうすぐ8か月なんだからそろそろいつ生まれてもおかしくない。私も呑気だったけど、だいたい妻が妊娠中だったら遊びに行かないよね。」
私はまた視線を外さなかった。夫はソファから立って今度は荷物を持って部屋へ行こうとした。
「遊びじゃないよ。これだって人脈を作る仕事だろう。」
吐き捨てるように言って、居間を出て行った。
「分かった。もういい。」
私は疲れてしまった。またお腹が張ってきて息苦しくなった。



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