星を見ていた。

思っていることを、言葉にするのはむずかしい・・・。
良かったら読んでいってください。

「無意識はいつも君に語りかける」

2008-04-13 02:47:44 | 
子供に付き合って本屋に立ち寄った。タイトルに引かれ一冊の本を手に取った。

「無意識はいつも君に語りかける」

何気なくぱらぱらと読み出した。平積みで目立つ場所にあったし、デザインからして今流行っているようなスピリチュアル系の本だろうかと思うと買おうとは思わない類の本なのだが冷やかし半分で眺める。

私にしては珍しく5分くらい立ち読みした。そしてこれは買っても良いと思った。
愛は植物を育てることに似ている、にしてもそうだが、最初の方のどのページを読んでも、今の自分の心に静かに刺さってきた。

愛とは信頼。愛とはほどよい距離。
不安は猜疑心。不安は支配欲。
愛を支配や所有で置き替えることはできない。


幸福のポイントは意識内の対話をやめること。それがすべての鍵である。


自分を好きになるということは、他人に優しい自分に出会うということ。



自分を取り巻く状況を打破するには、自分が変わらなければならない、そう強く感じているし、ネガティブな思考ではなくポジティブに、と頭では分かってはいるのだが、私は自分の頭の中の堂々巡りから抜け出せない。
まず、その自分との対話から抜け出さなければならないんだろう。もっと意識の次元を、広く高く。

内的会話をやめ、心の静寂に耳を傾けること。


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天使が通り過ぎた(27)

2008-04-12 18:10:49 | 天使が通り過ぎた
 私は一瞬この人は誰と思ったがすぐにあのケンイチさんだと思い出した。私は勝手に、ケンイチさんの苗字は港という字を書くのだと思い込んでいたのでピンとこなかったのだ。名前を見て、ああ、こういう字を書くのだなあ、とまず思った。住所は東京だったけれども私にはそれが東京のどの辺なのか少しも検討が付かなかった。恐らく埼玉に近いほうの東京と思われた。シンプルな茶色の紙に麻紐のリボンが掛けられた、ややどっしりした包みをそっと開けると、そこにはシュトーレンが入っていた。私はあの日、健一さんが連れて行ってくれたパン工房を思い出した。包みと一緒に白い封筒が入っていて、開けてみるとクリスマスカードだった。白黒の天使の写真だった。カードをめくるとやや斜めに倒れた、まるで英文の筆記体のような癖のある字でメッセージが書かれていた。あの時のことをお詫びしますと言うことと、つい先日たまたまあちらに出掛けたので、何のお詫びもしていなかったのでこれを代わりに送ったと簡潔に書かれていた。メッセージのいちばん下に、名前とメールアドレスと電話番号が書いてあった。

 私が一通り包みを開け、メッセージを読み終わると一緒にいた母が珍しそうにシュトーレンを眺めた。
「珍しいパンね。旅館にベーカリーがあるの?」
 母には健一さんのことは話していなかった。話すほどのことでもないと思っていたし、あの旅行から帰ったとき、私はまだあまり家族とも口をききたくないという心境で、ざっと旅行の行程と何を食べたかくらいしか話をしていなかった。私は今さら事の顛末を話すのが億劫になり、母が旅館から何か送ってきたと勘違いしているのをいいことに何の説明もしなかった。
「クリスマスのパンよ。」
 カードだけをさっと抜くと自分の部屋に戻った。私は自分で、何かが静かに動いているのを感じた。あの雨の日と、狭い車からの視界と、静まり返った空間を思い出した。

 正直に言えば、あの日メールアドレスも電話番号も聞かずにさらっと別れてきてしまったことを、帰ってきてから少し後悔したのだった。でもそれは、旅で起きた特別な、非日常的なこととして、その後何のしこりもなく忘れ去られてしまうようなものだと思っていた。しかし、あそこまで壊滅的に打ちのめされていた自分が、旅行から帰って来たとき少し立ち直れたように思えたのは、健一さんと過ごしたほんの僅かな時間も関係しているのではないかと思ってもいた。そのことに対してお礼が言いたかったのだが、私は健一さんに関する情報を何も持っていなかった。確かに、旅館のおかみの知り合いなのだから、その方面から連絡先を知ることもできたのかもしれない。しかし、心のどこかで、あれは旅行中の一過性のハプニングであってその場で終わっておしまいなのだと思っていた。

 メールでお礼を入れようとすぐに思い立った。クリスマスイブの日だというのに、私は何の出掛ける用事も無かった。健一さんは、もしかしたら彼女とデート中かもしれない。こんな日だもの、と思いながらメール文を作成しだした。私は携帯メールを打つのが苦手で、ほんの短い文章を打つのにもひどく時間がかかる。パソコンのメールだったらいいのにと恨めしく思いながら、つかえながら指を動かした。簡潔に、シュトーレンのお礼とあの時はお世話になった旨を打って送信した。もし彼女とデートしている最中でも、メールだったら無視できるだろうと思いながらボタンを押す。

 メールを送ると予想に反してすぐに返信が来た。そんなことはないだろうと思っていた私は送信が終わると携帯をカバンの中に放っておいたままにしていた。カバンの中で携帯は鈍い音を立てて振動していた。もしかしたら健一さんではなく他の友達からのメールかもしれない、と思いながら開いて見ると、やはり健一さんからのメールだった。

 メール本文を読んでいくうちに、様々な疑問が頭の中に浮上してきた。最初に私のメールに対するお礼と、お詫びが遅くなったことが書かれていた。次に久しぶりだがあれから元気になったかどうかということが書かれてあった。そしてその次に今日自分はクリスマスイブだというのに仕事で横浜の近くまで来ているのだが、もし香織さんがお暇ならこれから会えないだろうか、ということが書いてあった。

 今日、これから会う??
 いきなりの提案にまずは驚いてしまった。
 どうして?
 次にそう思った。
 世界中の恋人たちがこの日に会わなければ罰が下されるとでもいうように、この日は会わなければならない日になっているけれども、クリスマスなんて本来日本人には特別でも宗教的でもないし、それによく考えたら恋人もいない者にとっては余計に普通の日と同じではなかろうか。だが、健一さんは今日たまたま仕事で、そしてやはり、世間のこの浮かれ騒ぎの中、一人でいるというのが何となく寂しくなってしまったのだろうか、と思った。
 健一さんがどこに住んでいるのかは住所を見て明らかだったが、考えてみたら健一さんはどんな仕事をしていてどこで働いているのかさえ知らなかった。それはそうだ。本名をどう書くかだって今日の今知ったのだから。

 私は健一さんが、社交辞令でお会いしようと言っているのか、それとももっと軽い気持ちで言っているのか、それとも意図があって言っているのか、判断ができなかった。だが、そういう気が無かったらわざわざメールの返事に今日お会いしましょう、とは書かないだろう、とも思うし、本当にたまたま近くまで来たから懐かしく(懐かしいというほどの時間一緒にいたわけではないが)思ったのかもしれない。

 私は随分と考えてから、メールではなく携帯の電話番号ボタンを押していた。またちまちました字を打つのが嫌だったのと、声を聞いたら真意が分かるかもしれない、と思いついたからだった。だがいちばんの理由は、あの時の声が懐かしくなってしまったからなのだと、自分では認めたくなかったがそう思った。

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天使が通り過ぎた(26)

2008-04-10 18:16:50 | 天使が通り過ぎた
「じゃあ僕も、」
 ケンイチさんはすこしおどけた風に言った。
「僕もあなたにコーヒーを引っかけてよかったのかな。」
 私はすこしどきどきした。それはどういうことだろう。
「どうしてですか?じゃあ私の気を引くために、わざと引っかけたのかしら?」
 私はすこし大胆なことを言った。もしかしたら、あなたと会えてよかった、とかそんなことを社交辞令として言うのだろうと思った。
「あなたが自殺せずにすんだから。」
 やはりおどけていた。私は慌てて言った。
「だから私、振られたことは間違いないんですけど、自殺なんかするつもりじゃなかったですってば。」
 ケンイチさんはニコニコとして運転をしていた。もしかしたら通彦からの電話のせいで、湿っぽくなった私を見てわざとおどけて明るい気分にしてくれているのかもしれないと思った。
「気をつけて帰ってくださいね。」
 ケンイチさんのその言葉で、私ははっとあたりを見回した。周辺の街の様子から、もう駅はすぐ近くの様だった。私は急に、なぜか寂しい気分になった。
「本当にありがとうございました。知り合いでもなんでもないのに、こうしてここまで送って頂いて。」
 ケンイチさんの車は人の多い駅近くの道路をしばらく走った後、駅前で停まった。交通量が結構あるのでのんびりとしている時間はなさそうだった。
「本当に気をつけて。」
「ありがとうございました。」
 同時に二人で挨拶をしながら、荷物と上着を持って車から降りた。私の中で、何か物足りないものを感じたが、だが私たちは特にアドレスの交換や電話番号のやりとりなどはしなかった。これで、もう二度と会わないのだろう。旅先で会った親切な男性は、穏やかな顔で私を見て、そして私がドアを閉めるとしばらくして発車させた。私はケンイチさんのメタリックブルーの車が、ロータリーを出て見えなくなるまで、ずっと見ていた。

 旅行から帰って数週間、私はだいぶ立ち直ることができた。毎日の生活のリズムが戻ってくると、また以前と同じように規則的に生活をした。朝起きて小さな会社に出勤して、こじんまりした事務所で仕事をし、夜になると家に帰る。夜になると寂しさが、波のように襲ってくるときもあった。寄りかかることのできる人がいないような、何か心に穴が開いたような、そんな感覚はまだまだあった。季節はどんどん寒くなって、私はますます家に閉じこもることが多くなった。そんな私を見て、友人は遊びに誘ってくれたり、大企業に勤める友達は乗り気でない私を合コンに無理やり引っ張っていった。有難いと思う反面、私はそんな気はさらさらなかった。通彦に言われた言葉は、あのショックの後もっと自分を磨こうという気分にさせたけれども、実際そういう場になると怖気づいている自分もいた。そういう席で交わされている会話は、ちっとも私には楽しめるようなものでは無かった。その場の一時的な馬鹿騒ぎとしか思えなかった。私が求めているのはそういうのではなかった。それでいつも、いっそう疲れて家に帰ってきた。

 年末になると周囲はクリスマスだとか何とかで華やかな雰囲気に包まれていた。私は相変わらず規則的な毎日と友人に誘われた場合意外は特に活動を活発にするわけでもなく、静かに生活していた。心の中はだいぶ平静を取り戻していた。通彦のことは、例えば何かの拍子にふと記憶が上のほうに昇ってくることはあっても、日がな一日通彦のことを未練たらしく考えているという状態からは脱していた。ただクリスマスの当日だけはさすがに堪えた。当然友人たちは彼とどこかへ行っているし、私はと言えば家にひっそりといた。あんなことがなければ私も通彦と幸せなひとときを過ごしているかもしれない、そう思った。街中の華やかやイルミネーションは私をげんなりとした気分にさせた。テレビをつけても気が滅入るばかりだった。
 
 母と二人、買って来たケーキを食べていると、家のインターフォンが鳴った。
「香織、何かあなたに荷物が届いているよ。どこ、これ?」
 母が玄関から居間に入ってくると、手に宅配便から届けられた荷物を持っていた。私はまったく覚えがなかった。最近通信販売をした記憶もないし、私宛にまさかお歳暮も届くはずは無かった。私は宛名に書いてある送り先住所と氏名を確認した。それはあの、通彦に振られた直後に泊まった旅館だった。
「へえ、たった一度宿泊しただけでお歳暮が届くの?たいした旅館だねえ。」
 母はもうお歳暮と決めてかかっていたらしく、そんなことを呟いた。私は「まさかそんな。VIP待遇じゃあるまいし。」と言いながら、何が届いたのか見当も付かなかないでいた。しかもあそこに泊まってから随分と日にちが経っているではないか。
「とりあえず開けて見たら。」
 母に言われ包みを解いてみると包みの中にもう一重包みがされていた。そこには旅館とは違う住所と、名前が書いてあった。名前は、湊 健一と書いてあった。

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