時計を見るともう2時近かったが、まだあまりお腹も空いていなかった。エスカレーターを降りながら、さてあとはどこに寄ろうかと考える。家具の階と家庭用品の階を通り過ぎると、子供服の階に差しかかった。エスカレータの降り口の、目立つ場所に子供のマネキンがあり、夏の可愛いワンピース着ていた。もう入学のシーズンは終わったのだろう。それを見ていたらあっと思い出した。従姉妹に赤ちゃんが生まれたのだった。もう数ヶ月経つだろう。まだお祝いをあげていなかった。来月に親戚で集まる席があるので、その時に会うことができるだろう。生まれた直後、病院にお見舞いに行ったときのことを思い出す。学生の頃から自由奔放に生きてきた従姉妹が、結婚し赤ちゃんが生まれるなんて想像もできなかった。家にはほとんど寄りつかず、いつも違う男の子を連れて歩いていたあの子が、ママになっている。数年前まで過食症で嘔吐を繰り返し、がりがりの体をしていた。その病気のために生理も来たり来なかったりだと聞いたことがあった。でも彼女の体に赤ちゃんは宿ったのだ。病院のベッドで、いつもの完璧な化粧ではないすっぴんの素顔で赤ちゃんを抱いている姿を見ると、他の妊産婦さんとまったく変わりがなく、素直に微笑ましい姿だと思った。あれほど子供に縁のないように思われた彼女も、赤ちゃんと彼女の一組の姿を見ていると、まったく自然のように思えた。私は、なぜかそこで神様が彼女をきちんと見ていたんだと、そんなことを思ってしまった。
「何かお探しですか?」
何となく女児の服を手にとって眺めていた私に、店員が声を掛ける。
「ええ。」「女の子で。」
どうして彼女の子供は女の子なのだろう。
「月齢はどのくらいですか?」
新生児の服売り場だった。小さくて、まるでお人形が着るようなフリルのあるワンピースや、柔らかい素材のつなぎ服が並べられていた。その横に小さな、こんな小さい足なんてあるんだろうかというくらいの小さい靴がディスプレイされていた。
「1月に産まれたので、もう4ヶ月くらいですかね。その子に服をプレゼントしようかと思って。」
私が眺めていたのは、股のあるワンピースで、薄い綿の生地のフリルがお尻のところに段々についていた。薄いピンクの縦のストライプ模様が入っていて、可愛いけれど涼しげな印象だった。赤ちゃんのお尻はおむつで大きいので、フリルがあると一層お尻が可愛いのではいかと思った。
「そちらなんか素敵だと思いますよ。」
店員は私の手元を見ながら言った。
「下に長袖のシャツを着せれば真夏だけでなくても着せられますし。」
赤ちゃんにどういう服を着せるのかなんて全く検討もつかない私はただ、そうですか、とだけ答えた。
「おそろいで帽子もありますけれど。」
言いながら店員は別の棚にあった同じ生地でできている帽子を持ってきて、ワンピースに当てた。ちらっと値札が見えたが、驚くような値段だったので、止めておこうと思った。
「じゃあ、こちらのワンピースの方だけで。」
「かしこまりました。」
店員はサイズを聞くと一旦奥のほうへひっこんで行った。その間に他の洋服を手にとって眺めた。
どうして彼女の子供は女の子なんだろう。
結婚もしていなかった彼女が、過食症でがりがりに痩せていて将来子供なんて産めるのだろうかと思われていた彼女が、どうしてあんなに簡単に妊娠し子供を産むことができたのだろうか。そして女の子を産んだのだろうか。
どうして。
手に取っていた赤い色の柔らかい肌着が、滲んでただの赤い布きれに見えた。けれども胸にわき上がってきた感情は一瞬にして高まりそして引いていき、涙はほんの一粒こぼれそうになっただけだった。すぐにまたいつもの、静かな自分に戻ることができた。
「何かお探しですか?」
何となく女児の服を手にとって眺めていた私に、店員が声を掛ける。
「ええ。」「女の子で。」
どうして彼女の子供は女の子なのだろう。
「月齢はどのくらいですか?」
新生児の服売り場だった。小さくて、まるでお人形が着るようなフリルのあるワンピースや、柔らかい素材のつなぎ服が並べられていた。その横に小さな、こんな小さい足なんてあるんだろうかというくらいの小さい靴がディスプレイされていた。
「1月に産まれたので、もう4ヶ月くらいですかね。その子に服をプレゼントしようかと思って。」
私が眺めていたのは、股のあるワンピースで、薄い綿の生地のフリルがお尻のところに段々についていた。薄いピンクの縦のストライプ模様が入っていて、可愛いけれど涼しげな印象だった。赤ちゃんのお尻はおむつで大きいので、フリルがあると一層お尻が可愛いのではいかと思った。
「そちらなんか素敵だと思いますよ。」
店員は私の手元を見ながら言った。
「下に長袖のシャツを着せれば真夏だけでなくても着せられますし。」
赤ちゃんにどういう服を着せるのかなんて全く検討もつかない私はただ、そうですか、とだけ答えた。
「おそろいで帽子もありますけれど。」
言いながら店員は別の棚にあった同じ生地でできている帽子を持ってきて、ワンピースに当てた。ちらっと値札が見えたが、驚くような値段だったので、止めておこうと思った。
「じゃあ、こちらのワンピースの方だけで。」
「かしこまりました。」
店員はサイズを聞くと一旦奥のほうへひっこんで行った。その間に他の洋服を手にとって眺めた。
どうして彼女の子供は女の子なんだろう。
結婚もしていなかった彼女が、過食症でがりがりに痩せていて将来子供なんて産めるのだろうかと思われていた彼女が、どうしてあんなに簡単に妊娠し子供を産むことができたのだろうか。そして女の子を産んだのだろうか。
どうして。
手に取っていた赤い色の柔らかい肌着が、滲んでただの赤い布きれに見えた。けれども胸にわき上がってきた感情は一瞬にして高まりそして引いていき、涙はほんの一粒こぼれそうになっただけだった。すぐにまたいつもの、静かな自分に戻ることができた。