星を見ていた。

思っていることを、言葉にするのはむずかしい・・・。
良かったら読んでいってください。

眠り男(7)

2014-09-13 12:00:54 | 眠り男
寒さが増してきた。このところ目覚めが悪くなかなか朝起きられない。寒くて布団から出られない、というのではなく、とにかく眠いのだ。

 妻は相変わらず仕事が早く終わると僕を連れ出しジョギングをさせた。だからもう大分痩せてもいい頃なのだが僕は相変わらず太っていた。
「ねえ、結構走っているのに何で痩せないのかしらねえ。」
 妻はスーツを着ようとして鏡の前に立った僕を頭のてっぺんからつま先まで眺め、そうつぶやいた。
 僕はそそくさと「じゃあ行ってくる。」と言って玄関に向かった。妻は「あ、待ってえ、私もすぐ支度できるからー。」と慌てだしたが、僕は今日ちょっと早いから、と言い残し先に出た。

 駅までの道のりは徒歩で15分ほどだ。それほど歩くのには苦ではない。僕がなかなか痩せないのは、それは妻のいないところでかなりの量を食べているからだ。妻はせっせとおおまかにカロリー計算された食事を作ってくれるが、僕は会社での昼食や妻がいない時にかなりの量の食品を消費していた。

 寒くなればなるほど、僕の食欲はどんどん増していき、そしてジョギングをしているせいだからなのか今までにはない尋常ではない食欲の波が押し寄せた。朝は軽くコーヒーとトーストを食べて何食わぬ顔で家を出るが、会社の最寄駅に到着すると必ずどこかへ寄ってモーニングを食べた。それで最近は妻より家を早く出る。喫茶店のモーニングの時もあればあまりの食欲を抑えられず牛丼屋に入るときもある。昼は妻がお弁当まで作ってくれるのでいちおうその弁当を食べるのだが一緒にカップラーメンを食べたりパンを追加して食べたりしている。夜は妻の作った夕飯を普通に食べ、妻の視線もあるのでそれ以外には何も食べないが、そのせいで朝寄り道をしてしまうのだろう。

 歩きながら住宅街の家々が目に入る。角の家に柿の木があり、たくさんの実がついていた。随分と今年は豊作じゃないか、とじっと眺めていると何故だが無性にあの実を引きちぎってがぶりつきたいという衝動に駆られてしまった。僕はそれほど果物が好物という訳ではないのに、どうしてそんな衝動が起こるのかよく分からなかった。

 会社の最寄駅に着くと、僕はいつも行くコーヒーショップに入った。僕の様に通勤途中のサラリーマンやOLが次々にカウンターに来ては注文をしていく。僕はカウンターのガラスケースを見ながら、やはりいけないなとは思いつつ何か食べようと思い考えていた。ケースの中の、ナッツがたくさん盛られたドーナツが目に飛び込んできた。僕はあまりこういった物は普段食べないのだが、レジの女の子に勝手に口がそれを注文していた。しかも3個も。「3点、でよろしいですね?」レジの女の子は繰り返した。

 窓際の席が空いていたのでコーヒーとでかいドーナツ三つをトレイに乗せ、僕は席に着いた。窓の外には早足でオフィスに向かう通勤の群れが見える。ドーナツ3個はあっという間に胃に収まった。ぼんやりと眺めていると窓の外にあるどこかの会社の看板に、ガラス越しの僕の姿が映っているのが見えた。カフェは足元からガラスになっていたので、僕の全身の半分が見えいていた。
 僕は一瞬目を疑った。家の洗面所の鏡では顔くらいしか見えていなかったが、こうして全身を見ると僕は自分のイメージしている自分とこの今の自分がだいぶ違うことに気付いた。なんだこれは。これじゃまるでクマだ。ちょっと太った、という域を超えている。これじゃただのデブではないか。

 僕はその看板から目を背け。大きくため息を付いた。これじゃあ妻が憐みの目で僕を見るのも分かる気がする。病気を気にするのも分かる気がする。これじゃあメタボ中年まっしぐらだ。僕は妻のほっそりとした腰とか、背中を思った。僕もついこの間まで、中年になったら会社の上司のようなメタボおやじにはならないぞと思っていたではないか。なぜこんな急激に太ってしまったのだろう。そしてこの押し寄せるような、何か使命感すら感じてしまうようなこの切迫した食欲はなんだろう。どうしてこんなに食欲が出てしまうのか。高校生や大学生の時だってこれほどの異常な食欲はなかったであろうに。何かがおかしいのだろうか、それとも僕のこの自制心のなさがいけないのだろうか。
 僕は席を立った。明日からはここへは来ないぞ、と心の中で思った。

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眠り男(6)

2014-02-15 13:16:05 | 眠り男

仕事から帰り玄関を開けると「おかえり!!」と妻の元気の良い声がした。奥から出てきた妻はスウェットの上下を着て、玄関にはスニーカーが出してあった。


「今日は仕事早かったからさ、一緒にこれから走ろう。」


僕はちょっと気後れし、正直面倒だなと思った。仕事が早かったとはいえ中々忙しい一日だったのだ。今日は外回りを一日したし余計に疲れてもいた。


「今から?」


僕はあまりスポーティではない妻がこんなスウェットを持っていたのだと頭の隅でぼんやり思った。


「明日休みだから今日はちょっと疲れちゃってもいいじゃない。行こ行こ。」


リビングに入ると僕の分のジャージも用意されていた。いつもジムに来ていくやつだ。


仕方なく僕はのろのろとジャージに着替えだした。


「ビール冷やしておいたからさ。ご飯も支度してある。終わったらすぐシャワー浴びてご飯に出来るよ。」


まあビールと言っても最近は糖質オフの第二のビールなのだが。妻の笑顔には悪意は全く無かった。きっと妻も僕のジョギングに付き合うべく仕事を早く終わらせてくれたのだろうと思った。


 


家から20分ほどのところに運動公園があり、その外周がジョギングコースになっていた。僕たちはウォーミングアップでそこまで歩き、その外周を走り出した。


ここで定期的に走っている人が案外いるらしく、僕たちの他にも数人がもくもくと走っていた。


「私遅いから、私に合わせなくても早く走りたかったらいいよ先に行って。」


妻はそう言ったが、週末のジムやプール通いだけしか運動していない僕だって早く走れるわけはない。しかも僕は最近の体重増加で体が重くなっていた。


「いや、走るのなんて久しぶりだからいいよゆっくりのが。」


僕たちは最初たわいもないことを話しながら走ったが、そのうち苦しいためか話すネタが尽きたためか無言で走った。はあはあと息を吐く音と、時たま道路を走る車の音だけしか聞こえない夜の町で走るのは、なかなか新鮮なことだった。


妻は走る早さこそ遅いが、スリムな体型でもあり走るフォームは綺麗だった。学生時代は運動部ではなかったはずだが意外と長い時間走っても根を上げない。


「結構走れるんだね。なんかしてたの?」


息を切らしながら尋ねてみる。


「私子供の頃、兄が喘息持ちだったから、喘息にはマラソンするのがいいってことで毎朝家の周辺をジョギングさせられてたの。兄のついでに。」


「そうなんだ。」


妻の兄とは以前一回しか会ったことが無く、あまり仲が良くないようで印象がない。


「私短距離はダメなのよ。いつも徒競走ってビリで。でもマラソン大会とかは案外いけたんだ。って言っても徒競走よりは普通に走れるってレベルだけど。水泳もしてたしね。」


そういえば妻はたまにジムのプールについてくると、やはり早くはないのだが綺麗なフォームで泳ぐことができた。ゆっくりならかなり長い間泳ぐこともできるようだ。


僕たちはちょっとした休憩を挟みながら1時間ほどゆっくりと走った。汗をかいた後夜空を見上げると星がきれいに見えた。星なんか見るのは随分と久しぶりなので「ねえ、星がきれいだよ、見て。」と妻に思わず言うと、「うーん、今日はちょっとあんまり見えないわね。」と妻はしれっと言った。「私毎日星見てるんだ。星を見てから家の玄関入るんだ。」と空を見上げながら言った。妻の横顔を見ながら、僕の知らない妻についての小さなことが意外とあるのだ、と思った。




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眠り男(5)

2013-04-20 15:41:34 | 眠り男

 秋が深まると、僕の食欲はさらに加速を増して行った。ちょと前、妻に幸せ太りを指摘されたが、こうなると最早幸せ太りの域を超えていた。  風呂から上がり、脱衣所に置いてある体重計に乗ってみる。僕の体重はいつの間にか80を超えていた。それほど身長も低い方でもないが、いちばん痩せていた頃から20キロ近く増えている。

 洗面台に映った自分の上半身を見ていると、顔つきさえ痩せていた自分とは違っているような気がした。何というか、人の良いおじさんのようである。鏡越しに妻が洗濯物を持って脱衣所に入ってくるのが見えた。僕は一瞬悪いことをしているかのようなバツの悪さを覚え、そそくさと体重計を足で棚に押し込んだ。妻は鏡越しにちらっとこちらを一瞥し、何も言わず扉から出て行った。  

 元々僕はそれほど大食漢な訳でもない。旨いものは好きだが、食に執着する質ではないと思っていた。だがここ最近の食欲のありようはどうだろう。涼しくなるにつれて僕は食べるものが全て美味しく感じられ、食に対する欲が増していくのが分かった。最初は妻の料理の腕が上がったためとか、またちょっと太りだしたので休みの日はジムに通うようになり、その反動でますます食欲が湧くのでは、とも思った。しかし、そういう程度ではなく、僕のこれまでの人生で最も食欲があると言ってもいいくらいに異様な食欲なのだ。中高生の頃も食べても食べても食べられる時期がいっときあったが、あの頃は体の成長のためにエネルギーを欲する理由があったのだろう。だがこんな30も半ばになってこの食欲はどういったことかよく分からなかった。特にカロリーの高いものを好むようになったのも太る原因であろう。なぜか太るようなものばかりを食べたいと思ってしまうのだ。

  妻はそんな僕を、文句こそ言わなかったがたまに憐れむような目で見ているときがあった。ジムのプールに行く時はたまに付いてきて一緒に泳ぐこともあったが、週に1日や2日ジムで泳ぐくらいでは僕の体重増加には何の効果も無かった。

  「ねえ、夜一緒に走る?」 

  ある日の夕食の後、妻はこう言いだした。

 「なんかあなた、最近はご飯食べるとさっさか寝ちゃうし、食べて寝るのが余計いけないんじゃないの?」

   僕は確かに、ここ最近夜はものすごい睡魔に襲われた。数ヶ月前、妻が社員旅行でいなかった時の、空白の一日というほどではないが、目覚ましをかけないと確実に起きられなかった。夜早く寝るので朝早く目覚めるのかと言えばまったくそうではなく、寝ても寝ても眠くなるというのが正直なところだった。

   「そうだな。ちょっと何とかしないといけないよなあ。」 僕はしぶしぶ承知した。

  妻はそれと同時に、食事の際カロリー制限をするようになった。あまりにも太りすぎてきたので、見た目はともかく成人病が心配だというのだ。夕食時妻は成人病、とくに糖尿病の恐ろしさについて延々と30分ほど僕に説明をしだした。遠い知り合いで糖尿病の人がいるが食事制限が大変であるとか、失明などの合併症が怖いとか、これから子どもをつくるかもしれないのに親がそんなでは困るだろうとか。僕は正直うんざりした。そんなことは僕だって分かっている。病気はともかく僕だって自分がどんどん醜い姿に変わっていくのは嫌だ。洋服だって何度買い直しているのだろう。 「あなたのこと心配だから言うのよ。」 最後には決まってこう言った。

 分かってるよ、僕は毎度心の中でそう思った。この感じ、何だかこういう感じはどこかで感じたことがある、そうだまるで母親みたいなのだ。妻というのは可愛い存在ではなかったのか。いつから彼女は恋人のような存在から母親のような存在になってしまったのか。僕たちにはまだ子供さえいないのに。僕は成人病の怖さをずっとしゃべり続ける妻を、まるで赤の他人を見るようにまじまじと見つめた。

 

 

 

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眠り男(4)

2013-01-01 17:29:50 | 眠り男
 それからしばらくは、僕は睡眠に関することをすっかり忘れていた。テレビを見ていて突然落ちてしまうということも無かったし、朝おきたら丸一日抜け落ちていたということも無かった。このとことろ仕事が忙しく、家に帰ったらもう寝る時間だし、また朝は妻が大抵僕よりは若干早く起きていて、僕が寝過ごしても起こしてくれるのが常であったから寝坊をしないですんだ。

 ある土曜日の朝、寒さがだいぶ増してきて布団の中でグズグズとしていたが、無性に空腹感を覚え妻より先に起きた。妻は休日くらい寝坊をさせてとなかなか起きてこないので僕はひとりでキッチンに行きブランチの準備を始めた。
 このところ妻も忙しく、夜も遅い時があるし休日の朝もこうして寝坊することも多いので一人でちょっとしたものなら作れるようになった。僕は冷蔵庫を開けて、適当なものを取り出した。ベーコン、卵、牛乳、ブロッコリ。
 あまり考えずに一通り作った順にテーブルに並べた。ベーコンエッグ。ブロッコリーときのこを炒めたもの。トースト。カフェオレ。りんご。ヨーグルト。ナッツの入ったシリアル。
 新聞を読みながら食べ始める。少しすると妻が起きてきた。
「わあ。豪華な朝食ね。ホテルの朝ごはんみたい。」
もしかしたら妻は僕が朝食をつくり終わるタイミングで入ってきたのかもしれないというくらい適度なタイミングでダイニングテーブルに付いた。
「なんか幸せね。休日の朝、寝坊をしたら朝食ができてるって。しかもこんなたくさん。

僕たちは遅い朝食を食べ始めた。なんとなく、新婚旅行で行ったイギリスを思い出した。どのホテルに行ってもB&Bに行ってもこのような組み合わせの朝食が出てきた。普段少食の妻もあの時はよく食べた。食べたはいいが夕方近くまでお腹が減らなくて、本当はあそこで英国式お茶をしたかったのにと言って残念がっていた。
 そんなことを思い出すと僕は幸せな気分になった。妻は休日の午前中にやっている情報番組をのんびり見ながら美味しそうに朝食を食べる。僕は新聞を片手にかなり早いスピードで口を動かした。

「ねえ、最近あなたよく食べるわね。」
妻が僕の方を向いて突然言った。
「そうかな。」
僕はそんなことを気にしたことが無かった。
「なんか少し、ふっくらしたような気がするけれど、気のせいかな。それとも太ったかな。」
妻は僕の顔をまじまじと見つめ、そんなことを言った。僕はそんなことを言われるほど太ったのだろうかと内心少し驚きながら、そういえばジーンズで若干きつめのものがあることを思い出した。
「そうかな。幸せ太りじゃないのかな。」
そう言ってごまかしては見たが正直少しショックだった。妻は僕の外見を気にする質ではないが、まだ30代であるのにメタボ体型には自分でもさすがになりたくは無かった。
「みんなそう言うのよねー。結婚して太るとねー。」
妻はからかうように言った。
「実際にそうだから仕方ないじゃないか。」
新聞から目を離さずにぼそりと言ってみた。
「そう?良かったね。私と結婚して。」
そうだな。それは心の中で言ってみた。
「なによー。無視なのー?私と結婚して不幸せー?まあいっかー。」
妻は自分の食べ終わった皿をシンクに下げに言った。
妻の後ろ姿はほっそりとしていて、何年もまったく変わらなかった。それでもこれからもし出産でもしたらぶくぶくと太ってくるのだろうか。僕も年を取ると職場の上司みたいにだらしなく太ってしまうのだろうか。そんなことをちらと思った。



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眠り男(3)

2012-08-11 13:26:09 | 眠り男
その日の朝はいつものとおり出勤した。
駅に近づくと、急ぎ足のサラリーマンや学生達で駅は通常並みに混雑していた。間違いなく、これは休日の朝ではなく平日の朝の混雑ぶりだと思った。
いつもの車両のいつもの場所で吊革につかまり、読みかけの本を開いた。本を読もうとしたが集中できなかった。それで音楽を聴こうと思いイヤホンをした。多少周りから遮断されている感じはしたが、音楽そのものは何も聞いてないも同じだった。

寝過ごしてしまっただけだ、と言えばそうなのかもしれないが、自分の中から一日近くが抜け落ちてしまっている、そういう感じだった。ふと見上げた車内広告にはデパートのセールのポスターがあった。セールの期間の日付を見た。年も月も合っている。僕は馬鹿馬鹿しいと半ば思いながらも、自分だけが何か違う時間軸を生きているのではないかという
錯覚に陥りそうになった。時空のひずみにはまって、僕だけ時間の過ぎるスピードが遅くなっている、とか。ということはここに居合わせた電車の乗客達は僕よりほんのちょっと未来を生きている人たちなのか、それとも僕が未来を生きていてこの人たちがほんの少し過去を生きているのか。時間を盗まれるってこんな感じなのかもしれない。記憶を盗まれるのもそうなのかな。記憶が盗まれるっておかしいな忘失か。

やはり馬鹿馬鹿しい。無呼吸症候群とかそういったものなのかもしれない。睡眠はとっていても体が疲れを察知していたのかもしれない。それとも案外人間は起こされなければいつまでも眠れるものなのか。世界最長睡眠時間て何時間なんだろう。ギネスとかそういうのに記録があるのだろうか。案外すごい何日も眠り続けた記録があるのかもしれない。

前の座席に座っている中年の男が新聞を広げていた。新聞の日付は確かに月曜日だ。やはり今日は僕の思っている今日で間違いない。そういえば新聞を見てくるのを忘れた。あまりのショックにいつもどおりの行動ができなかったのだ。目の前の男が株価のチェックをしているというのに僕は僕の無くなった一日に頭を巡らしている。空想小説じゃあるまいし。吊革にぶら下がりながら朝からこんなことを考えている自分が嫌になった。今日は月曜日だ。これから先の一週間を思うと、ひどく長いものに感じた。

その日の夜、旅行から帰ってきた妻は旅行の工程と食事内容などを一通り話し終えると「で私のいない間何してたの?」とついでのように聞いてきた。
「何って、別に。」
僕はこう答えるしかなかった。土曜の夜寝たきり、月曜の明け方まで目覚めなかった、なんて話したら、普段から僕の睡眠異常を気にしているのだから、何を言われるのか分からなかった。
「そうなんだ。どうせ私いないし飲みにでも行ったかと思ったわ。」
そう言いながら洗濯物や化粧道具などを鞄から取り出し片付けだした。
「でも、家が落ち着くわね。やっぱり。お土産においしいもの買ってきたから今日はそれ食べよう。」
妻はにこにこして台所に立っていった。そうだ、こいつがいると僕も落ち着く。今日は一緒に寝る人がいるのだから、次起きたら水曜だったなんてことはないだろう。僕は妻の後を追って台所に行き、一緒に食事を作り始めた。


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眠り男(2)

2012-07-01 20:09:38 | 眠り男
それから僕は、昼でも夜でも唐突に異様に眠くなるということがたびたび起こった。
睡眠はそこそこ取っている。夜は12時か1時頃には寝るので5,6時間は寝ているだろう。
人によって必要な睡眠時間というものは違いがあるらしいので、僕には睡眠時間が足りないのだろうと最初は思った。朝の起床時間は変えられないので夜早く寝るようにした。といっても残業や付き合いがあると遅く帰宅するので仕方ないのだが、何もないときは早く寝るようにした。

夜型の妻はそんな僕を、もう寝ちゃうの、つまんないなあ、と言っていたが、たった今話をしていた僕が次の瞬間には眠りに落ちていることなどが度々あると、何かの病気じゃないのかと心配してくれたりした。
僕自身は病気だとは思わなかった。ごくたまにこういったことがあったにせよ、体は何の問題もなかったし、それに十分な睡眠を取った後にはそういったことはあまりないように感じたからだ。

だがある日、これはちょっとおかしい、と思うことが起こった。
土曜の夜、その日は妻が会社の社員旅行に出かけていていなかった。どうせ妻もいないし、休みなので目覚ましを掛けなかった。翌朝随分と遅い時間に目が覚めた。深く眠ったという感覚が体にあった。感じ的に昼ごろではないかと思い時計を見ると時計は3時を過ぎていた。

夕方3時まで一回も起きずに寝過ごしてしまったのか。僕は呆れた。
しかし夕方にしては辺りはやけに暗かった。カーテンを開けてみた。辺りは暗く、静まり返っていた。そばらく考え、そして今は朝の3時なんだと理解した。随分長い間眠った感覚が体中にあったのだが、案外3時間ほどしか寝ていなかったのだ。メガネを掛けもう一回時計を見た。やはり3時10分過ぎだった。秒針もきちんと動いている。

まだ朝まで時間があるのでそのまま寝た。ほんの3時間程度しか寝てない割になかなかそれ以降寝つけなかった。そのうちだんだんと夜が明けてきた。布団の中でもぞもそとしているうちに携帯のアラームが鳴った。

目覚ましの設定は平日だけにしてあるし、昨晩は掛けないで寝たはずだがいつのも癖で掛けたけたのだろうか、と一瞬思い時間を見てみると6時だった。いつのも起床の時間だ。
頭の中で、時間の感覚がよく掴めないままじっくりと携帯の時計を見た。
デジタルの数字を数秒間見つめた。曜日の表示が月に見えるが間違いだろうかと思いつつさらにじっと見た。最初は理解できなかったがやはりそれは月曜の朝6時だということが分かった。

何か腑に落ちない感じがして、とっさにベッドサイドにあるテレビのリモコンに手を伸ばし電源を入れた。
やはり月曜だった。いつも見ている平日の朝の情報番組をやっていた。

僕は何時間眠っていたのだろう。
丸一日以上眠っていたのか。
さすがにこれはおかしいと思った。土日は目覚ましを掛けず寝坊することは多々あるがどんなに遅くても昼前には起きていた。
酒を飲んだわけでも、睡眠薬を飲んだわけでも、寝不足だったわけでもないのに。
僕は自分の体の状況を、うまく把握することができなかった。

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眠り男(1)

2012-06-28 21:03:12 | 眠り男
仕事中パソコンに向かっていると、急に眠気が襲ってきた。
あくびが出でくるような単純な眠気ではなく、頭の、脳の奥のほうで、まるでコンピューターがフリーズする前に動作が重くなるように、自分の頭の奥がひどく重たくなるのを感じた。
「秋元さん、大丈夫?」
向かいの机に座っている同僚の女性が、山積みの書類越しにこちらを覗き込んだ。
このまま目を閉じたらきっと即座に眠りに落ちてしまうだろう。体がだるく返事をするのも鬱陶しく感じたが「いや、大丈夫だよ。」となんとか答えた。

しばらくじっとしていたが、じっとしていると体が見えない穴の奥底に落ちていきそうな感覚にだったので、むりやり立ち上がりトイレへと向かった。用を足すつもりはないが涼しいところへ移動したかった。トイレは常に窓が開け放たれ、オフィスよりも幾分は涼しかった。
鏡に映る自分は特段顔色が悪いようにも思えなかったが、気のせいかやや顔色が青白いようにも見えた。冷たい水でざっと顔を洗う。頭が少しすっきりして席に戻ると先ほどのあの異様な眠気はなくなっていた。

今日は残業もなく、いつもより早く家に帰ることができそうだ。
妻からはちょっと遅くなりそうだとメールがあった。帰りにスーパーに寄って、何か買っていこうと思う。僕は簡単な料理なら何とかできる。
家に帰りサラダを作った。作ると言うほどのものでもなく、ただ野菜を洗って切ってそしてドレッシングをかければいいのだ。僕にもできる。
あとはステーキ肉を焼けばいいだけだ。スープは缶詰があるからそれでいい。
妻の帰りを待った。これから電車に乗る、とメールがあったので、今日はステーキだよ、と返事をした。

帰ってきた妻は手ごろなワインを買ってきた。
「おかえり。」
玄関でキスをした。
僕たちは新婚3か月だ。新婚だけどずっと付き合ってきたので、新婚と言う感じがしない。だけど仲はいい。新婚3か月で仲が悪いということもないだろうが。
僕が言うのもなんだが、妻はかわいらしい。かわいいと言っても取り立てて美人とか可愛い顔をしているというのでもないのだが、その立ち居振る舞いというか雰囲気というか存在感というか、どう表していいのだか分からないのだがかわいいのだ。だがきっと、傍からみたらただの平凡な女だろう。良くも悪くもない、普通の女。

食事が終わり、妻は風呂に入り僕はテレビを見ていた。
また来た、あの感じが。
テレビの画面が遠くに感じられ、声が良く聞こえない。頭の芯のほうで意識が薄くなる感じ。このまま目を閉じて眠ってしまいたい。
事実そうしてしまったのだろう。妻の声で目を覚ました。
「風邪ひくよ、こんなところで寝ちゃ。お風呂に入ってちゃんと寝ないと。」
体はひどくだるく、力がよく入らない。ワインのせいなのだろうか。それほど飲んでいないのに、とぼんやりした頭で思った。



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