星を見ていた。

思っていることを、言葉にするのはむずかしい・・・。
良かったら読んでいってください。

クリーム色の家(5)

2012-01-31 17:01:20 | クリーム色の家
あれは結婚して、2か月経ったころだった。クリーニングに出そうと夫のコートのポケットを点検していると、紙屑が出てきた。レシートだった。
最初は特に気にもせずそのままゴミ箱に捨てようと思った。ふと思いつき、もしかして会社で必要なものだったら困ると思い丸められたレシートを広げてみた。ホテルのレストランだった。そのホテルが結構有名なホテルだったので、つい中身を子細に見てしまった。確かそのホテルの最上階にあるフレンチかイタリアンのお店だった。会社の人と行ったのだろうか?それほど疑問には思わなかったが日付を見ると思い当たる節があった。つい一週間ほど前、夫が珍しくひとり実家に帰って急に泊まって帰ると言った日だった。

頭の中にさまざまな疑問が浮かんだ。誰とそこへ行ったのか。実家に帰るというのは嘘だったのか。私とはこんな高価な店には滅多に行かないのに会社の接待の関係か何かで行ったのか。土曜日なのに?食事だけなら何も泊まってこなくても、家に帰ってくればよかったのではないのか。それともそのホテルに誰かと泊まったのか。会社の人?それとも他の誰か?

私はクリーニングに出す予定のないスーツやコートまで、ありとあらゆる洋服のポケットの中を探りだした。ホテルそのものの領収書は出てこなかったが、どこかの店らしいレシートは数枚出てきた。名前と金額から、そこそこいいお店のディナーの領収書だと思われた。よくよく日付を見て思い返してみると、飲み会があるから、と言って遅くなった日だった。

レシートを床に並べ、その前で茫然とした。あの人は、私の知らないところで私の知らない行動をしている。私に嘘をついてまで。仕事絡みなら嘘なんかつく必要ないだろう。浮気なのだろうか。今までそんな素振を見せたことが無かった。毎日きちんと家に帰ってくる。あの実家に帰って泊まった日以外は。仕事で遅くなるときはしょっちゅうだが、それは仕事をしていればそういうこともあるだろう。

しかし私は、家にいるとき以外の、彼のいったい何を知っていると言うのだろう。職場結婚したわけでもなく、彼の同僚や上司のことなんてほとんど知らない。彼のオフィスにどういう女性がいるのかも分からない。家にいるときは私と、喧嘩も滅多にせず怪しい行動もせず、まさか浮気をしているなんてこれっぽっちも感じられなかったが、でも、会社にいるときの彼の行動なんて私は何も知らないのだ

この3年間、私は彼の何を知ったというのだろう。職場の上司から取引先の相手の部下だと紹介され何となく付き合うようになり、それからはどんどん打ち解けていったけれども、週に数回合い、いろいろなことを喋り、いろいろなところへ出かけ、そうして3年も過ぎたらお互いを深く知ったつもりでいたけれど、本当は何も知らなかったのではないのか。

私は目の前の、積み重なったコートやスーツと、数枚のくしゃくしゃになったレシートを見つめながら、自分の肩を抱くように身をすくめた。寒い部屋でクローゼットを引っ掻き回していたので体が冷えてしまったのもあるが、急に孤独を感じたからだった。



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クリーム色の家(4)

2012-01-29 12:53:23 | クリーム色の家
誰とゴルフに行ったのか分からない夫は、夜遅くに帰ってきた。その日帰ってくると思っていなかった私は、とっくにベッドに入って眠りに落ちていた。玄関の鍵穴がガチャっと言った瞬間、びっくりして目が覚めた。泥棒かと本気で思った。
「俺だ。開けてくれ。」
夫だと分かって、驚いたのとほっとしたのが同時だった。ドアチェーンがしてあったので鍵を開けただけでは入れなかったのだろう。私は重い体を物憂げに起こしながら玄関に向かった。チェーンをはずすと夫の顔が間近にあった。私は目を逸らした。
「会社から連絡があってさ、どうしても急な用事だって言うんで俺だけゴルフ途中で止めて帰ってきたよ。会社に寄ってきたから遅くなった。」

夫は部屋に入ると持っていた荷物をどさっと床に置き、上着を脱ぎ始めた。
返事をする気にもならなかった。
「あいつ俺がゴルフに行くの知ってたはずなんだけどな。あいつとは違う連中と今日は行ってたんだけどさ。携帯も、電波のつながりが悪いのか全然分かんなくて。」
私が何も聞かないのに夫は一気に説明をし始めた。
「電話で済ませても良かったんだけど面倒くさかったから取りあえず会社に直行しちゃったけど。仕事の内容自体は大したことはなかった。」
夫の顔は、何の後ろめたさもないようないつもの顔だった。この人は、こういう顔で嘘をつく、そう思った。
「出先で事故にでもあったのではないかと思ったけど・・・。まあ違ったんだから良かったけど。」
私は言葉とは裏腹にうんざりした目で視界にあった夫の荷物を見つめていた。前からあったかどうかは分からないが、ちょっと夫の趣味とは思えないようなクラブのカバーがかけてあるのに気が付いた。私がそのカバーをじっと凝視しているのを、夫が伺うように見ているのが感じられた。
「まあ、心配させて悪かったよ。」
私は頭の奥に、黒い雲のようなものがどんどん湧いてきて、頭全体を覆っていくような感覚になった。
「誰と、どこに、泊まったの?」
顔も見たくなかった。相変わらずクラブのカバーを凝視していた。
「会社の、誰と?どこのゴルフ場で?とこのホテル?私もあなたを信用して何も聞かなかったのが悪かったけど、もし私が産気づいたらどうするの?連絡も取れず生まれてしまうわよ。」
私は視線を動かせずに、ただ目に入っている荷物を見ていた。涙が浮かんできた。そして嫌でも同じような場面を繰り広げた数年前のことを思い出した。


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コメント
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いらいら虫

2012-01-26 01:29:16 | つぶやき
仕事でイライラすることが続いた。
同僚とそのことについて話していると語気が荒くなる。
私は職場では穏健派だと思っているしたぶん人にもそう思われているだろうけれど、最近口が悪くていけないなと思う。
でも気が付いた。
職場内の人に対してイライラしているときは、お客さんに対してはことさら親切にできる。
なぜだろう??
でもまあいいか。逆よりましかも。
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なにげないひとこと

2012-01-24 22:42:27 | つぶやき
素敵なクリスマスを
お誕生日おめでとう
寒いので風邪を引かないように
子供さん早く良くなるとよいね

優しいことば。
でも私はこんな言葉聞いたことがない。
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