星を見ていた。

思っていることを、言葉にするのはむずかしい・・・。
良かったら読んでいってください。

感情

2009-03-30 02:45:17 | つぶやき
人の感情の中で、いちばん性質の悪いものは嫉妬であると思う。

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fortune cookies(16)

2009-03-15 18:00:14 | fortune cookies
「私が美沙子姉さんの立場だったら、多分耐えられそうにないな。旦那さんのご両親と同居して、職場も一緒って、私なら耐えられないと思う。美沙子姉さんは窮屈に感じないの?」
 私は美沙子姉さんの少し疲れたような表情を眺めながら、ついそんなことを聞いてしまった。美沙子姉さんは四角いガマ口の口金を開けたり閉めたり相変わらずしながら答えた。
「まあね、窮屈かもしれないけれど。たまにはちょっと嫌だなって思うときもあるけれど。」
 それから少し間を置いて、ちょっと思案してから話を続けた。
「里江ちゃんは私が本当の親と小さい時別れたってことは知ってるよね?」
 美沙子姉さんは唐突にそんなことを言い出した。
「知ってるよ。」「だって、私と一緒だもん。」
 美沙子姉さんは少しだけ微笑んだ。悲しいような、優しいような微笑みだった。

 私達はお互いに、お互いの生い立ちについてなんとなくは知っていたけれども、それについて話す機会はなかった。私たちに限らず、親戚中が当然知っていることなのだが、誰もそのことについて当事者である私たちにそのことを悟られるような話しかたはしなかった。それは幼かった私たちに対しての配慮だったのかもしれないけれど、時々それは不自然だと思うときもあった。そんなこと私は知っているのに。そして皆だって知っているのに、なぜ知らないかのように話すのだろうと思うことも多々あった。私は美沙子姉さんがその暗黙の了解を破ったことに意外な感じを受けた。と同時にそれまで私たちそれぞれが受けていた違和感のようなものが、ここで自然に、私たち二人の間では自然に取り払われたように思えたことに、ちょっとした嬉しさのようなものを感じた。

「実はね、私実の母親に会ったことがあるのよ。」「これ、誰にも内緒よ。」
 私は美沙子姉さんの話が意外なほうに向かったことに興味を覚えながら話を聞く体制に入った。それは私が今までの人生の中で、何度も繰り返し想像したことであった。まだ見たこともない、というかとうに忘れてしまって記憶にすら残っていない自分の母親への果てしのない想像を現実にしたような話しなのだろうと思うと、まるで自分のことのように興味がわいた。私はじっとその話に聞き入った。
「私がホテルで働いていた時のことなんだけど、ある日ね、ホテルのレストランで宴会の団体さんがいたんだけれど、年末だったかしらね。その中にね、私の母がいたのよ。」「私はフロント係だから、当然いつもフロントにいるんだけどね、ある夜、慌てて入口から入ってくる女の人がいて、宴会に遅れて来たみたいなんだけれどね、フロントに駈けてきて自分の会社の宴会はどこかって聞いてきたのよ。」
 
私はその場面を想像した。美沙子姉さんの働いていたホテルは何度か訪ねたことがあったので、その光景は私の頭の中で自然に展開されていった。そして、美沙子姉さんが、母親であるのに、その人、と言ったのを聞き逃さなかった。
「私はそそっかしい人だと思ったわ。だって宴会なんて表の看板に普通書いてあるじゃない。誰誰様御一行って。かなり急いでいたみたいでタクシーから降りてすぐフロントに走ってきたのよ。で、私が何階のどこのお部屋ですと案内すると、その人はありがとう、って言ってカウンターを去ろうとしたの。でも、去り際に、ふっと目が合ったのよ。その後すぐ立ち去ろうとした瞬間にもう一度じっと私を見たわ。目の中を覗きこむように、じっとね。」
 美沙子姉さんもその時の場面を頭の中できっと再現しているのだろうと思った。目が時々、焦点が合わなくなって上部をさ迷っていた。

「それからね、その人の視線が私の名札に移ったのがよーく分かったの。私、何かその人に失礼なことを言ったかしらって思ったわ。フロントにいるとね、色んな人がお客でやってきて、ちょっと気に入らないでトラブルっぽくなると名前を聞いて去っていく人がたくさんいるから。名前を言えってね。だからその人も私のことを会社側に何か文句を言うために名前を記憶しているのかと思ったわ。」
 私は美沙子姉さんの母親という人が、姉さんの眼の中にある小さな点を確認したのだなと思った。美沙子姉さんの白目のところには生まれつき小さな黒い点があったのだ。それからまさかと思って、そして名前を確認したのだろう。
「その人は名札を見ると、もう一度私の顔をじっとのぞき込んで見たわ。それから、私にもわかるくらいにあからさまに顔のいろいろな部分をじっと見て、それから私の手元も見たわ。私はちょっと気味悪くなって、隣にいた男の先輩の方を伺ったの。何か、変質者っていうか、ちょっとおかしい人なんじゃないかと思いだして。でも私が隣の先輩の様子を見ようと思っているうちに立ち去った行ったわ。また、ありがとう、って小さい声で言ってね。」

 私は美沙子姉さんの実の母親が、美沙子姉さんと別れた後にどのような生き方をしたのかは当然全く知らなかったのだが、その様な事が世の中に起こりえるのだなあと、まるで小説の中の話ではないかと思った。この広い世界の中で、偶然に自分の生き別れた娘の働いているホテルに、用事があってくることなんてあるのだろうか。それはそうなるように、まるで台本のように仕組まれたことのように美沙子姉さんの人生の中に起こったのだろうか、と考えた。

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