欅並木をのぼった左手にあるお店

ちいさいけど心ほっこり、French!テイストなお店♪

男のはしくれ

2012-04-19 | une nouvelle
そのお城にはとてもおそろしい悪魔が棲んでいるという。
誰も近寄らない薄暗いお城にひとりの男がやってきました。
いばらの庭を通り、古くなったドアを開け、閑散とうす汚れたホールをあがっていくと。
そこには大きな絵画が。痩せた女の人の肖像画。
男が前を通ろうとすると、
誰がこの城に入ることを許したね?
驚いて男がふりかえると、絵画の女性がこちらを見ているではありませんか。
あ、あなたは・・。
失礼だが、自分から名のるのが礼儀でありましょう?
わたしは、このお城にどんな悪魔が棲んでいるのか見にきたのです。
しかし、けっして物めずらしさで来たわけではありません。わたしにはひとつの決心があるのです。
それは何であるのか?
この土地はとても豊かな作物を育てます。以前はここもたくさんの草木、花々が植えられていたはず。
そんな作物をわたしはもう一度ここで作ってみたいのです。
女性はにらむように男を見ます。
なぜこの場所で?
はい、今ここは薄暗い土地でありますけど、土はとても豊穣です。
ここでなにがあったのか、わたしにはわかりませんが、いずれまた豊かな実りをつけるような気がするのです。
女性はなにも言わず黙っていましたが、
昔ここはたくさんの作物の実る土地であったのだ。しかし、異国の攻撃を受け、ここが最後の砦となった。
永遠に朽ちてしまうような仕打ちを受け、ここはその時から生命を絶たれたようになってしまった・・。
わたしはここの最後の意思を持つ者。人間を寄せ付けぬ最後の楽園の番人なのだよ。
男は真摯な表情で、
もう一度、彩りをとり戻してみませんか?
女性はじっと男を見ていたが、やがて、
あまり人を信じるというのは好きではないが、お前をここの住人にむかえてみよう・・。
そうしてもらえますか。
しかし、ここの番人はわたしであることを忘れぬように。この額をはずしたところでわたしはここを離れることはないのだから。
それはわかっています。
ここがもう一度彩りをとり戻せた時、お前にこの城をやろう。
人の噂に振り回されない、一途な気を見込んでな。今はめずらしい男のはしくれだと、わたしは見込んだのだから。


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