東京高検検事長だった黒川弘務氏の定年を延長した2020年の閣議決定を巡る情報公開訴訟で、大阪地裁は国に対し、文書開示を命じた。検察人事への政治介入は許されない。「法解釈の変更は黒川氏のためと考えざるを得ない」と断じた判決に従い、国は関連文書を早急に開示すべきだ。
検察官の定年は検察庁法で63歳と定められ、国家公務員法の定年延長の規定は適用されていなかったが、当時の安倍晋三政権は法解釈を変更し、黒川氏の定年延長を閣議決定した。
大学教授が関連文書の開示を求めたが、法務省は不開示としたため訴訟となった。裁判で国側は「黒川氏を目的とした解釈変更ではない」と主張したが、同地裁は定年延長が全国の検察官に周知されていないことを踏まえ、「黒川氏の退官予定日に合うよう、ごく短期間で進められたと考えるほかはない」と明確に述べた。
当然の判断である。当時は森友学園や加計学園、桜を見る会を巡る疑惑、参院選広島選挙区での選挙違反事件など、政権に関連する疑惑が相次いで浮上していた。
そのため「政権に近いとされる黒川氏を検事総長にするためだ」「検察への政治介入を許す」との批判が相次いだ。そんな国民の疑問にも応えた判決だった。
結局、政府は検察官の定年延長を認める検察庁法改正案の成立を断念。黒川氏も賭けマージャン問題の発覚で辞職し、賭博罪で罰金20万円の略式命令を受けた。
そもそも検察庁法は特別法であり、定年も同法の規定を優先する法原則がある。恣意(しい)的な解釈変更など許されるはずがない。
何より検察官は独立性が求められ、政治権力を追及し得る存在である。時の政権の意向で恣意的な人事が行われれば、検察捜査に政治が介入する恐れも出てくる。
国会審議を経ず、閣議だけで法解釈をねじ曲げた経緯は当然、国民に明らかにされなければならない。にもかかわらず法務省は「該当文書なし」と回答し、説明責任も果たさないまま放置してきた。許し難いことだ。
法務省内の協議文書ばかりでなく、首相官邸とどんなやりとりがあったのか、国会でも厳しく追及し、解明すべきだ。不可解な定年延長の真相が明らかにされなければ、国民の「知る権利」や情報公開法の趣旨は踏みにじられる。
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