代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

えらいぞ東京新聞! 国交省の飽和雨量の数値のトンデモをスクープ

2010年01月12日 | 治水と緑のダム
 今年の新年の年頭あいさつでは『東京新聞』の良識を高く評価いたしました。記者独自の調査報道が優れているという点です。本日(1月12日の24面)の「こちら特報部」の調査記事はすばらしいものでした。

 八ッ場ダム建設の根拠となる八斗島地点の基本高水流量2万2000立方メートルという数値は真っ赤なウソであると、このブログでも論じてきました。なぜここまで過大な数字が算出されるのかに関して、篠ケ瀬祐司記者が見事なスクープ記事を発しておられました。

 治水の基準点である八斗島の上流54流域の、一次流出率のパラメーターは全流域すべてが0.5で、飽和雨量のパラメーターは全流域全てで48ミリという数値が統一して採用されていることが明らかになったのです。
 さいたま地裁に提訴された行政訴訟で提出された資料の中で初めて明らかになったそうです。地道に裁判闘争を続けてこられた方々にも心から敬意を表します。
 まず、54の全流域でパラメーターが一緒というのが常識外れですが、統一パラメーターである飽和雨量の値が48ミリというのは、さらに常識外のトンデモなのです。あり得ない数値です。今までこの数字を国交省が隠していた理由もわかりますね。

 飽和雨量というのは、森林土壌がどのくらいの雨水を貯留するかを反映するパラメーターなのですが、ふつうの森林土壌であれば、まあ少なくとも130ミリ程度は貯留します。しかるに緑豊かな利根川上流域で48ミリしか貯留しないなんてことは、森林を皆伐でもしない限りあり得ません。ダムを造りたいがためにパラメーターをねつ造しているからこうなるのです。

 あの豊かな山林が48ミリしか貯留しないなんて、八ッ場ダム予定地を領地としていた真田昌幸・幸村親子もびっくりでしょう。実際、禁伐令まで出して山林の保護に努めてきた真田昌幸公の治政を根本的に冒涜するものです。領民の子孫として、強く抗議したいと思います。

 詳しくは専門家の詳しい解析が必要になりますが、おそらく実際の飽和雨量の数値は上流の各流域で100ミリから150ミリはあると思います。
 100ミリという最低限の数値を採用して再計算しても、実際の基本高水流量は1万2000から1万4000立方メートル/秒程度に算出されることになるでしょう。つまり実際の洪水流量は、国交省の計算値の半分程度です。治水ダムを造る必要など一切ありません。
 実際、戦後直後に森林が荒れていた当時に襲ったカスリーン台風で1万6000立方メートルが流れて以来、森林がある程度回復して以降の利根川では、どんな大雨が降っても八斗島付近で1万立方メートル/秒以上は流れたことないのです。2万以上は流れるという国交省の主張がいかにトンデモか分かるでしょう。100年に一度の雨が来たって、実際の洪水流量は国交省の計算値の半分強の1万4000といったところが妥当なのです。
  
 私のブログの以前の記事でも書いてきましたが、長野県の流域住民が組織した基本高水協議会は、長野県で問題になっている浅川ダムにおける飽和雨量が50ミリという不当に低い数値が採用されており、それ故、浅川ダム建設の根拠となっている基本高水が数倍にも過大に算出されていることを明らかにしています。(マスコミからは無視されましたが・・・・)

 長野県の基本高水協議会の最終報告書は以下のように書いています。
長野県高水協議会(2007)、「提言書 ―基本高水について―」2007年3月19日、6頁より。http://www.pref.nagano.jp/keiei/chisui/takamizu/houkoku/saisyuuteigensyo.pdf

***引用開始***

 雨量から流量への変換に用いられる貯留関数法の定数は、洪水時の実測流量データを基に設定しなければならないが、洪水時の実測流量データがないため、曖昧な定数の設定で流出解析が行われており、過大な基本高水をつくることを可能にしている。
 例えば、浅川では、貯留関数法の定数の一つである飽和雨量(Rsa)を50mmとしている。飽和雨量とは、どのくらいの雨が降れば、それ以上地面にしみこまなくなり、地面が飽和するかという値を示すものであるが、50mmの雨が降れば地面が飽和状態になり、降った雨がそのまま流れてくるとは考えられず、過小ではないかと考えられる 。

***引用終わり******

 ちなみに、他の河川では飽和雨量のパラメーターは100ミリでした。県が強引に、是が非でも造ろうとしていた浅川ダムのみがなぜか50ミリだったのです。実際には100ミリでも少ない数値なのに、50ミリとはびっくりです。

 浅川ダム予定地を領地にしていた高坂弾正昌信公も、真田信之公もびっくりでしょう。森林が50ミリしか保水しないのでしたら、山本勘助公が縄張りした海津城は、上杉軍が攻めてくる前に大雨で流されていたことでしょう。さすれば、あの川中島の合戦もなかったことになり、日本史もさぞ興ざめなことになったでしょう(これはさすがに冗談)。
  
 50ミリという数字でもびっくりなのに、何と利根川上流はそれをさらに下回る48ミリしか貯留しないというのです! 森林を根本的に冒涜しているといえるでしょう。

 とにかく東京新聞の篠ケ瀬祐司記者、これを報道して下さったのはすばらしいです! 拍手!
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2 コメント

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Unknown (Cru)
2010-01-23 19:43:48
この記事見ました。
こういう数字が報道されるようになるのは大きいですね。

客観的な視点で政策が議論できる社会になっていくとよいと思います。

移転住民の問題をダム建設を中止した政権を非難する事に使うような論調ではなく。
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なるほど (大ちゃん)
2010-01-18 19:06:04
「治水の基準点である八斗島の上流54流域の、一次流出率のパラメーターは全流域すべてが0.5で、飽和雨量のパラメーターは全流域全てで48ミリという数値が統一して採用されていることが明らかになった」

「ちなみに、他の河川では飽和雨量のパラメーターは100ミリでした」

これでは疑われても仕方ないですね。
流域面積、地形、状況が余りにも似通っている可能性もありますが、数値に適正がなければ意味がありません。
何故48mmを用いたのか行政側に説明責任はあるでしょう。
それが適正な数値であるのかないのか、全てはそこからではないでしょうか。
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