代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

治水のためにはダムよりも堤防強化

2015年09月10日 | 治水と緑のダム
  本日(2015年9月10日)の常総市内での鬼怒川の堤防決壊、痛ましいことでした。被災者の皆さまにお見舞い申し上げます。また、自衛隊の皆さまのご活躍に敬意を表します。

 前の記事のコメント欄で以下のような質問をいただきました。「ダム建設には治水、砂防といった防災目的があると思いますが、経済だけではなく防災安全という面での合理性について関先生は分析されていますでしょうか」。
 

 本日の鬼怒川の堤防の決壊、詳しくは追って専門家の報告が出るでしょうが、おそらく堤防が若干低くなっているところから越流し、その越流水によって堤内が侵食されて決壊に至ったのではないかと思われます。堤防は土の塊なので、侵食に弱いです。越流水によって破堤に至るメカニズムは以下の図をご参照ください。


出所)国交省資料より

 ダムは洪水ピーク時の河川の水位を数センチ程度下げることしかできず、それがあったからといって堤防の決壊が防げるかと言ったら、ほとんど効果はないと思います。
 限られた財源の中で安全を高める方法としては、ダムではなく堤防の強化の方が、はるかに費用対効果の高い方法だと思います。

 既存の堤防から、越流しても簡単に決壊しないという「耐越水堤防」へ強化することが必要だと思います。越流しても簡単には破堤しないよう、遮水シートを貼って堤内への水の浸透を防ぐこと、さらに堤内の構造そのものを強化するためにはソイルセメントの連続壁を堤防内につくるというTRD工法(大熊孝新潟大学名誉教授推奨)による堤防強化が費用対効果の点で効果的だと思います。

 
 TRD工法 出所:TRD工法協会 ウェブサイト  http://www.trd.gr.jp/publics/index/22/


 現在、国交省が進めている堤防強化策は、「スーパー堤防」ですが、この堤防は、膨大な数の周辺住民を立ち退かせる必要があるため1m整備するのに5000万円ほどの予算がかかり、何百年かけても完成しません。これは現実的ではありません。上述のようなTRD工法などによる堤防強化でしたら、1mあたりの整備予算はスーパー堤防の100分の1程度の50万円程度で可能と思われます。
 
 また堤防をいくら強化しても、今回のような豪雨のピークが長期間続く場合、いつかは決壊も起こるので、インフラを過信せず、とにかく早期に逃げることが最重要だと思います。

 今回のように住宅地の目の前の堤防が決壊するというのは最悪のケースです。住宅地が近くにない水田地帯で、堤防を若干低くする場所を設け、あえて今回のような豪雨の際には越流させ、住宅密集地帯で決壊するという最悪の事態を防ぐ知恵も必要だと思います。


 国交省によるダムの費用対効果の計算の問題に関しては、以下の梶原健嗣氏の講演の動画が大変に分かりやすいです。ご参照ください。

「八ッ場ダムの費用対効果」梶原健嗣-八ッ場ダム住民訴訟7周年集会4/8


 この講演に関連した論文は、『科学』の2014年12月号にも掲載されています。ご参照ください。 
 http://www.iwanami.co.jp/kagaku/KaMo201412.html

 また、流域全体で洪水ピーク時の水位を下げるには、ダムという点の治水ではなく、流域全体で雨水の貯留・浸透を高めることが、費用対効果の点でも環境面でも、ダムよりもはるかに効果的です。この点に関して、私が以前に書いたものですと、以下の記事をご参照ください。この内容、蔵治光一郎・保屋野初子編『緑のダムの科学』(築地書館、2014年)に掲載された拙稿にも書かれています。

http://blog.goo.ne.jp/reforestation/e/850e3052c6b8733681abd37a5cc80efe
 


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