私は、9年前に書いた「日本がアメリカ化したら最も困るのは竹中平蔵?」という記事で竹中平蔵氏による同僚の研究成果の盗用問題を論じたことがあった。研究データの扱いをめぐる学問的リテラシーの問題を扱っていたので、STAP細胞をめぐる問題と絡んで最近もツイートされていた。その9年前の記事は下記。
http://blog.goo.ne.jp/reforestation/e/29469447a0d19222c5dc03ae3d04da49
この記事で紹介したのはジャーナリスト佐々木実氏のルポルタージュ「竹中平蔵 仮面の野望」である。竹中氏による同僚の研究成果の盗用問題をはじめ、佐々木氏が長年にわたって竹中平蔵氏を追い続けてきた取材を集大成した成果は『市場と権力 ―「改革」に憑かれた経済学者の肖像』(講談社、2013年)にまとめられている。この度、その佐々木氏の『市場と権力』が「大宅壮一ノンフィクション賞」を受賞したというニュースが入ってきた。すばらしいことだ。
佐々木氏の『市場と権力』は、昨年新潮ドキュメント賞も受賞しているので二冠達成である。しかし二冠達成のわりにあまり大きく報道されたり宣伝されたりしないのは、政権にとってきわめて都合が悪い本であるということとも関係あるようだ。実際、新聞各紙は、この本を大きく取り上げるのを自粛している雰囲気が濃厚である。マスコミが自粛する中、頼りになるのはネットである。ぜひ多くの方々にこの本を読んで周囲に拡散していただきたい。
私は、著者の佐々木実氏とは経済学者の宇沢弘文先生が主宰する社会的共通資本研究会でご一緒させていただいてきた。今回の受賞を心から祝福申し上げたい。
市場原理主義・新自由主義と呼ばれる経済思想はどこから来たのか? それにはどの程度、学問的な裏付けがあるのか? 御用学者とは何か? こうした問題に興味のある方はぜひ本書を読んで欲しい。
原発事故以来、御用学者問題は国民的関心事となった。専門家は特定の省庁や産業界と密接に結びついており、官僚や産業界に便宜をはかるために真実も捻じ曲げられる。
学者が必ずしも信用できないということは、国民的なコンセンサスになりつつある。
著者の佐々木氏は感情を交えず淡々と事実関係を叙述している。「御用学者」といった価値判断を含む用語も使われていない。しかし経済学分野における御用学者の生態を知る上で、これに勝る良書を探すのは難しいであろう。
2010年のアカデミー賞のドキュメンタリー部門の受賞作、『インサイド・ジョブ』は、米国における経済学分野の御用学者の生態を浮かびあがらせた。本書はその日本版といったところであろうか。『インサイド・ジョブ』で利益相反学者として大きく取り上げられていたグレン・ハバード(ブッシュ政権の大統領諮問経済委員会委員長、コロンビア・ビジネススクール校長)と竹中平蔵氏の蜜月関係も本書で紹介されている。
この本は、経済学者にして政治家でもあった竹中平蔵氏の評伝であるが、単なる個人の評伝の範疇にとどまるものではない。日米構造協議、アメリカのおける政・産・学の回転ドアシステム、米国留学組がどのように米国化していったのか、そして年次改革要望書、小泉構造改革と不良債権処理、郵政民営化、対B層広告戦略・・・・。竹中平蔵氏が権力を掌握する背後にあった四半世紀の日米関係と、「改革」イデオロギーの本質(=米国の金融業界への利権誘導)をするどくえぐり出している。
佐々木氏は惜しくも廃刊になってしまった月刊『現代』常連のノンフィクション・ライターであった。『現代』のような良質な雑誌が廃刊になってきたことはフリーのルポ・ライターにとっては大変な受難である。佐々木氏は同書の「あとがき」で以下のように述べている。
「講談社が月刊誌『現代』を廃刊にしたことは、私にとってとても手痛い出来事だった。仕事場をなくした愚痴じゃないかといわれればそのとおりだが、それだけではないと言いたい気持ちがある。言葉の基地がまたひとつ失われてしまった。現実を認識するためになにより必要なのは言葉だし、人と人とが対話するのも言葉だ」
全国紙が堕落の一途をたどる一方で、良質な紙媒体は売れ行きが伸びず廃刊するものも多い。プロパガンダではない、批判的言論空間を守るため、私たちにできること ―「ホンモノ」を見きわめ、それを買って読んで応援することであろう。
http://blog.goo.ne.jp/reforestation/e/29469447a0d19222c5dc03ae3d04da49
この記事で紹介したのはジャーナリスト佐々木実氏のルポルタージュ「竹中平蔵 仮面の野望」である。竹中氏による同僚の研究成果の盗用問題をはじめ、佐々木氏が長年にわたって竹中平蔵氏を追い続けてきた取材を集大成した成果は『市場と権力 ―「改革」に憑かれた経済学者の肖像』(講談社、2013年)にまとめられている。この度、その佐々木氏の『市場と権力』が「大宅壮一ノンフィクション賞」を受賞したというニュースが入ってきた。すばらしいことだ。
佐々木氏の『市場と権力』は、昨年新潮ドキュメント賞も受賞しているので二冠達成である。しかし二冠達成のわりにあまり大きく報道されたり宣伝されたりしないのは、政権にとってきわめて都合が悪い本であるということとも関係あるようだ。実際、新聞各紙は、この本を大きく取り上げるのを自粛している雰囲気が濃厚である。マスコミが自粛する中、頼りになるのはネットである。ぜひ多くの方々にこの本を読んで周囲に拡散していただきたい。
私は、著者の佐々木実氏とは経済学者の宇沢弘文先生が主宰する社会的共通資本研究会でご一緒させていただいてきた。今回の受賞を心から祝福申し上げたい。
市場原理主義・新自由主義と呼ばれる経済思想はどこから来たのか? それにはどの程度、学問的な裏付けがあるのか? 御用学者とは何か? こうした問題に興味のある方はぜひ本書を読んで欲しい。
原発事故以来、御用学者問題は国民的関心事となった。専門家は特定の省庁や産業界と密接に結びついており、官僚や産業界に便宜をはかるために真実も捻じ曲げられる。
学者が必ずしも信用できないということは、国民的なコンセンサスになりつつある。
著者の佐々木氏は感情を交えず淡々と事実関係を叙述している。「御用学者」といった価値判断を含む用語も使われていない。しかし経済学分野における御用学者の生態を知る上で、これに勝る良書を探すのは難しいであろう。
2010年のアカデミー賞のドキュメンタリー部門の受賞作、『インサイド・ジョブ』は、米国における経済学分野の御用学者の生態を浮かびあがらせた。本書はその日本版といったところであろうか。『インサイド・ジョブ』で利益相反学者として大きく取り上げられていたグレン・ハバード(ブッシュ政権の大統領諮問経済委員会委員長、コロンビア・ビジネススクール校長)と竹中平蔵氏の蜜月関係も本書で紹介されている。
この本は、経済学者にして政治家でもあった竹中平蔵氏の評伝であるが、単なる個人の評伝の範疇にとどまるものではない。日米構造協議、アメリカのおける政・産・学の回転ドアシステム、米国留学組がどのように米国化していったのか、そして年次改革要望書、小泉構造改革と不良債権処理、郵政民営化、対B層広告戦略・・・・。竹中平蔵氏が権力を掌握する背後にあった四半世紀の日米関係と、「改革」イデオロギーの本質(=米国の金融業界への利権誘導)をするどくえぐり出している。
佐々木氏は惜しくも廃刊になってしまった月刊『現代』常連のノンフィクション・ライターであった。『現代』のような良質な雑誌が廃刊になってきたことはフリーのルポ・ライターにとっては大変な受難である。佐々木氏は同書の「あとがき」で以下のように述べている。
「講談社が月刊誌『現代』を廃刊にしたことは、私にとってとても手痛い出来事だった。仕事場をなくした愚痴じゃないかといわれればそのとおりだが、それだけではないと言いたい気持ちがある。言葉の基地がまたひとつ失われてしまった。現実を認識するためになにより必要なのは言葉だし、人と人とが対話するのも言葉だ」
全国紙が堕落の一途をたどる一方で、良質な紙媒体は売れ行きが伸びず廃刊するものも多い。プロパガンダではない、批判的言論空間を守るため、私たちにできること ―「ホンモノ」を見きわめ、それを買って読んで応援することであろう。