後ろ歩きの不思議おじさん

あっちこっちにポケットを一杯もった不思議なおじさんの特技は後ろ向き歩き。その右往左往振りは滑稽で、ちょっぴりもの悲しい。

タイトル

2008年09月29日 | Weblog
小説家は、小説を書けば
普通はその小説にタイトルを付けなければならない
そのような経験をすることは常人には無い

短編を積み重ねて、一つの読み物を作るのが
藤沢周平の得意技である
それぞれの短編にタイトルを付けている
なぜそのようなタイトルにしたのか
藤沢周平を謎解く一つのキーポイントではある

周平さんは、小説の中に
彼の生涯で得た箴言らしいものを散りばめる
それが又多くの人を肯首させる名言であることが多い

どの小説の中だったかと気になっていた
「名言」を再発見した
長編「よろずや平四郎活人剣」の終章目前
「暁の決闘」に出てくる

どこの家にも……
多かれ少なかれ家の中の煩いというものがあって
それは金があるからと言って免れ得るものでもなかろうから
この世は、貧富を問わず
なかなかに住みにくい仕掛けになっているわけだ

この長編の軸を形成する言葉なのだが
小説を書き連ね、筆を重ねているうちに
思わず周平さんが漏らした言葉かもしれない
小説家は、自分の人生の何倍もの経験を自らのものにできる
もちろん、そこでは魂が乗り移るという儀式を越えなければならないが…

大先輩から、世界遺産と言ってもよい小説に関して冊子を頂いた
源氏物語についてである
その巻頭言によれば、原文で読みとおしている人は
現在の日本人で1000人くらいだという
古事記に始まり、万葉集、枕草子、伊勢物語と原文で読んだ人たちが
ついに「ともかく読んだ」と題された冊子を世に著された

これを頂いたら 立ちろぐしかない
まずは大先輩たちの気迫にたじろぐ
そうやすやすと冊子のページをめくれない

仕方ないので、瀬戸内さん訳の文庫を買ってきた
チョイ読みの不思議おじさんであったが
「ともかく(訳本を)読んだ!」と言えるようになって
冊子を拝読するしかない

秋の世は長い
それだけが救いというものだ