山菜の女王とも呼ばれるコシアブラ
縁あってその採取のお誘いを受けた
場所は公開できないが、兵庫県である
山間地にはまだ山桜が咲いていた
不思議おじさんもコシアブラは初めてである
タラの芽なら、養殖栽培みたいなものも売っているが
コシアブラが市中に出回っているとは聞いたことが無い
なかなかの収穫量であった
勿論定番料理は天麩羅である
手前は芹
お世話いただいた方は、84歳の元気な農家
元は大工さんだが、農業にはまって
今はなんと一町歩の畑を一人で耕しておられる
信じられないバイタリティである
その方の畑と言うか荒地に生えている蕗、芹なども頂いた
コシアブラはさっと熱湯にくぐらせて刻み、味噌和えにもした
頂いた春キャベツは油で炒めて塩で味付けしただけ
これが不思議おじさんの大好物である
こんな話を続けていると「山菜取物語」になってしまう
さて「草取物語」の続きだ
人間にとって「隣」というものは厄介な存在である
それは日常生活において誰もが実感するところだろう
不思議おじさんは、今夜も臨家の2匹のホワイトシェパードの
極めて大きな鳴き声が、数時間も続いているのに頭にきている
隣はもちろん「国」についてもそうである
2年前に「隣」についての考察を少しまとめた
韓国での講演を依頼されたときである
「隣」との関係を新たに結ぶ手立てとして
「協同組合」という手段に光を当てる趣旨であった
畑でも「隣」は厄介な存在である
ましてや畑地で畝と畝を接している場合は格別だ
畝をまっすぐに立てるのは大変むつかしい技術だが
曲がって隣の畝を侵食しないよう気を付けなければならない
翁は基本的には争いを好まない質だった
隣の鹿児島弁爺さんを「立てる」ようにしてきた
「百姓の先輩として一目置いてますよ」との態度を常に見せてきた
おだてであろうが、褒められて悪い気を持つ人は少ない
鹿児島弁爺さんと翁の関係では貸し借りが過去にあった
翁が百姓をはじめて最初の年
備中と鍬だけで耕したので腰を傷めて数か月畑に行けなかった
その間に、鹿児島弁爺さんが割り込んできたのだが
翁が物置として使っていたスペースを勝手に占拠し
翁の道具類を無断で外に出し
そこに専用の小屋を作ってしまったのだ
翁は「まぁしょうがないか」と問題にはしなかった
翁は喧嘩が嫌いであった
亡くなった方の畑との間に
緩衝帯として一本の畝の幅の畦道があったが
鹿児島弁爺さんが「ここをくれへんか」と言ってきたとき
備中と鍬しかない翁には耕作能力が無いので
「そうやな、まぁかまへんで」と了承した
気の好いことである
亡くなった方はほぼ新品の耕運機を遺された
その奥様が、鹿児島弁爺さんをこの畑に引き込んだのだが
耕運機を翁に斡旋してくれたのが鹿児島弁爺さんだ
まぁ彼等は知人同士だったので渡りに船だった
中古の耕運機を翁は手に入れることができた
それは相場よりは少し高い価格だったが
翁は、購入金額の5%を鹿児島弁爺さんに渡した
要求されたわけではないが、お礼のつもりだった
気の良いことである
鹿児島弁爺さんは、ケチと言うほどでもないが、
物を他者にやるということをあまりしない
それでも翁は、豆類などの苗をもらったことがある
逆に、翁はイチゴの苗を多数分け与えたことがある
できるだけ波風立たないようにしてきたのである
気の良いことである
さて青森オバハンは、いよいよ畑耕作を放棄することが分かった
鹿児島弁爺さんが、スーパーでたまたま出会い
「あの畑をどうするつもりか」と問い糺したそうだ
そしてその全てを自分゛引き継いで耕作すると
畑仲間に一方的に宣ったのである
「誰よりも広い面積を耕しているやんか!」と畑仲間が言うと
「前に耕していた面積の半分しかない」と反論する
それが鹿児島弁爺さんの「基準」らしいのだが
それを押し通すことの不合理には全く頓着していない
いい気なものである
翁は次の言葉を直接には聞いていなかったが
鹿児島弁爺さんはさらに宣言したそうだ
「俺はこの畑の管理を任されてるんや」
こうなると能天気と言って良いほどだ
この畑地を最も長く借りている女性二人も
さすがにこの言葉にはカチンときたらしく
「昔から借りてるのは私らで、あんたと違うで!」
爺さんは黙ったそうだが、主張は曲げなかったそうだ
気が強い爺さんだ
この女性(それなりにご高齢)二人は、
この2年ほどトマト、キュウリ、ナスビなど
爺さん手作りの苗をもらって割く付けしていたが
このような雰囲気を事前に察知して
この夏野菜の苗を断ったそうだ
爺さんはそれなりにショックを受けていたらしいとのこと
爺さんも人間ということか
人は他者に喜んでもらえることを喜びとする
しかしそのことによって優位な立場づくりを行ってはならない
関係性が変容し、友好関係が主従関係に変化する
楽しい畑仕事にそんなことを持ち込まれてはかなわない
翁は、そのような危険から身を遠ざけるため
苗はもちろん、資材や堆肥、肥料もすべて自前だ
そのうえで好意で頂ける場合は有難くお受けしている
女性二人からは、トウモロコシの種やサツマイモの苗を頂いたことがある
爺さんからもらったことは前述のとおりだが、依頼したわけではない
鹿児島弁爺さんの手前勝手で強引な畑地分捕りは
翁と高齢女性二人、さらにご近所のおじさんの憤慨をもろともせず
まるで多数派自民党の強行採決のごとく決定したのである
しかし翁はある種の反撃に出た
と言うか、鹿児島弁爺さんが更に目論んでいるであろうことを
先取りして提案したのである
それは畑地の整理、つまり翁と爺さんの畑地の交換である
耕作地が入り組み、耕運機の使い勝手が悪く
畝と畝があちこちで接してしまうので、やりにくいのである
爺さんが喜んだのは言うまでもない
翁の畑地はすでに耕して肥料も入れてあるが
交換地は雑草が繁っている
改めて耕して畝を立て、堆肥も入れなければならない
爺さんは気を良くしたのか、20メートルの畝一本を
翁が耕作する分として新たに分け与えた
「一体、爺さんは何様なのだろうか」
周りの関係者は寄るとこのように言っているが
面と向って云う気はない
誰も畑仕事でまで変な人間関係を作りたくないからだ
翁はとにかく黙々と草を取った
貝殻石灰を散布し
耕運機で耕して畝を立てた
これで、鹿児島弁爺さんと境界を接するのは片側だけになった
水溜め桶や耕運機の置き場もそのうちに移動する
まだキヌサヤやイチゴなどは収穫できていない
完全な交換はその後のこととなる
翁は、これで何とか気分よく畑仕事をすることができそうである
めでたし めでたし
ホントにお目出度いお話でした