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まい・ふーりっしゅ・はーと

京都発。演奏会や展覧会、読書の感想などを綴っています。ブログタイトルは、ビル・エヴァンス・トリオの名演奏から採りました。

万城目 学 「偉大なる、しゅららぼん」を読んで

2011-06-15 15:18:14 | book

琵琶湖から特別な「力」を授けられた、二つの家系(日出家と棗家)の末裔たちの物語。
主人公は高校1年生の日出涼介。 名前の「涼」の字の「さんずい」に重要な意味があります。

で、その涼介くん。 栄えある奨学生として、日出本家の「城下町」・石走にやって来ます。
滋賀県でいうと彦根城を思わせる御殿での、現代の「お殿様」風居候生活が始まります。

毎日の登下校は、お城のお堀から町に巡らされた専用の水路を通って、「舟」での送り迎え。
お抱え運転手というか、お抱え船頭さんの「源爺」が、いつも通学のお供をしてくれます。

自分の部屋にたどり着くまで、いくつもの中庭を眺め、いくつもの廊下を渡って行きます。
朝夕の食事、学校に持って行くお弁当の超豪華メニュウ! 家の中で「流しそうめん」も!

            *  *  *  *  *

人間の心や身体(時間)を自由に操ることが出来る特別な「力」が授けられているとしたら…
通常、考えることとは裏腹に、自らの生活に制約が生まれ、自らの心を苛んでしまうなんて!

第七章「しゅららぼん」からの展開は、さながら一大スペクタクルを見るような感じがします。
その壮大なスケールと対照的に、登場人物の心情の動きは繊細に描かれ、熱く胸を打ちます。

タイトルの「しゅららぼん」は固有名詞ではなく、文法的に言うと「擬音語」にあたります。
音節的には「しゅらら」と「ぼん」に分かれます。 二つの力が発せられる時に出る大爆音。

ラストは、「続編」を期待させるような終り方。 物語のこれからの展開は? 気になります。
異空間へワープしてしまったようなストーリーと、現実との「辻褄合わせ」は如何に…?!

            *  *  *  *  *

今回の作品は、「あえて物語の構成を最後まで組み立てずに、連載を開始」されたそうです。
少々のアラは「勢い」でねじ伏せてしまうとか、「活き」のよさは、十二分に伝わってきます。

インタビュー記事によると、次回作は、京都・大阪を舞台とした「忍者もの」なのだそうです。
それも、「おぬし、なかなか出来るのう!」じゃない、愛すべき間抜けたちが主人公だとか。

Makime

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西 加奈子 「円卓」を読んで

2011-05-30 17:16:43 | book

主人公の琴子は、小学3年生の女の子。 周りの人たちからは、「こっこ」と呼ばれています。
私の読書歴からいうと、小学5年生の「ハル」を抜いて、史上最年少のヒロインの登場です!

題名の「円卓」は、(高級?)中華料理店によくある回転式テーブルのこと。 鮮やかな真紅。
廃業閉店したお店から、ちゃっかりもらってくるあたりが、いかにも「大阪人」らしいところ。

            *  *  *  *  *

こっこ一家は、両親に祖父母、それに三つ子の中学生のお姉ちゃん。 三世代八人の大家族。
明るく楽しい毎日ですが、こっこは「なにがおもろいねん!」といった感じで暮らしています。

同級生の香田めぐみさんの「ものもらい」に憧れ、ぽっさんの「きつおん」がカッコいい!
平凡さを嫌う「こっこ」は、一般的にはネガティブとされるものに強く惹かれてしまいます。

            *  *  *  *  *

そんな「こっこ」を取り巻く、個性豊かな性格・趣味嗜好を備えた愛すべき登場人物の皆さん。
ちょうど反抗期を迎えた、感受性豊かな女の子の日常が、とてもコミカルに描かれています。

家庭・学校で交わされる「大阪弁」の歯切れのよい会話が、テンポよくリズミカルに響きます。
会話を文字に変換すると、削がれてしまいがちな「活き」のよさが、巧みに表現されています。

            *  *  *  *  *

大笑いしながら読み進めていくと、場面の雰囲気(文章の感じ)の変化に気付かされます。
それは、「こっこ」自身の心の変化であり、戸惑い、悩み、考え、そして成長していく過程です。

そして、何より、エンディングへ向けて、ラスト数ページの展開、表現のすばらしいこと!
「ものもらい」でも、「結膜炎」でもないのに、文字がゆがんで見えにくくなってしまいますよー。

Entaku

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荻原浩 「砂の王国」を読んで

2011-02-21 09:29:45 | book

この作品の主人公は、大手証券会社のエリート社員からホームレスに落ちぶれてしまいます。
所持金三円という極貧の路上生活から、ビジネスとしての「宗教」を興していき、やがて…。

            *  *  *  *  *

前半は、ホームレスの人たちの日常生活がリアリティーのある描写で綴られています。
彼らなりの(必然的な)生活リズムとか、コミュニティーの中にある暗黙のルールとか。

安息の場を求めて辿りついた公園で出会ったのが、如何にも胡散臭そうな辻占い師の龍斎。
そして、超イケメンであり、カリスマ的素養に恵まれた、謎の青年ホームレスのナカムラ君。

この三人のタッグが、ナカムラ君を「教祖」とする新興宗教「大地の会」を立ち上げます。
巧妙に仕立て上げられた虚像が膨張し続ける中、極貧生活から奇跡的な生還を果たす三人。

            *  *  *  *  *

しかし、当初の設計図や思惑をはるかに超えて、暴走化し始める狂信的な教団・信者たち。
三人の間に生じる不協和音が修復しがたい亀裂を生み、制御不能となった集団の向う先は…。

砂の上に建てた天を突き抜けるように聳える塔が、足もとから崩れ落ちていく時の恐怖感。
木島礼次と名乗る主人公・山崎遼一の、精神病理的に侵されていく過程がとても痛々しい。

あの「オウム真理教」とイメージが重なり合い、リアリティーのある恐怖感が迫ってきます。
現代情報化社会が生み出した新たな「宗教」、インターネットについても考えが及びます。

            *  *  *  *  *

加速度的な展開で迎えるスリリングな結末は、この後の「続編」を匂わせています。
主人公・山崎遼一の本当の物語(リベンジ)は、ここからスタートするのかもしれません。

Sunanooukoku

コメント (6)
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万城目学 「かのこちゃんとマドレーヌ夫人」を読んで

2010-03-07 15:24:52 | book

これまでの万城目作品を読まれた方にとっては、やや拍子抜けの感じがすると思います。
かのこちゃんとマドレーヌ(メス猫)のごく普通の日常生活が、おだやかに綴られています。

途中で挿入されている「猫股」にまつわる話が、万城目さん風と言えばそうなのですが、
奇想天外な話にもかかわらず、ストーリーの印象を一変させるというわけではありません。

ところが、「ちょっと期待はずれ…」と思わせておいて、最終章は涙なしでは読めません。
母の「お昼ご飯、出来たよー」という呼びかけに、返事ができずに本当に困りましたでござる。

Kanokochan

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万城目学 「ホルモー六景」を読んで

2010-02-26 09:30:31 | book

前作「鴨川ホルモー」を面白いと思った人は、是非、この「ホルモー六景」も読むべし!
単なる「好評につき続編を!」というより、前作の「裏バージョン」といった感じの作品です。

            *  *  *  *  *

■ 万城目さんは、「鴨川ホルモー」を執筆中から、こういう構想をお持ちになっていた?!
  もしそうだとすると、「その発想力、これは只者ではない!?」という感じがします。

■ それぞれの「情景」が、前作の「鴨川ホルモー」のシーンとオーバーラップしています。
   さらに、「ホルモー六景」のエピソードどうしが、巧みにシンクロナイズされています。

■ 梶井基次郎の代表作である「檸檬」を下地にして描かれた、第三景「もっちゃん」。
  作品半ばの「あれっ?」という疑問が、終盤には「おおっ!」という驚嘆に変わります。

■ 第四景では、同志社大学のホルモーが復活します! 新島先生も、さぞやお喜びでしょう?
  確かに、「薩摩藩邸跡」の石柱や、赤レンガ造りの「クラーク館」という校舎があります。

■ 万城目さんの作品には、作品相互が微妙にリンクしていて、これも読者にはたまりません!
  この「六景」にも「鹿男」へのリンクがあって、伏見稲荷の「狐のは」が出てきます。

■ 第六景「長持の恋」は、感動的な短編でした。 途中で、文字が滲んで読めなくなります。
  御池通り寺町下るの「あの場所」の前はよく通ります。 「今度、ぜひ見に参り候! あや」

            *  *  *  *  *

私の買った「ホルモー六景」の帯には、「万城目学のウソ力(ヂカラ)」と書いてあります。
確かに、これだけ壮大かつ緻密な「ウソ」のつける人は、そうざらには居ないと思います。

6kei_2 

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