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まい・ふーりっしゅ・はーと

京都発。演奏会や展覧会、読書の感想などを綴っています。ブログタイトルは、ビル・エヴァンス・トリオの名演奏から採りました。

村上春樹 「小澤征爾さんと、音楽について話をする」を読んで

2012-02-09 13:29:18 | book

「小澤征爾×村上春樹」 音楽と文学という垣根を超えた、二大巨匠による珠玉の対話集。
「心の響き」を求めて耳を澄ませる小説家に、マエストロは率直に自らの音楽を語った。

            *  *  *  *  *

(インタビューでは)好奇心旺盛な、できるだけ正直な素人の聞き手であることを心がけた。
村上春樹さんの自然体の姿勢が、小澤征爾さんの心の「構え」を少しずつ溶かしていきます。

「さすが、小説家!」と唸らざるをえない、村上さんから紡ぎだされる的確で巧みな表現。
その言葉に触発されるように、小澤さんの思考も音楽(芸術)の核心へと向かっていきます。

「大物」同士の対談は、結局は上手く噛み合わず、すれ違いになるケースも多いと聞きます。
もちろん、認識の違いがぶつかり合いますが、そこから生み出される新たな発見と共感。

レコードやCDでの演奏を聴きながら進められていく対話。 一緒に聴いているような贅沢さ。
そして、「実際にCDを流しながら、読んでみたいっ!」という誘惑に駆られてしまいます。

「そういえば、俺これまで、こういう話をきちんとしたことなかったねえ」と語った小澤さん。
クラシック音楽の愛好者の方が本当に聞きたかった、興味深いエピソードが満載の一冊です。

            *  *  *  *  *

あとがきの中で小澤さんは、京都で毎年行われている「音楽塾」について触れられています。
去年は、小澤さんの体調不良でコンサートが中止になってしまったのは、本当に残念でした。

Ozawa

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西加奈子 「漁港の肉子ちゃん」を読んで

2011-10-31 16:59:13 | book

主人公の「肉子ちゃん」は当然ながら愛称で、実際は「菊子」という古風な名前の女性。
彼女は38歳のシングルマザーで、流れ着いた北陸地方の港町の焼き肉屋で働いています。

物語は、小学5年生の「キクりん」という、肉子ちゃんの愛娘の語りで進められていきます。
名前の「喜久子」からとって、愛称は「キクりん」。 えっ、お母さんと同じ名前なの!?

            *  *  *  *  *

肉子ちゃんは文字どおり「肉団子」のような容姿で、教養なし、センスなし、男運全くなし。
それでも、桁外れの強烈キャラで、港町の人たちにすっぽり溶け込み、愛されています。

一方、娘のキクりんは肉子ちゃんとは似ても似つかない(?)、知的でスラリとした美少女。
肉子ちゃんの言動をクールに分析しつつも、お母さんのことをとても大切に思っています。

            *  *  *  *  *

前作の「円卓」でもそうでしたが、小学生の女の子を主人公とした物語は、西さんの真骨頂!
思春期にさしかかった頃の複雑微妙な人間関係・心理が、実に巧みに描かれています。

ぎこちないアプローチながらも、何やかやとモーションをかけてくる、同級生の男の子たち。
そのグループの中の、「変な顔?」をする二宮との交流。 どことなく惹かれていくキクりん。

            *  *  *  *  *

お腹が猛烈に痛む(盲腸)のに、「お母さん、痛いよう!」と素直に甘えられないキクりん。
いろいろと周りの人に気を使い過ぎるのだ! まだ小学5年生なのに…。 胸の痛む思いです。

そう言えば、キクりんから「お父さんって、どんな人だった?」という素朴な質問がないよね。
肉子ちゃんの男遍歴は、けっこう語られているのに…。 なぜかしら、お父さんのことは…?

            *  *  *  *  *

突然、「彼女」と呼ばれる人物の話が挿入されると、物語は加速度的にクライマックスへ!
肉子ちゃんのパワフルな言動で気にも留めなかった、小さな「?」が劇的に氷解していきます。

物語の前半は、つい声をあげて笑ってしまうので、バスや電車の中で読むのは控えましょう。
一方、後半、涙腺の弱い人はハンカチとかティッシュを忘れないようにしましょう。 うるうる。

Nikuko_chan

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綾辻行人 「深泥丘奇談・続」を読んで

2011-07-17 12:54:18 | book

題名に「続」とあるのは、この作品が京都を舞台にした怪談・短編集の第2弾となるからです。
京都の超有名な心霊スポット「深泥池」を連想させる、「深泥丘」界隈で起こる不思議の数々。

            *  *  *  *  *

都市伝説風ホラー、土俗的・民俗的怪異譚、ナンセンスからシュールなタッチなものまで。
まさに、「手を変え、品を変えて」の実験的、意欲的、挑発的な作品がズラリと並びます。

いずれも、作者の綾辻行人さんをイメージさせる、京都在住の本格ミステリー作家が主人公。
彼を取り巻く、謎めいた妖しげな人たち。 深泥丘病院の石倉医師、若い女性看護士の咲谷。

            *  *  *  *  *

最初は、その掴みどころのなさに戸惑い、結末もちょっと拍子抜けの感じすら抱きました。
多用される「- のような気がする」という表現に、「これはズルイな」とさえ思いました。

ところが、しばらく間を置いて読み直してみると、じわじわと滲み出るような味わいが!
ゆったりととってある行間に潜む面妖な気配、読後に忍び寄ってくる独特な余韻が魅力です。

            *  *  *  *  *

加えて、この作品に更なる彩りを添えているのが、本の装丁と墨絵風の挿絵の美しさです。
ストーリーの展開にも大いに興味がそそられますが、ページをめくるもう一つの楽しみです。

Ayatsuji

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麻耶 雄嵩 「隻眼の少女」を読んで

2011-07-13 12:44:36 | book

京都大学推理小説研究会の出身で、京都市在住の麻耶雄嵩(まやゆたか)さんの長編小説。
第64回日本推理作家協会賞、第11回本格ミステリー大賞のダブル受賞に輝いた作品です。

            *  *  *  *  *

小説の舞台となるのは、観光ガイドブックにも掲載されていない山間の鄙びた温泉地の集落。
この集落には、「生き神」のように崇敬を集める「スガル」様を世襲する一族の存在があった。

冬の訪れを間近に控えたある日、身の毛もよだつような猟奇的な殺人事件が起こります。
殺害されたのは、後継者として修行中の三姉妹(三つ子)の長女。 その後、次女、三女と…

事件解明に乗り出すのが、翡翠の義眼を入れた隻眼の少女探偵、御陵(みささぎ)みかげ。
名声を博した母・御陵みかげの後継を宿命付けられた彼女は、これが初仕事となります。

            *  *  *  *  *

実父の命も奪われるという悲劇に見舞われる中、みかげの推理は事件の収束へと導きます。
しかし、十八年の歳月が流れたある冬の日、あの時と全く同じ手口で犯行が繰り返されます。

忌まわしい事件の再検証を進めながら、真犯人を絞り込んでいくのが「三代目」御陵みかげ。
母・みかげの極めて論理的思考の網をくぐり抜け、再び挑みかかってきた殺人鬼の正体は?!

この作品は、地方独特の因習、民間伝承、閉鎖的ゆえ濃厚な人間関係がベースにあります。
それが耽美的とも言える独特な世界を創り出し、待ち受ける「あっ!」と驚く衝撃的な結末。

            *  *  *  *  *

物語は、たまたま「助手見習い」に採用された、種田静馬の目を通して展開していきます。
彼の凡人なりの発想・疑問が、推理の展開を理解する上での、いい手助けとなりました。

Misasagi_mikage

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宮部みゆき 「ばんば憑き」を読んで

2011-06-29 11:59:29 | book

市井の中にひっそりと潜み、時には、もぞもぞと蠢(うごめ)き出す妖(あや)しのものたち。
江戸時代を舞台にした怪談・奇譚(きたん)集。 上質の江戸「人情噺」を聴くような趣き。

            *  *  *  *  *

● 坊主の壷
江戸の町に猛威をふるう伝染病「ころり」。 救済事業に情熱を傾ける田屋の主「重蔵」。
重蔵が所蔵する年代物の掛け軸。 見える人だけには見える、奇怪な絵柄にまつわる因縁。
幸か不幸か、女中の「おつぎ」には見えてしまった。 不思議な力と同時に引き受ける厄介。 

● お文(ふみ)の影
おいらの目には、影がひとつ多いように見えるんだ。 みんなの影より、余分に影が…
この世に取り残された、哀しい幼女の影。 影は影のあるべきところへ送ってやればよい。
冴え冴えとした秋の十三夜。 調子外れの影踏み歌。 揺れる笹舟。 哀しくも美しい影送り。

● 博打眼(ばくちがん)
ある冬の日の朝、近江屋に大事件! 何と「博打眼」という化け物が飛び込んできたのです。
主人から語られる「博打眼」にまつわるおぞましい事実。 明かされる竹兄の隠された過去。
深刻で重いテーマが背景にありながらも、多彩なキャラクターたちがいきいきと活躍します。

            *  *  *  *  *

● 討債鬼(とうさいき)
借金を踏み倒された怨念が「討債鬼」となって、相手の子どもに乗り移り、復讐を果たす。
紙問屋「大之字屋」の跡目相続をめぐる因縁に、主人「宗吾郎」の女性問題が絡んで…。
手習所の若先生と騙りの大坊主との全面対決か!と思いきや…。 意表を突く展開が秀逸。

● ばんば憑(つ)き
長雨で足止めを食らっていた若夫婦の部屋に、「お松」と名乗る老女が相部屋することに…。
夜更け、老女が語り出したのが五十年前の忌まわしい事件と、「ばんば憑き」という儀式。
衝撃的な事の顛末。 若夫婦の間に生じた綻びと、その後の波紋を予感させるような結び。

● 野槌の墓
父さまは、よく化ける猫はお嫌いですか / 加奈はどうかね? / タマさんは好きです
こんな父娘の珍妙なやりとりの後、本当に化け猫のタマさんが、頼みごとにやってきます。
悪さをする「物の怪」退治を依頼された「何でも屋」の先生。 物の怪の心情も、また哀れ。

            *  *  *  *  *

晴らせぬ恨み、無念の思いを抱いたまま亡くなっていった人たち。 慰霊と鎮魂のために。
語り継がれている怪談・奇譚集の根底には、そういう日本人の精神が脈々と流れています。

Banbatsuki_2

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