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映画・演劇のレビュー

鯨井あめ『沙を噛め、肺魚』

2024-08-04 00:34:00 | その他

沙(砂ではなく)に埋もれてしまった世界。ほんの少し残った部分で生き残った人たちが暮らしている。首都圏と各地に残るオアシスと呼ばれる点在する町。そんなオアシスのひとつ(第9地区)で暮らす女の子ロピ。彼女は音楽が大好きで音楽家になりたい。だけど現実は厳しい。こんな世界だから、生活を守るだけで精一杯。高校を出たらみんな就職する。音楽を仕事にするには首都の音楽隊に入るしかない。

 
これはやりたいことをすることが困難な世界で、自分の夢に向かっていくひとりの少女の物語。お話は2部構成になっていて後半(『世界は味気ない。酷く乾いている。』)は前半(『肺魚は眠る。乾いた沙の下で』)から50年後。こちらは夢を持てない少年ルウシュの物語。やりたいことはないから流されるように生きる。母の仕事である気象予報士にでもなればいい。詩を書くことができる。子どもの頃褒められた。やがてロピが『肺魚』という歌を作ってから74年後だとわかる。そこはロピが住んでいたオアシス9号が消滅してしまった後の世界。
 
彼は友だちとの付き合いから仕方なく演劇に関わる事になる。そこで出会った演出家の先輩。彼女と一緒に芝居を作る話。お話はそこから始まる。
 
沙に埋もれていたレコードを掘り出し、そこに残されていた歌を聞く。芸術が機械によって作られる世界で人の手で作られる手作りの音楽や芝居に意味はあるのか、という問いかけ。後20年でこの世は沙に埋もれ消滅すると言われて、好きに生きろと言われても何をどうすればいいのか、わかるわけがない。
 
鯨井ゆめの長篇第3作。時代を経てつながるふたりの男女。音楽と詩。演劇。生きていく上で芸術は必要不可欠なものではない。だけど人は芸術を求める。そこに生きる希望を見出す。
 

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