人力でGO

経済の最新情勢から、世界の裏側、そして大人の為のアニメ紹介まで、体当たりで挑むエンタテーメント・ブログ。

イギリスの見る世界は一味違う・・・フィナンシャル・タイムスの視点は他メディアと一線を画している

2012-06-26 16:47:00 | 時事/金融危機
 


■ 一味違うフィナンシャル・タイムス ■

世のメディアは為政者のプロパガンダ装置の色合いが強い。

ところが、大手メディアの論調には微妙に違いがあり、
それを仔細に観察すると、
それらのメディアの背景が薄らと透けて見えます。

ロイター、ウォールストリート・ジャーナル、ブルームバーグは
比較的似た論調が見られます。
欧州危機や、アメリカ経済に関しても
温度差こそあれ、同じ様な煽りを繰り返す事で、
ポラリティーを形成し、市場を意のままに操作している様に見えます。

イラン危機と言えば、これらのメディアは危機を煽り、
ユーロ危機と言えば、危機だとか、沈静化だとかを繰り返す。

市場はこれらのメディアの作り出そうとするイメージに
比較的沿った相場を展開します。

ところがフィナンシャル・タイムスだけは
これらのメディアとは一線を画した報道をします。

目先の事に大騒ぎする他のメディアに比べ、
比較的落ち着いた論調で、
現在の世界の実情や、これからの世界を見つめています。

ウィットに富んだ表現も多く、
こんな記事が書けたら素敵だなという
知性に富んだ文章が多いのも特徴です。

■ イランの核よりもパキスタンの核を危険視するFTの記事 ■

イランの核よりもパキスタンの核の方が危険という
FTの記事が大変興味深いので、引用します。

一分だけ抜粋するとニアンスが伝わり難いので、
全文引用します。

<全文引用>

「イラン核疑惑でかすむパキスタンの核の脅威」(フィナンシャル・タイムス 2012.06.26)

 人々が心配の種を選ぶ基準は不可解だ。西側諸国はイランの核兵器開発阻止に執念を燃やすのに、パキスタンの核開発計画に関してはほとんど議論しない。しかし常識で考えれば、憂慮すべきなのはパキスタンの核の方だ。


■100発以上保有し北朝鮮などへ輸出


明らかな点から示せば、パキスタンはすでに核兵器を保有し、核弾頭数は推定100発以上で、その数は今後も増える見込みだ。イランは核兵器をまだ1発も組み立てていない。同国が核爆弾を保有すると途方もない危険を招くとされる背景には、テロリスト集団との結びつき、欧米やイスラエルへの敵意、核技術拡散のリスク、中東で核開発競争の懸念などがある。しかし、そうした考えはパキスタンにこそ当てはまる。

 パキスタンは北朝鮮やリビアのほか、イランにさえ核技術を提供した。1999年にはインドと核戦争の瀬戸際まで行った。また、国際テロ組織アルカイダの最高指導者だったビンラディン容疑者はパキスタン国内に長年潜伏し、今も同国の部族地帯にアルカイダの最重要基地がある。

 2008年にインドのムンバイで起きた同時テロの実行犯の拠点もパキスタンにあった。パキスタン政府は強く非難したが、同国の情報機関がテロに関与した動かぬ証拠がある。もし同事件の拠点がイランだったら、西側は「国家支援テロだ」と声高に非難しただろう。ところが、パキスタンが相手だとうやむやな呟きで終わってしまう。


■69%のパキスタン人が「米国は敵」


 もちろん、対応の違いには理由がある。パキスタンは表向きには米国の盟友として巨額の支援を受けている。パキスタン軍を率いるカヤニ将軍はかつて米陸軍軍事教練施設で学んだ好人物であり、パキスタン軍兵士の多くはイスラム過激派との戦いに命をささげた。

 だが、それでもビンラディン容疑者がパキスタン軍施設の目と鼻の先に隠れていたことに納得のいく説明がなされていない。同容疑者殺害に対するパキスタン国民の反応は、自己批判よりも反米感情が目立った。

 パキスタンでは、同容疑者襲撃後、米軍が新たな襲撃を仕掛け、同国の抑止力としての核まで差し押さえるのではないかとの見方も広がった。その対抗措置として、パキスタンは核兵器と核分裂物質の製造を加速し、核弾頭の所在地を陸路で頻繁に変えたとされる。核の脅威が「悪の手に落ちた」のは明らかだ。

 イランを訪れた後、同国民が米国に好感を抱いていたと話す人は多いが、パキスタンを訪問した人は皆、根深い反米感情を経験する。米軍の無人飛行機による度重なる爆撃で多くの罪なき市民が犠牲になっており、パキスタン人の69%が米国を敵と見なしているとの調査結果もある。


■イスラエルが夏にも攻撃か


 にもかかわらず、西側諸国がこだわるのはイランのまだ存在しない核兵器だ。外交官らは、なぜイランの核を最優先するのか自らに問いかけることもせず、一方で、イランが核兵器で大虐殺を企てるというイスラエルの主張を本気にする者もいない。

 イランの核査察を急ぐ本当の理由は、イスラエルがすぐにもイランの核施設を攻撃し、大戦争に発展しかねないと懸念しているからだろう。外交官がそれを率直に言いたがらないのは、欧米の政策がイスラエルに動かされているとみられかねないからだ。しかし、彼らがイラン問題について「時間切れだ」という時、念頭にあるのはイスラエルの対イラン攻撃だ。

 イランの核問題に詳しい専門家の多くは、イスラエルが今夏か遅くとも9月か10月には攻撃を始めるだろうと考えている。

 イスラエルがパキスタンよりイランを気に掛けるのは当然だ。イスラエルはイランのミサイル攻撃を受ける可能性があるが、パキスタンのミサイルの射程からは外れている。しかし、パキスタンを拠点に活動するテロリストはイスラエルの友人ではない。ムンバイ同時テロではユダヤ文化センターも攻撃の対象になった。

 結局、パキスタンを黙認する一方でイランの核開発を必死で阻止するのは単純な理由からかもしれない。パキスタンはすでに核兵器を保有してしまったが、イランの核兵器はまだ阻止できるからだ。



By Gideon Rachman

<引用終わり>



■ 大英帝国の名残 ■

パキスタンはかつてのイギリスの植民地です。
イギリスはかつて大英帝国として、
世界の多くの地域を支配下に置いていました。

しかし植民地経営は、支配関係が明確な為に
植民地の住人の反発を受けやすく、
帝国主義各国は植民地経営から次第に手を引いて行きます。

しかし、かつての宗主国は資本関係で
旧植民地にしっかり利権を確保していますから、
独立後のこれらの国の発展は、
結果的には急宗主国の利益を拡大します。

さらに独立後のかつての植民地は
宗主国を恨んでいるかと言えばそうとも言い難く、
旧宗主国の文化は、かつての植民地の文化として
しっかり根付いています。

そういった意味において、
イギリスはアジア各国と見えない糸で繋がれているとも言えます。

アフガニスタンのタリバーンを支えるのはパキスタンの諜報部ですが、
パキスタンの諜報部を育て上げたのはイギリスのMI6です。

ですから、上のフィナンシャルタイムスの記事も、
書かれた内容以上に、その裏を深読みしたくなります。

そもそも、パキスタンに核を持たせたのは誰なのか?

■ アメリカとイギリスの深い関係 ■

そもそも現在のアメリカの支配層は
イギリスの影響を強く受けています。

アメリカの大銀行の資本を辿れば、
イギリスのロスチャイルド銀行に行きつきますし、
そうした意味においては、
FRBとてイギリスの出先機関の様にも見えてきます。

大英帝国は衰退した様に見えながらも、
その影響力は、アメリカを傀儡として行使されているとも言えます。

アメリカは第二次世界大戦後、世界の覇権国家として振る舞っています。
一方で、戦争で流されるのはアメリカの若者の血であり、
戦争に費やされるのも、アメリカ国民の血税です。

それでも、その結果としてアメリカに利益が集中するので、
アメリカ国民は不平は抑えられていますが、
アメリカの利益は銀行の裏口からイギリスに還流してゆきます。

イギリスはアメリカに憎まれ役を押し付けて、
美味しい所はしっかり持ってゆきます。

■ 国民と国家、そして国際金融資本家は別の存在 ■

ではイギリスが豊かと問われれば、
イギリス国民の多くは貧しく、失業率も高止まっています。

ではイギリスに還流した資金は何処い行くのでしょう。
それは、イギリス周辺のタックスヘヴンに蓄えられているのです。

国民と国家はあるいみで運命を共有していますが、
ロスチャイルドなどの国際金融資本家達は、
国家を利用こそすれ、国家に帰属するのもではありません。

彼らは国家を通じて国民を使役しますが、
彼らは、国家からも、国民からも拘束を受ける事はありません。

■ ヨーロッパとは一線を画するイギリス ■

EUの一員でありながらイギリスはユーロを採用していません。
それどころか、ユーロ危機に際しては、
イギリスからは、ユーロ崩壊を煽る様な発言が多く聞かれます。

イギリスは地図の上ではヨーロッパに位置しますが、
どうやら、大陸ヨーロッパとは一線を画する存在の様です。

■ FTタイムスが、イランを擁護しイスラエルを非難する理由 ■

アメリカ議会にはイスラエルの勢力が浸透しています。
ですからアメリカの世論はイランを批判します。

しかし、アメリカは本音の所では
イスラエルと心中は避けたいと考えています。

そのアメリカや世界の本音を
FTの記事は上手に炙り出しています。

欧米諸国がイランを封じ込める事で、
イスラエルのイラン攻撃を逆に牽制していると。


■ パキスタンの核を国際金融資本家達はどう使うのか? ■

イランのフェークな核と異なり、
パキスタンの核は現実です。

本来、政情不安の小国であるパキスタンが
核武装出来る事が異常なのですが、
インドとの対立を巧みに利用して、
国際金融資本家達は、パキスタンを核武装させました。

パキスタンはインド、イラン、アフガニスタンと国境を接しています。
中国やロシア、インドといった大国が
中東進出を試みる時に重要ポイントに位置する国とも言えます。

パキスタンの核武装は、
周辺大国からパキスタンの独立性を確保する事で、
中東をめぐる、これらの大国の力関係をバランスさせる為に非常に重要です。

フィナンシャルタイムスはパキスタンの核を非難して見せますが、
それは一種の宣伝の様な効果を持ちます。

核を手にした国家が、核兵器を手放す事は絶対にあり得ないからです。
なぜなら、国際的圧力に対しては、核の使用で対抗できるからです。

■ 中東から撤退するアメリカ ■

アフガニスタンからも、イラクからもアメリカは撤退します。
シリアで緊張が高まっていますが、
ロシアと中国が目を光らせる限り、
CIAの出先機関のアルカイダもそう好き勝手は出来ません。

結局、サウジアラビア政府が他国に干渉すればする程、
国民の支持は失われてゆきます。

バーレーンやシリアにチョッカイを出す政府に
サウジアラビア国民が異議を唱える日が遠からず訪れるでしょう。

それはアメリカの中東支配の終焉を意味します。

■ どんな筋書きが用意されているのか ■

FTの記事はイスラエルの軍事行動を仄めかしています。
9月か10月にもイスラエルが動くと書いていますが、
だいたいイスラエル有事の予測は外れます。

むしろ、アメリカの撤退で神経質になるイスラエルを牽制しています。

中東の春以降、中東情勢は急激に流動化しています。
今後、何が起こるのかはなかなか予測できませんが、
その筋書きは既に用意されているのでしょう。

世界経済が中東情勢と無関係で居られる訳も無く、
中東が引き金となるのか、
それとも金融危機の混乱に乗じて
中東の地図が書き換わるのか、
今後もとFTの記事には注意が必要かも知れません。

悲しいお知らせ・・・アサガオが台風で全滅

2012-06-26 06:36:00 | エコロジー
 



本日は悲しいお知らせがあります。

先日の台風4号の強風は、

浦安にある我が家のベランダでも吹き荒れ

アサガオの苗に壊滅的打撃を与えて去って行きました。

強風だけなら、これ程までの被害は無いはずですが、

ベランダの手すりを舐めたら塩味がしたので、

潮風の影響なのだろうと思います。

浦安の海岸線からは5Km以上離れていますが

強風で吹き上げられて海水が吹き付けたのしょう。



娘達が学園祭の食材として育てているズッキーニも全滅しました。

娘の学校は海岸からは優に15Kmは離れていますが、

先生曰く、やはり潮風の影響だそうです。


農業は自然を相手にした産業です。

今回の台風で各地で農業被害が出ています。

どんな、作物を何時ごろ作付けるか、

古代から人々は、自然を観察しながら過ごしてきたのでしょう。

今年は6月に入ってから低温気味です。

原発事故の影響の電力不足で、

世間の方は「暑い夏」を心配していますが、

農家の方は、毎年の様に「寒い夏」を心配します。





大冷夏10年周期説といのもあります。

冷夏の原因は、太平洋の海水温の変動によって発生する「エルニーニョ」ですが、

1983年、1993年、2003年は記録的な大冷夏でした。

東日本の平均気温にすれば、例年より-0.6℃程度の変動ですが、

2003年の冷夏の際には米の緊急輸入が行われるなど、

稲作への影響は甚大でした。

温暖化ばかりが注目を集めますが、

寒冷化がいかに食料供給にとって影響が大きいか

来年あたりは、私達も再認識するのかも知れません。

来年は2013年。

大冷夏にならなければ良いのですが。




台風被害から一週間、

アサガオのわき芽が伸びないかと期待しましたが、

どうも成長が止まってしまった様です。

どうやら、蒔き直す必要がありそうです。

今から蒔いても、花時期は8月の中旬以降でしょう。

我が家のアサガオは、緑のクーラーを兼ねていますから、

「今年の夏は涼しいといいな」などと、

先程書いた事と矛盾した事を考えてしまいます・・・。





<追記>

こんな「冷夏」の記事を書いていたら、

気象庁から「3か月予報」が発表されました。

今年の夏は、太平洋高気圧に覆われ

7、8、9月は、例年並みの「暑い夏」だそいうです。

農家の方は一安心。

一般人は、夏の電力供給が心配です。

ロンポールは挫けない・・・共和党全国大会を楽しみに

2012-06-25 11:59:00 | 時事/金融危機
 


■ ランド・ポール上院議員がロムニー支持を表明 ■

ロンポールの息子、ランド・ポール上院議員が
共和党大統領候補選でのロムニー氏支持を表明した事で、
「ロン・ポールが裏切った」との声が一部に聞かれます。

私はロン・ポールが果たして正義の味方なのか判断出来ませんが、
彼の存在は、アメリカの大統領選を確実に面白くしていたので、
彼の脱落に落胆していました。

■ 8月27日からの共和党全国大会で何かが起こる? ■

ところが、ロン・ポールは未だ諦めていなかった。

日本でのロン・ポール情報は
「豆長者」さんのブログが一番詳しいと思うのですが、
http://mamechoja.blog22.fc2.com/

それによると、ロン・ポールとその支持者達は、
8月27日から始まる共和党の全国大会で、
何かアクションを起こす様です。

これで、共和党の全国大会まで、少しワクワク出来ます。
でも、実際にロンとその支持者達に、何が出来るのでしょうか?
肩透かしを食う可能性も含めて、楽しみにしています。



クラウド時代の落とし穴・・・ファーストサーバーのデータ消去事故

2012-06-25 10:55:00 | 時事/金融危機
 

■ ファーストサーバーのデータ消失事故 ■

ソフトバンク系のサーバー会社、
ファーストサーバーが顧客のデータを消失してしまいました。

原因は、メンテナンスソフトのバグ。

1) デリートコマンドの停止が抜けていた
2) デリート対象のサーバー指定が抜けていた

この2重のミスにより、サーバー内データを全消去してしまった様です。

さらに、

3) 復旧の過程の不手際でバックアップサーバー内も全消去してしまった。

これによって、ファーストサーバーにデータを預けていた顧客のデータは
完全に復旧出来ない状態になりました。

http://ascii.jp/elem/000/000/704/704752/
「ファーストサーバ、大規模障害での顧客データ復旧を断念」 (ASCII x TECK)

■ クラウドの落とし穴 ■

このファーストサーバーが提供するサービスの一つに
「サイボーズ」のオフィスシステムがありました。

顧客データーや、スケジュールデータ、その他のデータを社内で共有したり、
ミーティングのスケジュールを管理するシステムです。

一般的には社内サーバー内に構築されるシステムですが、
小規模な会社などでは、社内サーバーはメンテナンス等コストが掛かります。

そこで、レンタルサーバー内にこの様なシステムを構築して、
それを、サービスとして顧客に提供していました。
今はやりの、「クラウド・コンピューティング」ですね。

一般的には、これらのサーバーはバックアップがしっかりしているので、
サーバーにトラブルが生じてもデータの消失が防げます。
ですから、脆弱な社内サーバーよりもある意味信頼性が高いはずです。

ところが、今回は肝心のバックアップまで消去してしまうという、
まさに原発事故の様な?、起こり得ない事故が起きてしまった。

今回はデータの喪失がプログラムのバクから発生した事故ですが、
悪質なウィルスやハッキングでこの様な事態が発生す可能性もゼロではありません。

ネット社会は便利ですが、
データは実体を持たない存在です。
いわゆる、バーチャルと言われる存在です。

現代の社会において、活発に価値を生み出しているのは
バーチャルの世界です。
ネットビジネスや、オンラインゲームなど、
かつてインターネットの黎明期に夢として語られていたサービスは、
いつの間にか現実のものとなっています。

クラウドコンピューティングの発展は、
近い将来、現実の世界でのオフィスを凌駕してゆく事でしょう。
「昔は通勤ラッシュなんてあったねぇ」
などと、懐かしく語る時代がやって来るのかも知れません。

その一方で、ネットワーク空間で大規模な障害が発生すれば、
社会が破壊的ダメージを被る事に繋がります。

私達は不測の事態に備えて、
大切なデータは個人でバックアップしなければなりません。

尤も、ハードディスクがクラッシュして、
家族の5年分の写真が無くなっちゃった・・・
そんな話は、身近にもゴロゴロしています。

やはりデータの世界は「虚」な存在なのかも知れません。





夢ってなんだろう?・・・「銀の匙」荒川弘

2012-06-22 12:56:00 | マンガ
 



■ 娘は農ギャルを目指しています ■

我が家の娘は農業科の高校に通っています。
何故農業科かと言えば、学園祭でダンスを踊りたかったから。

娘の通う高校(普通科併設)は文化祭が盛んな事で知られています。
学園祭の夜には、全校生徒がユーロビートに乗って17分も踊り狂います。
ダンスのインストラクターに選ばれた10名程の高3の女子は、
ステージの上で、華やかなダンスを披露します。

高校の願書提出の二週間前、
私と娘はこの映像をネットで見つけてしまいました。
それまで、フツーに中堅の普通科の高校に進学して、
専門学校にでも行って、フツーに就職すれば好いと思っていましたが、
あまりもフツー過ぎて、娘も志望校に進学するという熱意は希薄でした。

ところが、ダンスの映像を見た瞬間、娘はこう言いました。
「私、この学校にする」
その学校は県立でも上位の高校です。
どう逆立ちしても、娘の偏差値では受かる事など不可能です。

でも、その学校には各学年一クラス、「農業科」のクラスがあります。
「農業科なら入れるけれど、農業やる?」と聞くと、
「農業科でも好い」と言うではないですか!!
県立願書の提出期限は2週間後に迫っていました。

実は、私は息子の受験の時も、この学校の「農業科」を進めていました。
「農家の一人娘をゲットしたら、逆玉だよ」って。
息子は返事すらしませんでした。

娘がまさか農業など志すはずも無く、娘には勧める事もしていませんでした。
「農家の跡取り息子をゲットすれば、玉の輿だよ」というのは
逆にリアルで言うのがはばかられます・・・。

イヤー、世の中なにが起こるか分かりません。
まさか、娘の方から「農業科に行来たい」と言うなんて・・・夢の様です。
だって、私の趣味は小学校の頃から「園芸」でしたから。
中学生の頃には親友と洋ランの栽培をしていました。

■ 個性豊かな農業科の生徒達 ■

学年に一クラスだけある農業科の生徒はユニークです。

上位の生徒達には、そこそこの普通科を目指せるのに、
植物が好きで農業科を志望して来る生徒も居ます。

家が農家で、お父さんも、お爺ちゃんも
同じ学校の卒業生という生徒も居ます。

花が好きだから・・という理由で入学した女子も居ます。

勉強が嫌いだけど、自由な学校と聞いて入りたかった
という生徒も少なからず居ます。

学力も結構バラバラ。

そんな生徒達が今取り組んでいるのが、
トウモロコシの栽培と、
草花や作物や農機具や肥料の名前を覚える事。

ノートにトウモロコシの日々の成長を記録し、
見分けの難しい雑草をスケッチしては名前を憶えてゆきます。

■ 実習は楽しい ■

我が家の物干しには、娘の作業着が風に揺れています。
農家のオッチャンが着ているようなヤツです。

花も恥じらう高校生女子が、
作業着に長靴姿で、畑を耕す姿が目に浮かび、
思わず笑ってしまいます。

「お父さん、今日畑を耕す実習をしたけど、
 ○○君は農家だから、女子の分も手伝ってくれるんだよ」

「お父さん、ヨウサンリンピって知ってる。肥料の名前だよ」

「お父さん、○○はミミズが怖いから、実習で大騒ぎだよ」

「お父さん、花をスケッチしてたらアレルギーで目がこんなに腫れちゃったよ」

「お父さん、○○ちゃんは英語が苦手なんだよ。 I is ~ て覚えちゃってるんだよ。」
 
これが最近の我が家の食卓の会話です。

■ 北海道の農業高校を舞台にした漫画「銀の匙」 ■

そんな娘の16歳の誕生日プレゼントに買ってあげたのが、
「鋼の錬金術師」で一躍名を馳せた
「荒川弘」の最新作「銀の匙」です。

進学校の中学に通いながらも、
成績に伸び悩み、親とも上手く行かない「八軒」は、
担任の薦めで全寮制の「大蝦夷農業高校」に進学します。
専攻は酪農。

生徒達は、乳牛飼育や、農場経営、養鶏など農家の跡取りです。
中には獣医志望の子も居ます。

皆、将来の目的が明確です。
だいたが親の後を継いで立派な農家になる事を夢見ています。
農業経理を学んで、家業を拡大したいという望みを抱く子も居ます。

小さな頃から親を手伝って来た子供達は、
農業に関しての専門知識も豊富で、
農業高校ならば「1番」になれると意気込んでいた「八軒」は、
確かに学年一位にはなりますが、
各教科で一位を獲得する事は出来ません。

そんな不純で優秀な農業高校1年生と、彼を取り巻く農業高校生の
日々の生活や葛藤、そして交流が、
生き生きと描かれているのが「銀の匙」です。

■ 農業の実体を少年誌でじっくりと描く ■

「銀の匙」の掲載誌は「週刊少年サンデー」です。
青年誌向けのこの作品を、
少年誌で掲載した編集部に先ず喝采を送りたい。

そして「もやしもん」という先鞭はあるものの
農業という地味なテーマを、
少年少女達が楽しめるエンタテーメントに仕立てた
荒川弘に、さらなる拍手を送りたい。

少年少女を飽きさせないように、
笑いをちりばめながら
テンポ良く展開するストーリーですが、
扱っている内容は実に深い内容です。

TPPを踏まえ、日本の畜産農家が危機に瀕している事。
子供も含めた家族の労働無くしては農業が成り立たない事。
そして、鳥インフルエンザや口蹄疫などの伝染病で、
苦労して作り上げた農場が一瞬で潰れ、負債の山が残る事。

そんな農家が抱える問題を深刻に描くのでは無く、
大人も子供も老人も真剣に楽しく農業に向き合う姿を描いてゆきます。

■ 「夢」を問うストーリー ■

「銀の匙」のテーマは農業と同時に「夢」です。

「八軒」は学力優秀ですが、将来の夢が見つからずに挫折します。
そんな彼が辿り着いた農業高校の生徒は皆「将来の夢」を明確に持っています。

そして、彼らの「夢」は非常に「現実的」です。
高校入試の時点で実業高校を選択する子供達は、
ある意味において、普通科に通う子供達よりも
自分の将来をしっかりと見つめています。

そんな彼らの「夢」と対比させる形で、
「八軒」の兄が登場します。
東大を「夢」の為に中退した彼の「夢」は現実的とは言えず、
それに対する努力も「徒労」と呼べるものです。
そして「自分の分をわきまえない夢」は周囲に迷惑を掛けます。

一方で「夢」を持たない「八軒」を作者は否定しません。
教師達も「夢がないのが好い」と言ったりします。
「夢」とは成長の過程で見つければ良いのであって、
無理に掴み取るものではないと言いたげです。

「夢」に苦しむ子供の姿も描かれます。
家業の乳牛飼育以外に興味を持つ子供、
獣医になりたいと志望しながらも、動物の死に対して過敏な子供・・。
しかし、彼らも日々悩みながら、その答えを見つけて行くのでしょう。


■ 経済動物としての家畜への愛情 ■

この作品で繰り替えされるテーマの一つに
経済動物としての家畜への愛情があります。

家畜は屠殺されて食肉になって初めて価値を生じます。
生まれた時から殺され、食べられる事を運命付けられています。

生まれたての子豚を世話する実習で、子豚のあまりの可愛さに
「八軒」は思わず名前を付けそうになります。

ところがクラスメイトは皆、
「名前だけは付けるな」
「付けるならば豚丼とかにしとけ」と助言します。

何故ならば名前を付けたら愛情が生じ、
別れが辛くなる事を、
彼らは小さな頃から経験しているからです。

「豚丼」と名付けられたそのブタは、
すくすくと成長して、数か月で食用として殺されます。

「八軒」はそれでもブタに愛情を注ぎ、
そして愛する物を殺して食べるという矛盾に
正面から向き合います。

周囲の子供達も、当然として受け入れていた事を
もう一度、考え直すきっかけを得ます。
「農家にとっての家畜への愛情とは何か?」と。

■ 宮崎の口蹄疫で処分される家畜を「かわいそう」とTwitterした厚生技官 ■

新型インフルエンザ騒動の時、
厚生労働省の女性技官が、
TVに出演して厚生官僚批判を繰り返して人気を得ます。

その彼女が宮崎の口蹄疫で感染が発生した牛に対して
下記の様にTwittして総攻撃を受けます。

私はmow mow やoink oinkの専門ではないが、口蹄疫は人間の「はしか」みたいなものだろう。麻疹も感染力が強いが、罹ったからといって子供を殺すことはしないだろうに。herd immunity獲得まで待てば良いのではなかろうか。

口蹄疫に感染したmow mowのお肉をデパ地下で70% off販売したら、間違いなくわたくし、毎日買いに行きます。超高級和牛、通常の30%値なんて夢のようなお話。デフレに拍車をかけるかもしれないけれど。

これに対する攻撃はだいたい以下の様な内容です。

「牛は経済動物だ。
 感染の拡大は、経済動物としての牛を飼う農家を危機にさらす。
 それを厚生労働省の技官ともあろうものが「かわいそう」とは何事だ」

彼女は感染症と公衆衛生の専門家ですが、
人と家畜の感染症の影響を混同した所に過ちがあります。

人は感染症で死なない事を重要視しますが、
家畜は感染しただけで、その肉の流通は止められるので
「感染=経済性の喪失」なのです。

この様に農業における家畜の扱いは現実的でシビアです。

■ 淡い恋を交えながら、八軒の成長を瑞々しく描く傑作 ■

「銀の匙」は3巻が既刊され、7月に第四巻が発刊されます。

八軒とクラスの女子との淡い恋を交えながら、
話は高校1年の秋へと進んで行きます。

個性的な農業高の物語から目が離せません。

この素晴らしい作品は2012年の「マンガ大賞」を受賞し、
「手塚治虫文化賞新生賞」を受賞しました。

中学や高校生のお子様がいらっしゃる方は、
是非、子供と一緒に読まれて、
農業や「食べる」事について語り合われては如何でしょうか?
そいして将来の夢について語り合って下さい。



本日は、購入される方の為に、ネタバレしないように書いてみました。