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経済の最新情勢から、世界の裏側、そして大人の為のアニメ紹介まで、体当たりで挑むエンタテーメント・ブログ。

アニメよ今年もありがとう・・・2016アニメ映画ベスト

2016-12-29 12:50:00 | アニメ
 

2016年もあとわずかとなりました。
年末恒例のアニメ・ランキングですが、順位の発表です。
今年は劇場アニメにメガヒットが生まれた年なので、先ずはそちらから。

■ 日本アニメのレベルの高さが一般に認識された2016年 ■

今年は『シン・ゴジラ』『君の名は。』『聲の形』『この世界の片隅に』と4本もの特撮やアニメの大ヒット映画が誕生した年として語り継がれる年となりました。


今までは「オタク」や「若者」のカルチャーとされていたアニメ。特にお金を出して観るアニメ映画はジブリやディズニーというブランド以外は、実写映画よりも格下、或いは幼稚だと世間は考えていました。

しかし、『シン・ゴジラ』がポリティカル・フィクションとして現実の世界の一端を見せつけ、『君の名は。』はエンタテーメント作品としてのアニメのポテンシャルの高さを興業収益という形で証明しました。

『聲の形』は一般の認知度は薄いものの、この作品を十回以上観た若者が少なからず存在する事から、漫画やアニメというジャンルが優れた小説同様に、人の人生観に大きく影響を与え得る事を立証しました。

そして『この世界の片隅に』によって、日本の実写映画が映像表現としてアニメに大きく後れを取っている事が明確になりました。

「アニメは、もはや実写映画よりも優れている」・・私は以前よりこう主張して来ましたが、ジブリ作品の様な「お子様向け」以外の作品が実写映画の興行収入を超えた事で、映像業界における新たなヒエラルギーが構築された年として2016年はエポックな年となるでしょう。


第1位 『聲の形』



多くのアニメの評論家が今年のベスト1に『この世界の片隅に』を推すと思われるので、私はあえて『聲の形』を選びました。実際にこの作品は4回、『この世界・・』は3回、『君の名は。』は2回、『シンゴジラ』は1回、映画館で観ました。この回数が私の各映画への思い入れの深さをそのまま反映していると思います。

人は「善」でありたいと願うが・・・『聲の形』 

「赦し」を許せない人々・・・『聲の形』

「風景に語らせる」新海誠と、「画面に語らせる」山田尚子・・・現代アニメの実力

『聲の形』聖地巡礼・・・登場人物の息使いが感じられる街

『この世界の片隅に。』と『聲の形』を比べた時、その方向性が正反対である事は見逃されがちです。作品の舞台が過去か現代かというだけでなく、作品の内容が「誰もが否定できない(納得する)内容」か「少なからぬ人達を不快にする内容」かの違いが大きい。

『この世界の片隅に。』の戦時下で必死に生きるすずちゃんを観て「なんだ、あのボケーっとした女は!!」と言い放ったのは庵野監督だそうですが、世間的にはすずちゃんを否定する人は皆無でしょう。いえ、否定できない下地が戦後日本には出来あがっているのです。そういった意味においては『この世界の片隅に。』は批判を心配する事無く、作品世界のクォリティーを上げる事だけに専念できる作品で、それが最大限に発揮された作品です。

一方、『聲の形』は「身体障害者へのイジメ」をテーマとしているだけに、作品や制作サイドが世間の批判の的になるリスクすらある。さらには、登場人物の心の葛藤が赤裸々に表現させるために、エンタテーメントとしては始めから成り立たない作品です。そんな「マイナス」を承知しながらも、エンタテーメント作品を得意とする京都アニメーションがこの作品に挑んだ事を私は高く評価します。(PA. WORKSの得意分野ですが)

この評価を獲得する事が難しい作品に京都アニは若手のエースの山田尚子を充てる事で会社の未来を彼女に託した。

この会社の未来とは「アニメが実写を超えて、一般の共感を得られるジャンルになり得るのか」という問題では無いかと・・・。

30代以下の年代層はアニメだから、実写だからと作品を区別する事はしません。面白ければどちらでも良いと考えています。これが良い事かと言えば、必ずしもそうではありません。適当なアニメを作ってもある程度の支持が得られる状況が続くと、アニメは現在のTVドラマの様にツマラナイ物になってしまいます。

量産されるツマラナイTVドラマや、同じく量産される無価値のアニメや、全く進歩を止めてしまった実写映画と同じ道を歩まない為に京都アニと山田尚子が選んだ道は「徹底した表現への拘り」だと思います。

デザインの仕事をしている「どうして○○でないといけないの?」と他者にも自分にも問われる事の繰り返しです。ただ通常の仕事では、時間の制約の中で、何と無く理由を付けて片付けてしまうことが多い。

『聲の形』で山田尚子は、「どうしてこのシーンはこのカットで無いといけないのか・・・。どうして、この音で無いといけないのか・・・。」という問いかけを、ひたすら繰り返している様に感じます。ベテランの作家ならば、経験によって簡単に見つかる答えも、若手にはなかなか見つけられません。時には間違った選択もする。そういった逡巡や間違いもすべてひっくるめて、この作品はひたすらに何かを問いかけ続ける。

「どうして将也はこう言ってしまうのか」「どうして硝子はこういう行動をするのか」・・・原作の中である程度決着していると思われた事も、再度問い直されてゆきます。

この丁寧な、丁寧な積み重ねは、ある種の「刺」として観客の心に引っ掛かります。それを不快と感じる人も多い。

しかし、その「刺」をしっかりと認識して、そこに今までとこれからの自分を見つけようとした子供達も沢山居るでしょう。彼らは自分自身に心の中で語りかけ、そしてネットで誰かに伝えようとします。彼らの伝えたい事は「この映画が素晴らしい」という事では無く、「この映画を観て自分の中にどういう変化や気付きが生じたか」という事です。

『この世界の片隅に』も確かに「語りたくなる」作品ですが、その多くはアニメ技法としての完成度や、戦時下の生活に対する共感です。あまりすずさんの内面をどうの・・・という事を語る人は居ません。そもそもすずちゃんは「不思議ちゃん」という設定で、さらには「りん」ちゃんとの一件を完全に排除しているので、すずちゃんの葛藤は周到に取り払われています。

『聲の形』を私が今年のベスト1のアニメ映画として選ぶ理由は「観た人の人生に影響を与える」という点に尽きるかと。これは原作者に与えられる栄誉かも知れませんが、映像化に当たり、この難しいテーマをある程度エンタテーメントとして成立させた吉田玲子や山田尚子の努力も称賛に値するものだと確信しています。

「○十回目を観に行きます。もう近くでは上映していないので片道3時間電車に乗って行きます」なんて書き込みがTwitterある映画って・・・私は記憶に無い。




第2位 『この世界の片隅に』



『この世界の片隅に』...ジブリの時代は終わった

『この世界の片隅に』・・・戦争の中でも人は生きている

アニメ史や映像史としては今年ベスト1として揺るぎの無い作品ですが、あえて2位にした理由は誰もが1位に推すであろうから、私としては健闘した『聲の形』を推したい。

50回観ろと言われても何ら苦痛を感じない映画ですが、原作を読むと、こちらも又素晴らしい。漫画の表現様式の多用性に驚きます。一方で、それを破たん無く映像にまとめた片淵監督の手腕には脱帽。

とにかく「すずさんがそこに居る」という感覚がハンパ無くて、「体温を感じるアニメ」として高畑勲の作り上げた表現の、その先に到達しています。

この作品の最大の見せどころは「情報量」でしょう。とにかく2時間の間のエピソード数は圧倒的で、それをポンポンとテンポ良く進めて破たんが無い。さらに、描写の情報量も多く、動き一つ一つにハっとさせられる事が多い。

そして、戦争や兵器の情報量も多い。爆弾って機体を離れるとああやって落ちて行くのか・・・なんて事だけ観ていても十分に観賞に耐えうる。さらには、当時の街の再現の情報量や、戦時下の生活の情報量も多い。

「ああ、アニメって、ここまで密度を高めると、こんなとんでも無いリアリティーを生み出すのか」という驚きに満ちた作品です。「どうだ、このCG、リアルだろう」という方向性がいかにツマラナイものかを実感させられます。



第3位 『君の名は。』



今年の最高傑作確定!! 新海誠『君の名は。』・・・細田守を消化した新海誠

「良い映画」と「悪い映画」・・・私的映画感

『君の名は。』聖地巡礼・・・堀と白壁の街、飛騨古川+


今年、この作品が無ければアニメの今後は違うものになっるでしょう。それ程のインパクトのある作品でした。観終わった後、大ヒットを確信しましたが、まさか・・・その後の『聲の形』と『この世界の片隅に』が、これを上回る出来だったとは、当時としては予想も出来ず・・。

とにかく、「エンタテーメント作品として良く出来ている」という一言に尽きます。「入れ替わり」というイベントの描き方、一転して「喪失」のインパクト。さらに、「喪失」を回避する為の展開の手に汗を握る感じ。さらには雄弁に語る雄大な景色、RADWIMPSの曲のハマリ具合。

どれを取ってもこの映画の完成度は非常に高い。
一方で、中身が無い・・・。
だからヒットした。


悪口の様に聞こえるかも知れませんが、「大勢の人に支持される」為には、中身が無い方が成功する良い例なのかも知れません。エンタテーメントを楽しみに来た観客に、あまり重たいテーマは好まれません。


第4位 『シン・ゴジラ』

今度のゴジラは固定砲台だ!!・・・『シンゴジラ』




あまり否定的な事だけ書くとアレなので・・・肯定的な内容も・・・。

『シン・ゴジラ』は「怪獣映画」というジャンルからゴジラを解放した功績は大きい。「ゴジラ=自然災害」と定義する事で、視聴者は「ゴジラ=東日本大震災」として作品世界をリアルに感じる事が出来ました。

そして、繰り広げられる政治劇を当時の民主党政権の混乱と重ねて見る事で「ゴジラ=ポリティカル・フィクション」として「新たな気づき」の気かっけを得た方も多かったのは。だから、かなり年齢層の上の男性がゴジラを支持しました。これは従来の「ゴジラ=怪獣映画への郷愁」という支持とは全く異なる、「今の時代のゴジラ」の誕生の瞬間でした。






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4 コメント

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Unknown (よたろう)
2017-01-02 15:19:13
『無料駐輪場からアンバサダーを抜ける道が在ったとは
知らなんだった。』

知ることが出来たのも自転車通勤のお蔭です…
昨年は劇場作品が豊富だったのは確かでしょうが、私も
人力様に負けず劣らずヒネクレ者でして「君の名は。」
「聾の形」も見てませんし見る気が湧きません。
世間が傑作と騒ぎ出すとモチベーションが一気に落ちて
しまいます、「聾の形」に関しては純粋に原作の読み切
り版と連載版初回を見て不快に感じたので…
連載雑誌派は思いもよらないお気に入りに巡り合えます
が一度嫌うととことんページの邪魔に感じてしまいま
す。

私のベストは「この世界の片隅で」「ズートピア」でし
た、ってかそてしか観れてません(ガルパンの爆音上映
と4D、ゼーガペインはノーカンで)
すずは確かに感情移入がし難い主人公ですね状況に流さ
れ現実と幻想の狭間の主観で話が進み…玉音放送の後の
アレも戸惑いました。
只、当時の市井の人々の大半がこう言った感じで戦中の
本土を支えたのだろうなとは思います。
鑑賞後も良い意味で「終わった気がしない」アニメした
ね、お義母さん役が新谷真弓さんで広島弁指導だったと
はw

「ズートピア」は上半期で完全に埋没した事と人力様か
ら「悪いアニメ」として酷評されたので余計愛おしくな
りましたw
ご指摘にあったようにこのアニメの大本のプロットは
「48時間」や「リーサルウェポン」みたいな80〜90年代
のポリスアクションが下地にあります。
過去記事を見るに人力様はこの時期のカルチャーに嫌悪
感を抱いているようですが私にとっては非常にノスタル
ジーを感じる時期です。
幼いころ親に叱られながらも夜更かししてこれらの洋画
劇場を視聴していたので(当然大御所声優による吹き替
えが至高)

異動やら私事でバタバタしてたので巷の熱狂にはイマイ
チ乗れませんでした。
今後も劇場オリジナルアニメが結構控えているようです
が、これは映像ソフト売り上げバブルが弾けた影響もあ
るでしょうね。
「君の名は。」ヒットの特集をみるにあの新海監督がコ
レだけ一般受けに成功したのはプロデューサーの影響が
大きいようです。
何れにせよ来年以降のアニメ業界に大きな影響を及ぼす
転機の年ではあったでしょうね。

P.S「怪獣=自然災害」としての話だったら個人的にシ
ンゴジより「地球防衛企業ダイガード」方が好きです。
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Unknown (よたろう)
2017-01-02 15:25:42
『今更こんなこと言うのもなんですが…』

1000文字って少なすぎません?

先のコメントも31日に投稿したつもりだったのですが文
字数が引っかかっていた事が気付きませんでした。
承認制コメントでも未表示のフラグが立たないと成否を
確認できないので不便です。
私のPCフォルダには既に7コメント位「ボツ案」があり
ますもので新年早々クレームとさせていただきますw
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Unknown (人力)
2017-01-03 04:04:46
よたろう さん

アニメがインフレーションを起こしている様で怖いですよね。業界全体としては粗製乱造で疲弊しそうな感じがします。

宇宙戦艦ヤマトやガンダムブームが去った80年代後半から90年代初頭、アニメは冬の時代に入っていましたが、『エバンゲリオン』『ゼーガペイン』『無限の利バイアス』など名作が誕生したのもこの時期ですね。

しばらくは玉石混淆の状態が続くと思われますが、業界全体が疲弊するとハリウッド資本に蹂躙されそうで恐ろしい。

SAOがアメリカでTVドラマ化だそうですが・・・多分、日本人には残念な作品になるのではないかと。彼らはアクションに魅力を感じ、日本人は心の機微に魅力を感じるのですから、感性が違い過ぎます。
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Unknown (人力)
2017-01-03 04:06:01
よたろう さん

1000文字ルールに一番引っかかっているのは実は私です。さらに、連続コメントも引っかかるってご存知でしたか?
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