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ステルスインフレ②・・・世界は一つ

2011-01-24 15:46:00 | 時事/金融危機


■ 消えた「円」の不思議? ■

上のグラフは日本のマネタリーベースとマネーストック(マネーサプライ)の関係です。

私は経済学者ではありませんから、あまり詳しくは説明出来ませんが、

マネタリーベース = 日銀の通貨供給量
マネーストック  = 市中に出回る通貨と預金の総量

と簡単に定義する事が出来ます。

リフレ論者達は、「日銀が通貨を大量に供給してマネタリーベースを拡大すれば、国内に通貨が供給されて景気は上向く」と論じています。

しかし、グラフを見れば明確な様に、2000年代に入って日銀はゼロ金利政策を採用し、大量の「円」を供給してきましたが、日本のマネーストックは増えていません。

では、供給された「円」は何処へ行ったのでしょうか?

■ 円キャリートレードで国外に流出した円 ■

日銀のゼロ金利政策で潤沢に供給された「円」は「円キャリー・トレード」として、海外に流出しました。

① 日銀が低金利(ゼロ金利)の円を供給
② 「円」を買って、「外貨」に交換する
③ 外貨運用で利ざやを稼ぐ。(国債運用でも5%程度の金利が得られる)
④ 稼いだ「外貨」を市場で安く調達した「円」に交換する
⑤ 「円」を返済し、運用益と為替差益を得る

こうして海外に「円」が流出するので、日銀がマネタリーベースを拡大しても、国内のマネーストックは一向に増えませんでした。

■ ゼロ金利がもたらした円安 ■

大量に供給された「円」は為替市場でだぶ付く事になり、「円」は実力以上に値下がりします。

① ゼロ金利政策で大量に「円」が供給され「円安」を誘導する
② 「円安」によって輸出が拡大する。
③ 貿易黒字が拡大する

2000年代初頭に国内の不景気とは対照的に、輸出企業が市場最高益を更新していった背景には日銀のゼロ金利政策の恩恵がありました。

■ 「財政赤字の拡大」を可能にする「貿易黒字」 ■

「ドーマの定義」というのがあります。
 「名目GDPの成長率 > 国債金利」であれば財政は破綻しない」という定理です。

家計でも所得が増えれば、借り入れ上限金額も増やせます。国家でも同様であるという理論です。

① 国債金利は限りなくゼロに近い
② 輸出によって名目GDPが成長する
③ 「ドーマの定義」によって、財政破綻が回避できる。


尤も、私はかなり胡散臭い理論に思えます。何故なら、家計では「稼ぐ人=返済する人」ですが、国家では稼ぐのは国民で借金するのは国家です。「国民資産=国の資産」という考え方無くしては成り立ちません。

国家が財政破綻しそうになったら国民資産を没収しなければ「ドーマの定義」は成り立ちません。

いずれにしても、日銀は巧みな金利操作によって、日本の財政赤字拡大を可能にしました。

■ 円はアメリカでバブルを作った ■

この時期、アメリカは盛んに日本に金融緩和を促しました。

① 低コストで「円」を手に入れる
② 日本からの輸入物価を安く抑え、米国内の消費を支える

いずれにしても、ゼロ金利政策は日本とアメリカの双方にメリットがありました。

しかし、過剰に供給された「円」はアメリカで住宅バブルを成長させていきます。

① 住宅価格が上昇する
② アメリカのインフレ率が経済の実体以上に上昇する(バブルの生成)
③ 米国金利が高止まりする
④ 世界の資金が米国に還流する

この様に、日本の不景気を背景としたゼロ金利政策が、アメリカでマッチポンプの様にバブルを膨らめました。

■ 日銀の金利引き上げが招いたリーマンショック ■

日銀は2006年7月にゼロ金利政策を解除します。

これによって「円キャリートレード」の流れが逆転します。アメリカの住宅市場から急激に資金が流出してゆきました。

「住宅価格は永遠に上昇し続ける」というアメリカ人の幻想が崩壊した瞬間です。

① 日銀のゼロ金利政策解除
② 円キャリートレードの逆転
③ 住宅市場からの資金流出
④ 住宅価格の下落

サブプライムローンは元々ローンの返済能力の無い人々が、住宅価格の将来的な値上がりを担保に組んだローンです。低金利で供給される「円」が無ければ、こんなリスクの高いローンは生まれなかったでしょう。住宅価格下落は、最も返済能力に劣るサブプライム層のローンを直撃します。

① 住宅価格が下落する
② 住宅価格の値上がりを見越した「ローンの借り換え」が出来なくなる
③ サブプライム層のローンから破綻し始める

サブプライムローンはよりリスクの低いローンと一緒にごった煮にされ、MBSとしてさらに切り売りされていまいた。

① MBSや派生的金融商品にサブプライムローンが混入
② MBSを中心に債権価格が暴落
③ 金融機関に債務超過の疑いが発生する
④ リーマンブラザーズが生贄となり、世界は金融機関を税金で救済する

東洋の島国の不景気が、世界の不景気の引き金を引いた瞬間です。

■ ドルキャリートレード ■



上のグラフはリーマンショック後の「ドル」と「ユーロ」と「円」のマネタリーベースの推移です。

ドルは二倍に膨れ上がっているのに対し、円は増えていません。

円高・ドル安を経済の観点から難しく説明するよりも、このグラフを見れば一目瞭然です。
ドルはリーマンショック後、1/2に減価しているのです。

低金利で津波の様に供給されるドルは、日本の場合と同様、マネーストックには結び付かず、ドルキャリートレードが発生します。

① ドルが津波の様にばら撒かれる
② 新興国市場に投資される
③ コモディティー市場(資源・食料・石油)に投資される
④ 債権市場に投資される
⑤ 株式市場に投資される

この様に低金利で供給されるドルは、実体の無いバブルを生み出しています。

ダウ平均株価が1万ドルを回復したのも、アメリカ国債が買われ続けるのも、コモディテー市場が高騰するのも、全て偽りの回復です。

■ ステルス・インフレ ■

グローバル経済では、金融緩和政策は自国内よりもよりリターンの大きい市場に資金を供給する結果となります。

リーマンショック以降、世界に供給された莫大なマネーは、新興国やコモディテー市場でバブルを形成すると共に、本来価値が下がるはずの株や債権の価格を不当に吊り上げています。


これは、隠れたインフレ=ステルス・インフレです。

バーナンキは「インフレなど15分で潰して見せる」と豪語していますが、中国やブラジルで発生するインフレは15分では潰せません。

繋がった世界では、金融緩和政策は遠くで見えない危機を生み出すのです。

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