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元の切り上げは第二のプラザ合意となるのか?

2010-06-21 16:58:00 | 時事/金融危機



■ 中国が元を切り上げる? ■

中国が元の柔軟化を発表しました。
「人民元の大幅切り上げか?」という憶測も飛んでいますが、内容は金融危機前の変動幅に復帰するだけで、ニュースの見出し程の影響は期待出来ず、相場も事態を静観しているようです。

■ 何故アメリカは元の切り上げを要求するのか? ■

アメリカ議会は元の切り上げを声高に叫ぶ議員も大勢居ます。何故アメリカは元の切り上げを要求するのでしょか?

1) アメリカは現在、実質2O%迫る失業者を抱え、景気回復の足かせとなっている。
2) 国内の失業者の不満は、オバマ政権の支持率低下を招いている。
3) 不当に安い中国からの輸入品が、国内の製造業を衰退させていると思われている。

表向きの理由はこんな所でしょうか?

実際にアメリカは中国からの輸入品にあふれています。生活雑貨から衣料品、パソコンやiPadに至るまで、maid in china が氾濫しています。

■ アメリカの製造業は大昔に空洞化している ■

数年前「チャイナ・フリー」という言葉が流行しました。ある記者が中国製品無しで生活出来るかチャレンジしましたが、下着はおろか生活に関わるほぼ全ての製品が中国製で、中国製品無くしてアメリカ人は一日たりとも生活出来ない事を実感する結果で終わりました。

数年前と言わず、アメリカは日本から大量の輸入を始めた70年代から既に工業の空洞化は始まっていて、現在中国がアメリカに輸出している様な産品は、既に何十年もアメリカでは生産されていません。

現在アメリカで失業しているのは以下の方々です。

1)競争力を失った自動車産業
2)崩壊した金融業
3)住宅建設やビル建設に携わる建築業
4)シリコンバレーを中心としたハイテク産業
5)軍の経費節減の影響を受けた兵器産業
6)航空機需要の落ち込みの影響を受けた航空機産業

7)景気減退の影響を受けたサービス産業
8)地方政府のリストラの影響を受けた消防士や教師などの公務員

さて、中国と競合する業種がこの中のにあるでしょうか?

■ プラザ合意とは別の人民元切り上げ圧力 ■

プラザ合意の当時、日本の産業は中国と同じ様にアメリカから叩かれました。しかしこの当時、衰退が始まっていたとは言え、アメリカの自動車産業は基幹産業でした。ダンピングで叩かれたスーパーコンピューターもアメリカの花形商品でした。

日本とアメリカはプラザ合意当時、実際に市場で競合していましたから、アメリカの産業を守る為に円高を要望する事は、ある程度合理性がありました。

しかし、未だ独自の技術やブランドを確立していない中国が、アメリカの先端の製造業の脅威となる事はありません。ビック3の敵は、未だに日本車であり、さらには韓国車という強敵も出現していますが、中国車は中国以外の市場では殆ど販売されていません。

■ 人民元切り上げはドル復活の切り札となるか? ■

プラザ合意とそれに伴うバブルの崩壊で、ドルが復活した様に、人民元の切り上げはドル復活の切り札となるのでしょうか?

プラザ合意で日本の富がアメリカに吸い上げられたカラクリは明確です。

1) 日本の資産が対ドル比で2倍に膨れ上がった
2) 強い円の投資先としてアメリカの資産が買われた
3)行き過ぎたドル安を是正する為、日銀はドルを買い支え、米国債を購入した。
4) 急激に増加した通貨価値によってバブル経済が発生した
5) 日銀の引き締めと、不動産の規制によってバブルが崩壊した
6) アメリカの資産を日本の企業は投売りした
7) 日本の株を欧米企業は高値で売り抜けた
8) 二束三文の値段になった日本の資産をはハゲタカファンドが買い漁った


では、人民元の切り上げは同じ効果を生んで、瀕死のドルとアメリカを救うのでしょうか。

部分的には同じ様な現象が起きるかもしれません。しかし、中国はドルの存続を不安視していますから、日本の様にドル資産を持ちたがらないでしょうし、急激なドル安で中国がドルを買い支えるかどうかは、疑問です。

■ 人民元切り上げは「米国債不安」を生み出す ■

人民元を切り上げるという事は、中国はドルを買わなくなるという事と同義です。
余剰のドルが無くなるのだから、米国債の購入量は減ります。

最近は保有額を減らしてきているとは言え、中国は米国債の世界最大の保有国です。
急激な人民元の上昇は、「米国債危機」の引き金ともなります。

■ インフレに直結する人民元切り上げ ■

生活物資の殆どを中国からの輸入に頼る米国で、人民元が引きあがれば輸入価格が上昇してインフレ率が高まります。実体経済が回復しない米国で、FRBは金利を引き上げられずにいますが、インフレ率が高まれば、FRBとて利上げに踏み切ります。

海外の資産は、少しでも高い金利を求めてアメリカ市場を一時目指しますが、インフレはアメリカの瀕死の実体経済を破壊します。

結局、アメリカは手詰まりです。

■ 儲かるのは金融機関だけ ■

中国に出資する金融機関は、人民元が切りあがればリターンが跳ね上がります。その後、アメリカ経済がどうなろうが彼らの知った事ではありません。一時の利益が確定したら、金や資源に形を変えてタックスフリーにも隠します。

その後、金融機関が破綻しても、無くなるのは世界の人々の預金と、政府が出資したアメリカ国民の税金です。

■ 元を切り上げないとならない中国国内の事情 ■

今回の元の切り上げは、むしろ中国国内の事情によるものでしょう。

安い輸出を維持する為には、国内の安い労働力が不可欠です。農村から出稼ぎに来た民工達は、不当に安い賃金で働かされています。

しかし、人民元をドルにペッグしていると、ドルの下落に伴って、石油や食料品の輸入価格が上がって生きます。これはインフレ(物価上昇)となって、労働者の生活を苦しめます。

中国では最近労働争議が多発して、ホンダの部品工場が操業停止になったりしていますが、国内のインフレが原因だと言っても過言ではありません。

中国政府はこれらの民衆の不満に敏感です。インフレ対策として元を切り上げざるを得ないのでしょう。


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2 コメント

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Unknown (なかむら 保土ヶ谷 在)
2010-06-22 10:49:09
>中国車は中国市場では殆ど販売されていません。

反対なのでは?

中国市場  → 中国以外の市場
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Unknown (人力)
2010-06-22 16:45:07
なかむら 様

ご指摘ありがとうございます。
ご指摘の通りです。
修正いたします。

個人の日記の範囲を出ないブログで、
あまり調べもせず書く事も多いので、
いろいろ指摘いただけると嬉しいです。

これからも宜しくお願いいたします。


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