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MMTと言う呪文・・・閉塞感が生み出す宗教

2019-06-07 14:07:00 | 時事/金融危機
■ お金とは何か? ■

「お金とは何か」という問いかけに応えるのは、簡単そうで難しい。

歴史を紐解けば、「交換」に起源を持ちます。

古代の人は、村の境界に何か物を置いておき、次に来た時にそれが無くなっていたら、「神様が御取りになった」と考えました。まあ、お供え物のルーツですね。

ところが、ある時、お供え物が、別の物に代わっていた・・・。実は隣のムラの人が、置いてあった物を神様からの授かり物と勘違いして、代わりにお供え物を置いていっただけなのですが・・。こんな感じで「境界」で「物々交換」が始まったのが、交易のルーツだと言われています。(本当かよってツッコミを入れたくなりますが・・・)

実は人間は本能的に「交換」を好む種族だそうです。多分、他人の持ち物は良く見えるだけなのですが、「お前のソレ、とてもイイ。これのコレと交換イイカ?」なんて感じだったのでしょう。

こうして、古代から盛んに「交換」をして来た人類ですが、交換する物には「旬」や「時期」が有ると、「現物」が存在しないケースが生まれます。そこで、「今は手元に無いけど、必ずオレのモノを渡すから」という証文として貨幣が生まれます。最初は巨大な石を削ったものだったりします。無くさないし、容易に複製できない事が大事だったのでしょう。

しかし、巨大な石は持ち運べませんし、場所を取ります。そこで古代の中国では珍しい貝が使われ始めます。これも内陸部では容易に手に入らないので複製が困難ですが、一方で保管や持ち運びに便利でした。こうして、お金にまつわる漢字は貝偏が使われる様になります。

後世には、金や銀などの稀少金属が貨幣の主流になります。

■ 時代と共に変化する貨幣 ■

お金(貨幣)の根源的な価値は、「交換」と「価値の保管」の手段です。これは今も変わりません。私達は労働というサービスを給料という貨幣に交換し、それをしばらく手元(あるいは銀行口座)で保管し、欲しいモノやサービスに任意の時に交換します。

ただ、時代と共にお金の姿は変化して行きます。

ニクソンショック(1971年)までは、基本的に紙のお貨幣も金に交換出来ました。紙で印刷された貨幣も、1オンス35ドルで金と交換が保証されていました。世界のあらゆる紙幣は、ドルと交換する事で、金と交換する事が可能でした。

しかし、1971年8月15日に、アメリカのニクソン大統領は、ドルに金兌換の停止を突然発表します。いわゆる「ニクソンショック」です。これによって、紙幣は単なる紙切れになります。

当時、ただの紙切れになったドルの価値が大きく棄損すると予想する人も大かったのですが、ドルは各国通貨に対して徐々に減価したとは言え、基軸通貨としての地位が失われる事は有りませんでした。何故なら、貿易はドルで行われていたから。さらに、同じ時期、中東戦争の勃発によって原油価格が5倍程に値上がりし、高騰した原油を調達する為のドルも、それまでより多く必用になったのです。

戦後、ブレトンウッズ会議によってドルを基軸通貨とし、金1オンス35ドルで兌換すると決められた事を「ブレトンウッズ体制」と呼びますが、ニクソンンショック後は「原油の決済通貨である事がドルの価値を支える」事となり、これを「修正ブレトンウッズ体制」と呼ぶ人も居ます。

■ 借金から作り出されるお金・・・信用創造 ■

お金には、「物を買う」とか「価値を保存する」という機能の外に、「経済を発展させる」という機能も持っています。「お金を稼ぎたい」「お金を沢山持っていたい」という欲望が経済発展の原動力となるのです。

本質的には「物欲」の延長ですが、一人の人が使い切る、或いは溜め込むモノには限界が有ります。しかし、お金は場所を取りませんし、記号性を持っているのでゲームのスコアーの様な要素も有しています。…「その人の成功のバロメーターがお金という単位で表示される」・・・そんな一面も有ります。

この様に、多くの人々が欲しがるお金ですが、お金に現物の紙幣やコインしか存在しない場合、お金は「有限」となります。多くの人達がお金を欲しがるのに、一部の人達がお金を溜め込んでいたのでは経済は発展しません。

そこで、昔のユダヤ人は考えました。彼らは「金(キン)を預かって、それを貸して利息を取る」事を思い付いたのです。これが銀行の始まりです。キリスト教は利息を取る事を禁じていましたが、ユダヤ教はこれを禁じていませんでした。

銀行の働きは現在も「預金」を集め「金利を取って貸し出す」事が基本です。銀行は預金の内の一部を「準備預金」として日銀に預け、残りを貸し出す事が出来ます。お金を借りた人が、それを又銀行に預けたら、準備預金を残して、残りを再び貸し出す事が出来ます。

これは「借金がお金を作り出す」とも言えます。これを「信用創造」と呼びます。

■ マネタリーベースとマネーストック ■

先日から鍛冶屋さんがコメント欄で説明されている様に、お金には2種類存在します。

1) マネタリーベース

マネタリーベース=「日本銀行券発行高」+「貨幣流通高」+「日銀当座預金」

これは、日銀が供給したお金の総量です。日銀は経済状況を睨んで、マネタリーベースを拡大したり、縮小したりします。

2) マネーストック

「民間に流通する通貨の総量」ですが、定義によってM1、M2、M3、広義 に分類されます。

 M1= 現金通貨 + 預金通貨 - 金融機関の保有する手形と小切手

 M2= 現金通貨 + 国内金融機関の預金の合計

M3 = M1 + 準通貨 + CD(譲渡性預金)
※準通貨 = 定期預金 + 据置貯金 + 定期積金 + 外貨預金

 広義 = M3 + 金銭の信託 + 投資信託 + 金融債 + 銀行発行普通社債 + 金融機関発行CP + 国債 + 外債

これらの分類は経済活動のどのフェーズに注目するかによって使い分けられます。

中央銀行が供給する「マネタリーベース」を、金融機関が信用創造によって拡大した結果が「マネーストック」

景気の良い時は、民間のお金の借りてが沢山居るので、信用創造の歯車が回転してマネーストックが拡大します。一方、不景気になると、人々は借金を返そうとしますので、信用創造の歯車が逆に回転して、マネーストックが縮小します。人々が借金を全て返済してしまったら、通貨はマネタリーベースまで縮小します。(大雑把ですが)

■ 中央銀行の金融調節機構 ■

中央銀行は「通貨の番人」と呼ばれ、かつては「インフレファイター」などとも呼ばれていました。

ニクソンショック以降、通貨は単なる紙切れに過ぎないので、いくらでも発行する事が可能になります。しかし、通貨を発行し過ぎると、巷のお金が溢れ、モノや資産に対してお金が増えるので、インフレやバブルが発生します。

そこで、中央銀行は通貨の発行量をコントロールする事で、インフレ率を適正な数値に抑え込む役割を果たしています。

かつては、法定金利がその役割を果たしていました。中央銀行は銀行の銀行として、市中の金融機関にお金を貸し出します。この時の貸し出し金利を景気状況によって上下させます。好景気でインフレ圧力が高まった時は、金利を上げ、民間の金融機関のお金を日銀の預金として吸収します。一方、景気が悪化した時は、金利を下げて民間銀行がお金を借りやすくします。

■ ケインズ派の誕生と、その限界 ■

法定金利は市中金利の基礎となりますから、法定金利を上がれば人々はお金を預金しますし、法定金利が下がれば、人々がお金を借りやすくなります。

古典派経済学では、神の見えざる手の影響は金利にも及び、資金の需給によって金利は適性にコントロールされ、通貨量も適正になると考えられていました。しかし、実際の経済では、大きなショックの直後にこの関係が崩れ、金利を下げてもお金の借りてが居ない状況が生まれます。

ケインズは極端に景気が悪化した経済では、自律的な景気回復が不可能(あるいは遅れる)ので、政府が借金をして仕事を作り出し、雇用を拡大する事で景気を回復するべきだと主張します。

実際に、1929年のNY株式市場の暴落に端を発した「世界恐慌」の時に、アメリカではルーズベルト大統領が公共事業を大幅に拡大するニューディール政策を実施します。これによって景気回復したと考えられて来ました。

戦後、各国はインフラ整備などで財政支出を拡大します。各国はケインズ的な政策で景気回復を図ります。しかし、石油ショックの発生で、インフレと不景気が同時に進行するスタグフレーションが発生すると、ケインズ的な財政政策の継続が難しくなります。不景気を克服する為に財政拡大するとインフレを助長してしまうからです。

さらには、ケインズ政策は各国の債務残高を拡大するという問題も起こります。景気拡大が限定的となる中で、将来の税収で債務残高を解消できるか不安視される様になったのです。

■ マネーサプライ(マネーストック)で景気をコントロールするマネタリズム ■

ケインズ主義に限界が見えると、それに対抗する経済学が台頭します。

ミルトン・フリードマンを筆頭に、マネーサプライを拡大を一定首水準に固定して景気をコントロールする経済論が台頭します。彼らの理論を「マネタリズム」と呼びます。

経済の主体である民間の経済活動に一定の資金供給を約束すれば、経済は自立的に安定して拡大する主張する彼らは、政府の経済への干渉も嫌い、「新自由主義経済学」などとも呼ばれます。

金融政策はマネーサプライの一定の拡大を目標に実行されます。「一定の拡大」を目安にする理由は、物価に遅効性が有る為に、これを目安にしていたのではインフレになって引き締めしても、デフレになって拡大しても間に合わないからです。

マネタリズムのメリットは、景気刺激に財政出動を伴わない点にあります。債務残価の拡大に苦慮していた各国政府は徐々にマネタリズムを金融政策の中心に据えて行きます。イギリスではサッチャー政権が、アメリカではレーガン政権が採用して、景気の回復を達成します。


■ 量的緩和の時代 ■

マネタリズムはお金の借りての需要が在るからこそ有効でした。しかし、バブル崩壊後の日本の様に、民間の資金需要が極端に委縮すると、いくら金利を下げても景気が回復する事が難しくなります。

そこで、ケイジアン的財政出動で景気を回復させととの圧力が高まりますが、インフラが充分に整備された先進国では、財政拡大の効果は限定的です。乗数が1程度に下がっているので、財政拡大分の名目GDPの拡大しか望めないのです。

この様な状況で日銀が実行したのが量的緩和です。金利がゼロになった状況で資金需要が枯渇している経済で、マネタリーベースを拡大して市中に資金を潤沢に供給する方法として、日銀の当座預金を増やす事で、をれを元手とする市中への資金貸し出し量の拡大を目指します。

実際には民間の金融機関の保有する国債や手形を日銀が買う事で実行されました。しかし、民間の資金需要が極端に低下している状況は改善せず、一方、日銀が当座預金に利付けをしていたので、資金は日銀当座預金にブタ積され、国債の購入資金を増やすだけとなります。

私個人は、日本の量的緩和は、財政拡大の補助的政策だったと理解しています。バブル崩壊後にどうしても拡大する国債発行を、日銀の当座預金の資金で支え、一方で、銀行にゼロリスクで当座預金金利を提供する事で、銀行の経営改善を図る政策だったと。

■ ゼロ金利の罠と、リフレ論者の台頭・・・ヘリコプターマネーの時代 ■

リーマンショック後、FRBもECBも量的緩和的な政策に切り替えます。FRBは紙切れ同然となってしまったMTBなどの資産を大量に買い入れ、ECBは銀行の国債購入の為の資金をゼロ金利で大量に貸し出すという形を取ります。

アメリカでは民間の債券危機が危機の本丸、ヨーロッパではギリシャの国債など南欧諸国の国債危機が深刻化していたからです。

同時期、日本ではリフレ論が台頭して来ます。ゼロ金利になった時点で金利操作による中央銀行の金融政策は効力を失いますが、日銀は国債を民間銀行から買い入れて銀行の日銀当座預金を増やし、マネーサプライ(マネーストック)の元を増やす量的緩和を再開していました。

しかし、日本の景気は回復しなかったので、もっと緩和が必用だとの意見が内外から活発化します。当時、FRB議長のバーナンキも「もっと積極的な金融緩和=リフレ政策」の支持者でした。彼は「ヘリコプターからお金を撒けば景気は回復する」というヘリコプターマネーという説まで開陳します。

2013年に日銀の黒田総裁は「異次元緩和」という名前でリフレ政策を実行に移します。「リフレ政策は中央銀行が大量の資金を提供する事で将来的なインフレ期待を高め、実質金利をゼロ以下に下げる効果がある」と説明されています。

異次元緩和後に若干インフレ率が上昇する気配が有ましたが、実はこれは円の大量発行によって為替が円安に振れた影響がほとんどで、原油価格が低下すると、その効果も消えてしまいました。

■ マネタリズムの限界と、長期停滞論 ■

リーマンショック後、日本を筆頭に世界は低成長を続けていますが、マネタリズムの金融政策はそれを解決出来ていません。

むしろ、マネタリズム的金融政策は80年代以降、アメリカでは10年周期でバブル崩壊を繰り返す結果となっています。資金供給量の拡大は、先ず資産市場でバブルを発生させ、その後実体経済が活性化し始めますが、自体経済が回復して金利が上昇し始めると、低金利で肥大化していた資産市場は必ずバブル崩壊を起こしてしうま為です。

この様な状況に対して、元財務長官のサマーズは「長期停滞」という考え方を発表します。先進国は慢性的な需要不足に陥っており、それを打開するには多少のバブルも必要だと発言します。バブルの悪い面ばかり強調されるが、IT市場の発展などバブルの功績も無視できないというのです。

ただ、「長期停滞論」は先進国の成長率が総じて低い自称は認めていますが、何故低いかの回答を与えていません。

一般的には、次の様な原因が考えられます。

1) 少子高齢化
2) 社会福祉費の増大
3) 過剰供給力
4) 低賃金
5) イノベーションの欠如

■ ニューケイジアンとMMT ■

日本の異次元緩和の以前より三橋貴明氏や中野剛志氏らに、「金融緩和」と「財政出動」を組み合わせて景気回復を図るべきだとの主張が有ります。彼らはネトウヨと呼ばれる人達のオピニオンリーダーですから、ネトウヨ界隈でもこの主張は強く支持されます。

1) 日銀は政府の子会社(統合政府)なのだから日銀の保有する国債は政府の資産
2) 政府の負債である国債は、日銀の資産である国債と相殺される
3) 国債金利が日銀に払われる以上、日銀の金利は国庫へ返納される
4) 日本政府は日銀が国債を買い入れる限り、債務残高を気にする必要は無い

4) 日本の国債は自国通貨建で、その保有者もほぼ日本国内なので国債の売り浴びせの心配はない
5) 仮に金利が少々したら、国債発行を減らすか、日銀が金利を上げてインフレを抑制すれば良い

世界的にも、リーマンショック直後に、積極財政を支持するケインズ主義が再評価された時期が有りました。アメリカは、その後景気回復が始まったので、マネタリズムに回帰していますが、日本は日銀の異次元緩和という形で、間接的な財政ファイナンスに踏み込みます。

一次は年間80兆円の国債を市場から買い入れていた日銀ですが、国債残高の半分以上を日銀が保有する状況で、流石に国債を市場から大量に購入すると、短期金利のマイナス幅が深くなり、問題が出て来ます。そこで、日銀は現在、国債購入を年40兆円程度まで縮小しています。


この様に中央銀行を始め、主流派経済学は、「通貨の価値」の維持に腐心してきまいした。

かつては中央銀行が「通貨の番人」としてインフレを抑制してきましたし、マネタリストはマネタリストなりに、数理モデルを用いてマネーサプライの定量的な上昇が、過度なインフレを招かない事を説明して来ました。

尤も、実際の経済は非線形でヒステリックな動きをするので、マネタリスト達はリーマンショックを予見出来ず、資金供給が過剰な現在の資産市場は、過度なリスクテイクによってテールリスクを拡大する傾向に有ります。

マネタリスト達が予見できないテールリスクには「ブラックスワン」などという洒落た名前が付いていますが、現代の経済学が限られた条件の未来しか予想できない事の裏返しに過ぎません。

マネタリスト達も、その様なリスクは理解していますから「ヘリコプターマネー」などという極端な言説で期待を煽りながらも、実際には金利引き上げで市場を牽制しています。日銀も「異次元緩和」という掛け声の裏で、日銀当座預金の利付けを続けたり、マイナス金利の深堀に躊躇してバランスを取っています。

これに対して、「自国通貨建ての国債は破綻しないのだから、政府は無制限に国債を発行出来る」とアメリカで主張が始まります。これにアメリカの極左の民主党のサンダース議員が乗り、サンダースを支持する若者達に急激に浸透して行きます。「日本ではMMTが成立しているでは無いか」と彼らは主張します。

これに勢い付いたのが三橋貴明氏や中野剛志氏らです。MMTの主張は、まさに彼の主張そのものですから。

■ ブードゥー(呪い)の呪文が変わっただけ ■

ニクソンショック以降、通貨は文字通り「紙切れ」です。その気になれば100ドル紙幣も、1万円札も、いくらでも刷る事が出来ます。(電子的な中央銀行の当座預金も含め)

ただ、主流派経済学者(マネタリスト)は、マネーサプライの拡大はコントロールが可能という立場で「ある程度お金を大量に刷っても、お金の価値は担保出来る」と主張して来ました。(実際にはリーマンショック直後はドルの流動性が消失して、ドル基軸体制の崩壊すら意識されましたが)

マネタリストの主張は一種の「ブードゥー(呪い)」に過ぎませんが、人々や市場がそれを信じる限り、「呪い」は効果を発揮します。


MMTの「自国通貨建ての国債は破綻しない」というのも「呪い」の一種ですが、債務残高が拡大して、さらには資金が市場に強引に供給される事で、今よりもさらにテールリスクを拡大するので、ちょっとタチの悪い「呪い」です。

「魔術は等価交換を誤魔化す事で成立するかに見えますが、その弊害は世界のどこかで必ず現れる」と『新約 とある魔術師の禁書目録』の18巻にも書かれています。・・・おっと失礼。


■ 無税国家の成立を認めるMMT ■

MMTの理論では「無税国家」が成立します。

極論すれば、政府は人々が幸せになる分だけ通貨を発行でき、政府が人々を直接雇用して通貨を支給する事も可能。

・・・・あれあれ、こういうユートピア、かつて何処かで聴いた事が在るぞ・・・。そう、社会主義の統制経済が目指したユートピアです。だからMMTはサンダースら極左と相性が良い。

実際のMMT支持者もMMTによる無税国家は実現可能だとしています。これを否定してしまうとMMTそものがが成立しないからです、

ただ、MMT支持者は「税は必要」だと主張します。「税は所得再分配によって公平を担保する手段」だとか「インフレを抑止する手段」だと。

ただ、所得再分配の方法なら、彼らの好きそうなベーシックインカムの方が公平性が高そうですし、インフレ時の増税は民衆主義のプロセスではコンセンサスが取り難い。人々は増税を嫌いますから。

だから、MMTを実際に運用しようと思ったら、政府が独裁的に強権を持つ社会主義が不可欠となりますが、旧ソ連を見るまでもなく「誰でも平等に幸せな世界=誰でも平等に不幸な世界」でした。

何故なら、一所懸命に働いても、怠けても評価な平等な世界ならば、怠けた者が得をするからです。


■ 積極財政を支持し始めた主流派経済学 ■

昨今、MMTの議論が加速している背景には、主流派経済学者の中にも財政拡大を示唆する人が出てきたからです。

ブランシャール(元IMFチーフエコノミスト)らが「日本はもっと財政を拡大すべきだ」などと発言しています。サマーズらも財政拡大を示唆しています。


彼らが問題視しているのは先進国の需要の弱さです。いくら緩和的な金融政策を続けても、賃金上昇も限定的で、結果的に需要が伸びない。ならば、もう少し強引に資金を市場に流通させる為に、財政拡大で刺激するのも悪くは無いのでは・・・・

ケインズ政策を否定していたマネタリスト達がケインズ政策にすがる程に世界の需要は低迷している・・・・。

■ 供給過剰を遮断するトランプ ■

実は世界が抱える生長の限界の、本当の理由は「過剰供給」に有ります。

1) 中国や新興国からの安い輸入品が物価にデフレ圧力を掛けている
2) ITの進歩はGDPに反映されない価値を生み続けている
3) 国内産業の空洞化と、IT化は人々から仕事を奪い続けている

高齢化社会がこれに拍車を掛けます

4) 高齢者の消費は少ない
5) 高齢者に資金が滞留するので若者の所得が下がる


トランプが推し進める「自国主義」ですが、結果的にはインフレを生み出すと思われます。さらに、中東の緊張が高まれば、原油価格も上昇します。



■ MMTの学術的な正当性よりも、それが支持される空気が怖い ■

確かに現在の日本では、一時的にMMTが成立する条件が整っています。しかし、フリーランチが存在しない世界では、テールリスクを高める事で、悲惨な結果を招く可能性も否定出来ません。

政策責任を持つ政府や財務省、中央銀行関係者が必死にMMTを否定するのは、MMTを製作の中心に掲げる政党が現れると、国民の少なからぬ票を集める可能性が有るからです。

閉塞感が高まっている日本では可能性が無い訳ではありませんし、アメリカも貧困層や若者を中心に支持を集めるでしょう。ヨーロッパでもネオナチ(極右)を中心のMMTを支持する可能性は高い。

MMTな「後は成るように成るだろう。その時になったら考えよう」という非常に楽天的で無邪気な学説?ですが、「どうなるか分からない社会実験」を、責任ある大人である私達が支持するのは難しい。


それよりも「隠れ財政ファイナンス」である異次元緩和が継続する事を、コッソリと応援する方が大人の対応と言えます。


ただ、仮にリーマンショック以上に危機が起きたなら、一気にMMTに趨勢が流れる事も考えられなくも無く、同時に自国主義も台頭するので、「戦後の協調する世界」の幻想が、通貨の幻想と共に崩れ去る可能性も全くの妄想とも言えなくなって来ます。


成長がリセットから生まれるのだとすると・・・・ボタンを押したいと考えるのはゲーマーだけでは無いのでは?




<最後に>

鍛冶屋さんのコメントでスタートしてMMT論ですが、通貨自体が集団の共同幻想の産物なんので、その幻想の種類にも様々なバリエーションが存在します。

時代や状況によって「一番支持される幻想」が変化しますが、MMTが次代の主流派になる可能性は否定出来ません。理解不能な数理モデルよりも「みんなハッピー」という幻想の方が、人々の支持を集め易い事も確かです。

ただ、民主主義の世界をコントロールしているのはマスコミなので、正論も極論も誤説も、マスコミが「正しい」という太鼓判を押さない限りは、今の日本で一般に浸透する事は無いでしょう。ただ、MMTの議論の中で、日本の国債の「耐性」って意外に高いんじゃないかという発想が生まれた事が、財政の柔軟性を確保し、異次元緩和を継続する上で、意外ににも役立つものだったのでは無いかと考えています。


本日は私の頭の中を整理する意味で、長々と書いてしまいましたが、間違いがありましたらご指摘下さい。コメント欄で意見交換するのがブログの楽しみなので。