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年金を「積立式」にするとどうなるのか・・

2018-11-01 08:03:00 | 時事/金融危機
 

■ 日本の年金は現役世代が年金受給者を支える「賦課方式」 ■

日本の年金は現役世代が現在支払っている年金が、現在年金を受給している人に支払われる「賦課方式」です。

「賦課方式」は現役世代の人口が、年金受給者の人口に比べて十分に多い場合に、年金の支払い負担が少なく、先進各国でも年金制度がスタートした当時は「賦課方式」を採用していました。しかし、人口動態が変化して、年金受給者の割合が増える過程で、先進各国は年金制度を「積立式」に移行してゆきます。





上のグラフは65歳以上の高齢者と、15~65歳までの労働人口の比率を示すものですが、日本では現在2.2人で一人の高齢者を支える状況となっており、将来的にはさらに酷い状況になる事が分かります。

■ 実際の公的年金受給者と年金加入者の割合 ■

上のグラフは単に(65歳以上人口)/(15~65歳の人口=労働人口)という数字ですが、労働人口の中には学生や家庭の主婦や、アルバイトなど非正規雇用で年金を支払っていない人が大勢含まれています。

そこで、実際の公的年金受給者と、公的年金加入者の数を比べてみます。資料は2016年度のデータです。



公的年金受給者  4,010 万人
公的年金加入者  6,731 万人


単純に公的年金の加入者を受給者で割ると、1.678となります。2018年において、役1.7人の年金負担者が一人の老人を支えている事になります。


但し、国民年金の加入者1575万人の内、国民年金を支払っていない人が3割程度います。学生や支払い免除を受けている人達です。だいたい472万人が国民年金の支払いを免除されているとして・・・


公的年金受給者  4,010 万人
公的年金加入者  6,259 万人



2018年時点で約1.56人の年金負担者が一人の老人を支えている現在の日本の状況が見えて来ます。これは年々悪化します。

■ 日本の国民負担率 ■

少子高齢化の進行によって現役世代の負担は確実に増加します。租税と年金と医療費を合わせた額の所得に占める割合を「国民負担率」と呼びますが、「賦課方式」の年金は税と同じと考える事が出来ますし、健康保険も「健康保険税」と正式に呼ばれるので実は税金と変わりません。日本における「国民負担率=税率」と考える事が出来ます。

日本の国民負担率の推移を示します

昭和45年  24.3%
昭和50年  25.7
昭和60年  33.9
平成元年  37.9
平成 5年  36.3
平成10年  36.3
平成15年  34.4
平成20年  39.3
平成25年  39.9
平成30年  42.5

平成31年には消費税増税を控えているので、国民負担率はさらに増加します。

日本は赤字国債で税収の不足分を補っていますから、これを税金に上乗せした「潜在的国民負担率」は平成30年現在で48.7%となります。

国民負担率だけを見ると、「負担の少ない現在の高齢者が、負担の多い今の労働者に支えられる構図」が明確になります。これを一般的には「世代間格差」と呼びます。

厚生労働省が国民負担率の国別比較を発表しています。



福祉大国と呼ばれるスエーデンでは潜在的国民負担率は56.9%に達します。スエーデンは福祉を税金で支えているので、日本の「賦課制度」を税金と考えるならば、日本とスエーデンは近い負担構造になります。スエーデンの様に国民が一生安心して生活する為には、現在の日本の国民負担率では全然足りない事が分かります。



上のグラフは2010年のスエーデンと日本の人口動態です。スエーデンは日本に比べ若年人口多い事が分かります。スエーデンは育児休業性度の充実など国家を挙げて少子化対策に取り組んで来ましたが、実はスエーデンの若年人口の増加の本当の原因はアラブ系の移民を増やした事にあります。(ここら辺はメディアはあまり取り上げません)

但し、スエーデンのアラブ系移民は失業率も高く、人口動態こそ改善しますが、社会福祉と医療の重荷となっているので、むしろ国民負担率を増やす元凶ともなっています。

何れにしても、少子高齢化が著しい日本では、借りにスエーデン並みの国民負担率をなったとしても、少子高齢化の歪が大きい日本では、国民が一生安心できる社会福祉制度を構築する事が不可能な事が分かります。

■ 既に日本は年金を「積立制度」には出来ない ■


この様に「世代間格差」が拡大し、「国民負担率」が上昇すると、現役労働者の間に「自分の年金は自分で受け取りたい」という要求が高まります。要は「積立式年金制度」への制度変更です。

しかし、現在の「賦課性」の年金制度を「積立式」にする為には、現在の高齢者と、これから高齢者になる世代の年金財源を確保する必要が生じます。

現在の公的年金受給者を4000万人だとして、基礎年金部分の全額を税金で賄うとすると30.8兆円の財源が必用です。現在でも基礎年金の半額は税金で負担されていますから、残りの15兆円の財源が必用となります。

消費税の税収が17兆円程度ですから、現在の年金受給者に最低限の年間77万円を支給する為には消費税を今の2倍にしても足りません。消費税率は20%程度になるでしょう。

さらに、厚生年金加入者は、自分達が収めた年金は受け取る権利が有ります。厚生年金と国民年金の支給額の差が平均約9万円ですから、3500万人の厚生年金受給者に現状と同等に支給額確保する為には財源が37.8兆円必要となります。(但し、現在の厚生年金の積み立て金は、「積立式」以降の為に手を付けないとした場合)。これを消費税で負担するとなると、消費税率が18%上乗せされ、消費税が40%近くなります。

所得税は医療保険との合算の国民負担率は軽々と60%を超えるハズで、現在の年金支給水準を維持したままで、日本の年金制度を「積立式」にする事は不可能である事は簡単に分かると思います。

「ベーシンクインカムを導入すれば良い」というのは全く次元の低い発想で、ベーシンクインカムを実現する為には、同規模の財源を必要とします。

何れにしても、国民負担の増加は、消費を低迷させますから、GDPにおける内需の割合の高い日本では、「積立式」への年金制度の移行は不可能だと言えます。

■ 相続税100%という公平性の確保 ■


ここまで読まれて日本の年金制度を「積立式」に移行する事は不可能とご理解頂いたと思いますが、実は一つだけ方法が無くは有りません。

それは、相続税率を100%にする方法です。

現在、国民の金融資産は1800兆円程度有ります。多くが高齢者の預金や金融資産で、これが日本の国債を支えています。相続税率を100%(但し、配偶者への相続に課税をしない)にすれば巨大な財源が確保できます。

これを国家が年金や社会福祉の財源として公平に分配すれば、税率をある程度抑えたままで、年金制度を「積立式」に変更する事が可能となるでしょう。但し、積立式年金が残っている状況で死亡した場合は、残額は税金として国家が徴収します。

現在の日本の平均相続年齢は65歳程度ですから、この相続を個人から国家に変更する事で、かなり公平性の高い再分配が可能になります。


・・・・しかし、日本は社会主義国家では無いので、これを認める国民は「貧乏人」だけです。政治は「持てる者」が支配しているので、革命でも起こらなき限り相続税100%などは実現しません。


■ 合法的に国民資産を国家が接収出来る「インフレ税」 ■


民主的な国家においては、財政破綻の様な非常事態でも起こらない限り、国民の資産を国家が強制的に接収する事は出来ません。

しかし、これを合法的に行う方法が一つ有ります。それがインフレ税です。先進国の多くは、第二次世界大戦で積み上がった財政赤字を、インフレと金利制限によって解消しました。これを「金融抑圧」と呼びます。

アメリカやイギリスなどでは、10年~15年を掛けて徐々にインフレが進行しましたが、戦後日本では急激なインフレ率の上昇でこれを達成します。日本にいおては預金封鎖と富裕税によって、国家が強制的に国民資産を接収しました。

ただ、インフレ税で改善するのは国家財政だけで、これによって人口動態の歪から生じる問題を解決する事は出来ません。ただ、富裕者の資産を平等に分配する助にはなるかも知れませんが・・・。


■ 財政破綻でも起こらない限り、日本では公平性が大きく損なわれる ■

この様に、少子高齢化の対策をほとんどして来なかった日本では、年金受給年齢の引き上げという形でしか、年金制度を維持する事が出来ません。これは事実上に年金制度の崩壊であり、年金に生活を頼る人達の生活が破壊されます。


この様な状況で国家がまともに機能するハズが有りませんから、生活に窮した多くの高齢者と、生活に窮した多くの若年労働者が、いずれ選挙で、彼らの権利を行使する時が来るでしょう。


■ AIと自動化の時代はユートピアかデストピアか ■

さらに今後10年、20年でAI化と自動化が進行します。事務作業などから労働者は必要無くなり、AI化や自動化でコストに見合わない生産性の低い仕事に人々は追い込まれて行きます。企業の生産性は高まりますが、人々は貧しくなる時代が来るかも知れません。

ならば法人税を上げれば良いとの意見が出るでしょうが、AIやロボットは国を選びませんから、企業は治安とインフラが整備された法人税の安い国に出て行ってしまいます。全世界的に企業に課税するシステムを構築しない限り、AI化と自動化の時代は、我々労働者にとってユートピアとなる様には思えません。

唯一の方法は、全企業を国営化する方法で、これは社会主義と同義となります。AIも自動機械も「楽をしたい」とか「サボりたい」と考えませんから、この方法において唯一、人間は働かないで暮らせるユートピアを手に入れる事が出来るかも知れません。


年金崩壊のデストピアに怯えるのか、労働から解放されたユートピアを夢見るのか・・・年金受給開始年齢75歳を前提に人生を設計するのか・・・・。まあ、現実的には3番目の選択しか無いのでしょう。残りに二つは「運」となります。