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ロボットアニメがようやくガンダムの呪縛から解かれるのか・・・アルドノア・ゼロ

2014-08-17 05:06:00 | アニメ
 



■ 「レーリー散乱」という言葉だけで、私はこの作品に惚れ込んでしまった ■

宇宙から地球を眺めるアセイラム。彼女のかたわらには、地球文化を彼女に教える少年スレインが付き添っています。アセイラムは火星の皇女様です。

「ねえ、スレイン。空も青くて海も青いと言うけれど前から不思議だったのです。地球では水や空気に青い色が付いているんでしょうか?」それに対してスレインは答えます。「いえ、水や空気は透明です。ただ、それが大量にありますと光の屈折とかありまして、青い色に見える・・て事だと思うんです。」をれを聞いたアセイラム姫は「光をゆがめる程の水と空気、凄いですね。想像も付きません。」

冒頭のこの会話を聞いた瞬間、私は心の中で盛大に突っ込んでしまいました。「ブブー!!空が青いのは空気中の微粒子が短波長の光だけを選択的に散乱する「レーリー散乱」という現象だよ!!」

ところが第6話での次の様な会話で、私はもうこのアニメに惚れ込んでしまいました。

空を見つめるアセイラムは地球の高校生のにこう言います。「本当に綺麗」。「青い空は珍しいですか?」・・・・
「荒れ果てた火星の大地を開拓した者が次に求めたのが地球です。光を屈折し、海と空が青く見える程、沢山の水と空気を持つ、私達人類の発祥の地。」「それは違います。空が青く見えるのはレーリー散乱の影響です」「え、だって光の屈折だとスレインが・・・。」「空が青いのがレーリー散乱、雲が白いのがミー散乱。その人の勘違いです。」

確かに1話の冒頭でスレインは自信なさそうにアセイラムに答えていました。そして地球の高校生の界塚 伊奈帆(かいづか いなほ)は、確信を持って答えています。

この3人がこの物語の主人公です。謀略に嵌り命を狙われる火星の姫と、姫に忠誠を誓う地球人の少年スレイン、そして姫を守る地球の高校生の三角関係。スレインの一途さと、伊奈帆の知性の対比が見事に表現されています。

一話冒頭の会話を、六話目にして回収する緻密な脚本には惚れ惚れすると同時に、この作品の魅力が「科学的知識の応用」である事を象徴しているエピソードとも言えます。



■ 圧倒的な戦力差を「知識」で覆す興奮 ■

この作品の物語の構造はガンダムを踏襲しています。

1) 普通の高校生がロボットに乗って戦う
2) 一般民を含めた逃走戦で幕を開ける

視聴者の多くは中高生なので、やはり感情移入の面からロボットの操縦者は同年代の少年が好ましい。少年がロボットに乗って戦う為には、不測の事態が生じて大人の兵士が居ない状況を作る必要があります。突然の襲撃と、一般人の孤立、正規兵の不在はリアルロボットアニメの黄金律なのでしょう。

ガンダムではアムロは、モビルスーツに乗り込むなり、マニアルを一瞥して即座に戦闘に突入します。この不自然さは以前から指摘されていあすが、「アルドノア・ゼロ」では高校生達は、兵科訓練でカタフラクト(ロボット)の搭乗実習を受けていますので、高校生がロボットに乗って戦う不自然さは払拭されています。

ガンダムで素人のアムロがジオンのモビルスーツを倒す最大の要因はガンダムの性能の高さです。一方、『アルドノア・ゼロ』では、火星のカタフラクトの性能は地球のそれを圧倒的の凌駕しています。まさに「赤子の手をひねるが如く」という表現がぴったりです。その圧倒的な戦力差をどう乗り越えて火星のカタフラクトを撃退するかが、この作品の最大の見所となっています。

伊奈帆は鋭い観察力と高い知性の持ち主です。最初に襲撃して来た二ロケラフの能力は、あゆる物(物質だけでなく、光や音波や電波まで)を吸収するフィールドによる絶対防御です。この特性を「観察」と「観測」によって特定します。

一方、どこかにフィールドの隙間が無ければ外界の情報が遮断される事を「推測」します。ビルの影からも攻撃して来る事から、二ロケラフが上空から攻撃対照を補足していると「推測」し、それに対して発煙弾で二ロケラフの目を奪う作戦を立てます。そして、フィールドの隙間を「特定」する方法たるや・・・・。

この科学的な考察の過程にドキドキしてしまいます。


■ 『ガンダム』と『コンバトラーシリーズ』の正統なる継承者 ■

『アルドノア・ゼロ』はリアルロボットアニメです。素人の少年がロボットに搭乗して戦う事から、ガンダムからの正統な流れを汲む作品です。

一方で、ガンダムは科学力が同等な勢力同士の戦いですが、『アルドノア・ゼロ』は戦力に大きな隔たりのある非対称な戦闘が描かれます。敵の科学力が味方のそれを遙かに超えているというのは、マジンガーZ以来のロボットアニメの初期の特徴です。圧倒的な科学力を誇る未知の敵に対して、地球の科学力を結集して戦うという構図がロボットアニメの魅力でもありました。

マジンガーZの生み出したこの構図は、『コンバトラーV』や『ボルテスV』などに受け継がれて行きます。コンバトラーシリーズの敵の特徴は、王家の血筋を引くなど、「一種の優美さ」を備えている事です。

コンバトラーシリーズの総監督は長浜忠夫ですが、彼の作り出したこの分野は「長浜ロマンロボットシリーズ」などと呼ばれています。長浜忠夫は、敵が地球を侵略する理由も丁寧に描き、視聴者が敵キャラにも感情移入出来る様に考慮されています。そして、敵の将が美形な事から、「女性ファンが敵キャラに萌える」という現象を生み出しました。

『アルドノア・ゼロ』では、敵の火星人は「王政」と「騎士団」という封建的な政治形態を取っています。それだけに襲い来る敵は、単機決戦という騎士的な戦闘スタイルを好み、名誉を重んじます。単純な軍隊組織同士の戦いよりもキャラ立ちが良く、アニメが本来持っているロマンティシズムを掻き立てます。

敵メカがそれぞれユニークな形態、能力を有している事も魅力の一つです。これはコンバトラーなど初期のロボットアニメの「敵メカ」とか「ゲストメカ」の流れを汲んでいます。

ただ、『アルドノア・ゼロ』において敵メカがそれぞれユニークな能力を有している理由は、その能力に知識の限りを尽くして高校生の伊奈帆が挑んで行くという、この作品の最大の魅力を引き立てる事にある様です。

理由はどうあれ、単機で襲来するユニークな敵メカと、貴族的な敵の存在は、長浜ロマンロボットシリーズの魅力を現代に蘇らせています。

■ 魅力的なキャラクター達 ■





リアルロボットとロマンロボットの融合という離れ業を成立させている最大の要因は、キャラクタデザインです。

「火星の御姫様」という陳腐な設定を魅力的に変換するのは、『放浪息子』や『青い花』などナイーブな少年少女を描かせたら天下一品の志村貴子が担当するキャラクターです。

リアルな人物造形を排除した事が、お伽噺的世界を視聴者が受け入れる助けになっています。特にアセイラム姫のフリフリしたドレスは、リアルなキャラクターには着こなせませんが、このドレスこそが彼女の皇女としてのアイコンを際立たせています。これは「ジオンの御姫様」という言葉だけで特別なアイコンを持たない『ガンダムUC』のミネバ・ザビと対照的です。

アセイラムの純粋な可愛らしさと強さ。アセイラムを守ろうとすいるスレインのナイーブなひた向きさ、同様にアセイラムを守る為には冷徹は決断をも下す伊奈帆の隠れた情熱。この3人の関係を軸にこれから物語は展開して行きますが、キャラクターデザインが3人の魅力を見事に引き立てています。

■ このスタッフで駄作が出来るハズが無い ■

監督は『Fate/Zero』や『喰霊-零-』そして『放浪息子』のあおきえい

シリーズ構成は『喰霊-零-』や『あそびにいくヨ!』といった通好みの作品や、新房監督や大沼心監督と組む事の多い高山カツヒコ

ストーリー原案が『Fate/Zero』や『魔法少女 まどか☆マギカ』の 虚淵玄

キャラアラクター原案が『放浪息子』や『青い花』のマンガ家の志村貴子

メカニックデザインが『コードギアス』や『モーレツ宇宙海賊』、『輪廻のラグランジェ』の寺岡賢司

主題歌の作詞作曲が梶原由紀

スタッフの豪華さを見ただけでも、ヨダレが出そうです。


「リアルロボットアニメ」と「ロマンロボットアニメ」を繋ぐ意欲作『アルドノア・ゼロ』は、ガンダムの呪縛から解かれて、ロボットアニメの新たな金字塔を打ち立てると私は確信しています。