人力でGO

経済の最新情勢から、世界の裏側、そして大人の為のアニメ紹介まで、体当たりで挑むエンタテーメント・ブログ。

ガザ地区空爆・・・政治の道具としての紛争

2008-12-31 07:10:00 | 時事/金融危機
■イスラエルのガザ空爆■

2008年は実に色々な事がありましたが、
イスラエル軍のガザ地区空爆で幕を閉じるとは実に後味が悪い。
今回の空爆はある意味予想されていた事でした。

○ハマスとイスラエルの停戦協定の期限が切れた。
○イスラエルが総選挙を控え、右派リクードの支持が高まる事を恐れる
 連立政権が、ハマスに対する強行姿勢を取らざるを得なかった。
○パレスチナの大統領戦を控え、ハマスは民意を集めたかった。

先にチョッカイを出したのは例によってハマスの方なので、
一方的にイスラエルを責める訳にも行きませんが、
ガキの喧嘩じゃあるまいし、100倍返しというのもやり過ぎの感があります。

■動機は内政■

今回の紛争のやりきれない点は、イスラエルの動機の多くが内政にある事。
イスラエルは現在中道の連立政権が右派のリクードと対立しています。
国民も長い扮装に嫌気して、リクード離れが進行しています。
しかし、エジプトが仲介したハマスとイスラエルの停戦協定で
政府が弱腰の姿勢を示せば、世論がリクード支持に回る恐れがありました。

ハマスもそこら辺を承知していて、停戦切れ前からロケット砲による攻撃を再開しています。
ハマスの存在意義もイスラエルとの対立あってこそで、
和平が成立したら、パレスチナ国民は経済支援を国際社会から約束される
ファハタ支持に回る可能性があります。
パレスチナの大統領選挙を控え、ハマスも内政的理由からイスラエルを攻撃しています。

ですから、本来は紛争を望まないイスラエルの現政権に
小規模な紛争の継続を望むハマスが喧嘩を仕掛けたところでしょうか。
結局、紛争の原因は、両国の内政事情です。

■思いがけないイスラエルの大規模空爆■

しかし、意外だったのはイスラエルの空爆が大規模だった事。
ハマスの力を削ぐにも、相手はゲリラ組織ですから、
本部や幹部を攻撃した所で、ロケット砲攻撃が止むとは思われません。
まして、簡単に移動できるロケット砲を空爆で沈黙させる事は不可能です。
攻撃が大規模になれば、国際社会も黙ってはいません。
ハマスも今回の空爆の規模にはビックリしている事でしょう。

■目的はガザ地区への国際部隊の駐留?■

本日の読売新聞にイスラエルの外務省高官の談話として、
「ガザ地区に(アラブ諸国中心の)国際部隊の展開は受諾可能」と掲載されています。
外相や国防相が強気の発言をしているのと対象的で、
ここら辺が政権の本音ではないでしょうか。

中途半端な空爆で紛争が長引くよりも、
いっその事、拠点施設を思い切り叩いてハマスを弱体化させてから、
親米湾岸諸国の部隊を駐留させて、ハマスの動きを牽制する。

■原油価格への影響■

湾岸諸国としても、中東の危機を煽る事で下落して原油価格が持ち直し、
混乱する国内経済に歯止めが掛かる事は歓迎しているはずです。

さらに、ファンドなど投機筋の決算の調整売りで原油価格が底を打っていただけに、
新年に向けては、原油価格は上昇する気運にあるはずです。
投機筋は底値で買った原油を、先物市場で高くさばきたいはずで、
彼らにとっても、この時期のガザ空爆は好感されるはずです。

当然、イスラエルはユダヤマネーとくっ付いていますし、
有効な投資先を模索するアメリカを初め世界のマネーは
中東での出来事を興味深々で見守っています。

■オバマ政権へのプレゼント■

ブッシュ政権は現状、積極的に調停に乗り出してはいませんし、
アメリカを無視してイスラエルがガザに空爆を加えるとも思えません。
今回の件は、ブッシュ政権とは調整済みとみるべきで、
オバマが今の所沈黙を守っているのは、
共和党と民主党の利害は意外と一致しているのかも知れません。

民主党の経済閣僚の顔ぶれを見ると、
今回の金融危機の最初の種を蒔いた面々ですし、
経済運営的には次期政権は、現政権の近い考え方なのかもしれません。

紛争が制御不能の事態にまで進展しなければ、
ブッシュ政権は、停戦調停を主導するという花道が得られるでしょうし、
あるいは、それをオバマの初仕事としてプレゼントする事もできます。
いずれにしてもアメリカはイスラエルへの影響力を維持できます。

アメリカにとって最悪のシナリオは、イスラエルの右派の台頭で
中東地域の緊張が制御不能なまでに高まり、
現在の経済情勢下で、イラクからの撤退もままならいまま、
イスラエルとイランやシリアが戦争に突入する事ですから、
空爆でイスラエル国内のガス抜きが出来るなら黙認するでしょう。

■犠牲になるのは爆撃下の人々■

いずれにしても犠牲になるのは爆撃下のパレスチナの人々で、
イスラエル人の死者に対して、パレスチナ人の死者は圧倒的に多く、
この非対称性は「虐殺」と呼んでも差し支えのないものかも知れません。
ハマスの対抗手段は当たるか当たらぬか分からない、ロケット弾だけですから。

日本でニュースに触れている私達は、「酷いな」とは思えても、
戦争を実感する事は出来ません。
むしろ、戦争の原因をあれこれ思い巡らせて、
大国のエゴを批判して満足してしまったりします。

実際に我々の頭上に爆弾が降ってくる事も、
道端に死体が転がっている事もありません。

ガンダム00を見る自分と、現実のニュースに触れる自分との間に
実はあまり隔たりが無かったりします。

■イラクで人質になった高東さんを批判した日本人■

以前、イラクで日本人3人が人質になりました。
あの時世論は、「自己責任」という言葉を使って
彼らを随分と批判しました。
私のその一人でした。

その後、高遠菜穂子さんの本を読んで大分反省しました。
彼女は確かに危機管理は出来ていませんでしたが、
紛争地帯に住む人々の苦しみを、
実感として捕らえる事の出来る数少ない人の一人でしす。
紛争地域で何が行なわれていて、人々がどうしているのか、
実際に自分の眼で確かめなければ気の済まない性格なのでしょう。

私の知り合いにも、イスラエルでパレスチナ人の子供と遊ぶ
ボランティアを続ける方がいます。
「危ないから止めたほうがいいよ」と思わず言ってしまいます。
「子供と遊ぶ事が、どう平和と結び付くのだろうか」とも考えてしまいます。
それでも彼女は何年間も休暇を利用してイスラエルに通い続けています。


■情報化の中で希薄化する実感■

現代はTVのニュースやインターネットで沢山の情報が得られます。
しかし、それはバーチャルな体験で、実体験ではありません。

人間はこの間接体験に慣れすぎてしまったのかもしれません。
パレススチナの出来事を口では非難しながらも、
実はその日の株の値動きのほうが気になる。

紛争のニュースは、景気や経済への波及効果とリンクして語られ、
暴力の実態は希薄化してしまう・・。
今もどこかで、我々の儲けの為に誰かが血そ流している・・・
世界経済の再生の為に、頭上に爆弾を降らされている人々が居る・・
そう考えると、呑気に新年を祝っている場合ではないのかもしれません。