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人力でGO

経済の最新情勢から、世界の裏側、そして大人の為のアニメ紹介まで、体当たりで挑むエンタテーメント・ブログ。

「熱病加速装置」・・・元町夏央・人肌の熱さ

2011-05-06 16:49:00 | マンガ
 


■ 好きだけど嫌いなビレッジ・バンガード ■

私はビレッジ・バンガードが好きです。
80年代に青春を送った者として、価値のある物と、価値は無いけど面白い物の「ごった煮」感はたまりません。往年のLOFTが持っていたカオスが、あの空間には存在します。ゴタゴタ商品が山積になっているだけでは、文化のカオスは現れません。ドンキホーテに存在するのは、消費の掃き溜まり感です。ドンキホーテが消費の赤裸々な姿を映す「新宿系」とするならば、ビレッジ・バンガードは消費の無駄を楽しむ「渋谷系」です。

私はビレッジ・バンガードが嫌いです。
80年代に青春時代を送った者として、店では魅力的に感じていた商品の多くが、直ぐに魔法が解けてしまう物だと知っているからです。馬車はカボチャに戻ってしまうものなのです。

私はビレッジ・バンガードが好きです。
そこに並ぶマンガは、私の空想の書斎にピッタリのセレクションです。

私はビレッジ・バンガードが嫌いです。
そこには、私がかつて持っていた本と、いつか読みたい本が積まれています。その数を見ると読書の遅い私は、諦めに似た気分を味わいます。

私はビレッジ・バンガードが嫌いです。
そこにおかれた本やマンガが、いかにも自分の思考と嗜好を見透かしている様で憂鬱になります。

私はビレッジ・バンガードが嫌いです。
今日も、お金を使ってしまいます・・・。

■ 「熱病加速装置」・・・このタイトルには勝てない ■

そんなビレッジ・バンガードで、私は「それでも町は廻っている」を大人買いしそうな衝動を必死にこらえます。そして、反動で買ってしまったのが、元町夏央の「熱病加速装置」。

「熱病加速装置」ってタイトルには勝てません。表紙で微笑むナイフを手にした少女にも、やはり勝てません。パンチラぎりぎりの構図にも、男として勝てません。

こんなタイトルだから、こんな表紙だから、中身は結構バイオレンスなのかも知れないな・・・なんて思いつつ、ページをめくってビックリ。・・・あら、エッチ・・・。

冒頭の「てんねんかじつ」は短編3話からなる、異母姉弟の話。「結婚が決まった姉に劣情する弟」と書いてしまうとAVのネタの様になってしまいますが、一番身近な異性が血の繋がらない姉というのは、さかりの付いた高校男子には結構キビシイ状況です。姉とて弟を嫌いな訳でなく、一線を越えてしまいます。
私としてはあまり好きになれない展開なのですが、この作品はイヤな感じがしません。副題に「桃」「枇杷」「林檎」と果物の名前を配している様に、姉弟の関係は実に瑞々しく、柔らかな皮を撫でるような関係です。各局姉は結婚し、弟は姉との距離を取り戻して行きます。

■ 不思議な女性作家 ■

作者の元町夏央は女性作家です。しかし、男性誌のビックコミックに掲載された作品だからか、女性的な醒めた視線をあまり感じません。むしろ、肘と肘が近づいただけで、何となく伝わる熱感に、心臓がバクバクしてしまうような、思春期男子の心情を良く理解しています。この「ドキ・ドキ感」を、今最も上手に表現できる作家の一人ではないでしょうか?

「熱病加速装置」は、作者の初期短編集です。怪我に包帯を巻いてくれた担任に、ほのかな恋心を抱く男の子を描く「包帯」は、最初期の作品なのか絵も下手で、話も荒削りですが、作者の発想のルーツを見る様で興味深い作品です。

表題作の「熱病加速装置」は、反抗期の男子の破壊衝動をテーマにしています。話としてはまあまあですが、絵がイイ。決して上手い絵でも、完成された絵でも無いのですが、作家が初期の作品でだけ発揮できるマジックを感じます。黒田硫黄が使いそうな、大胆な構図が、一瞬、主人公を重力から解放します。世の中が、重くて重くてたまらないと感じるこの世代の男子が感じる一瞬の開放感を、上手く表現しています。

「橙」は学生時代に書かれた作品で、ちょっとコジンマリまとまり過ぎた感じの作品です。この作品を読むと、元町夏央の魅力が、ちょっとインモラルな関係と、微妙なアンバランスな抜きには成立しない事が分かります。

これは、初期の「桜庭一樹」作品、例えば「砂糖菓子の弾丸では撃ち抜けない」や「荒野」に通じる魅力です。

■ 「あねおと」・・・やはり血の繋がらない姉弟 ■



岡本夏央が「アクション」に現在連載しているのが「あねおと」。やはり血の繋がらない中学生の姉弟の話。

兄が事故死してから萌子の家庭は歯車が狂ってしまいます。家族は兄の死を乗り越えられずに日々を過ごしています。

そんな家族の元に、父の親友の息子の喜一がやってきます。彼の父は妻の死を乗り越えられずに、重度のアル中になってしまいます。萌子の父は中学一年の喜一を預かる決心をします。母は反対し、思春期の萌子は複雑な思いで新しい弟を迎えます。

萌子は不幸な境遇の喜一を気遣いながらも、兄の代わりにならない彼を疎ましくも感じています。しかし、軟弱でつかみ所の無い喜一を萌子は何故か放っておけません。いろいろな出来事を通して、家族の歯車がまた回りはじめます。

「あねおと」は商業誌に連載されるだけあって、絵も大分垢抜けしてきました。ストーリーもエキセントリックな面が後退し、思春期の女子中学生の複雑な気持ちを丹念に描きながら飽きさせません。

■ より磨きが掛かった「大胆な構図」と「唇」 ■

「あねおと」で元町夏央の魅力はさらに高まっています。扉絵は防波堤に座る萌子を下から描いていますが、この構図は元町夏央独特です。パースペクティブが強調されているので、21mmくらいの広角レンズで切り取った風景の様です。

続く人物のアップも望遠レンズで切り取った絵では無く、極至近距離から撮影した写真の感じがします。体温が伝わる絵です。

そして、特筆すべきは「唇」の肉感。漫画であまり厚い唇を書くと、エロくなってしまいがちですが、元町夏央の描く「唇」は実に健康的。それを言ったら、太ももも、最近の無機質なアニメ絵のマンガ家には絶対に描けない、太ももです。

・・・あんまりこんな事を書くと、少女フェチだと思われるので、この変で。

この作者の描く「青春の門」の筑豊編を読んでみたい。

マンガは未来を「幻視」する(2)・・・「天顕祭」にみる除染作業

2011-05-01 03:56:00 | マンガ
 



■ 優れたSFが未来を予見する ■

「マンガやSF小説の優れた作品は未来を予見する」というのが私の持論です。

SFはサイエンス・フィクションと訳す事が一般的ですが、先日紹介したル・グィンの諸作などは、科学小説というよりは、社会小説です。旧社会主義圏の作家の多くも、現実世界を舞台とすると規制を受けるので、架空の世界の架空の話として、体制批判や、社会学的論考を行っていました。

SFは狭義の意味においては、サイエンス・フィクションですが、広義においては、思弁的小説(Speculation Fiction)と捕らえる事が出来ます。思考実験の場として、仮想世界を生み出し、その中での人々の行動や社会的動きをシミュレートするのです。こういった思考実験が時に、未来を正しく予見した作品を生み出します。

ロバート・ハイラインの「夏への扉」は、顕著な例として挙げられるでしょう。古典的なタイムトラベル小説の名著ですが、彼が思い描いた未来の技術は、形こそ異なるものの、かなり現代の社会や技術に近いと思います。彼が予見できなかったのはコンピューターの発展で、かれはそれらを機械的に実現した社会を想定しています。(スチーム・パンクの原点とも言えます)

一方、最近の例で言えば、ウィリアム・ギブソンの「ニュー・ロマンサー」がネット空間の可能性に先見的で、サイバー・パンクというムーヴメントに発展します。

三崎亜記の作品も広義のSFに分類しても良いでしょう。2006年の「失われた町」は、ある日突然、ひとつの町から人が居なくなるという「消滅」現象と、それを取り巻く人間模様を克明に描いていますが、まさに現在の福島原発の非難地域の姿そのものです。

■ マンガはも未来を「幻視」する ■

マンガもSFの血を強く受け継いでいるので、優れたマンガは未来を「幻視」する事があります。

以前にカサハラ・テツロの「ライドバック」を題材にこの事に触れた事があります。

「マンガは未来を幻視する・・・カサハラ・テツロー「ライドバック」」
http://green.ap.teacup.com/pekepon/313.html

今回の原発事故とその事後処理にあたり、私はある作品を強く想起しました。
これも、以前このブログで取り上げた事のある、白井弓子の「天顕祭」です。
内容は以前のブログをご覧になって下さい。

「日本文化の厚み・・・マンガ「天顕祭」」 
http://green.ap.teacup.com/pekepon/26.html

「ヤマタのオロチ」伝説を題材にしたヒロイックファンタジーですが、その世界の背景になるのは、「核戦争後」の世界です。この世界設定は、「風の谷のナウシカ」を始め、日本のサブカルチャーが好んで使用する舞台設定です。

今回私がこの作品を特に取り上げるのは、「除染作業」が描かれているからです。

■ 除染作業をイメージする ■

放射性物質「ふかし」に汚染された地域は、レベルによって封鎖されています。
ある種の竹が「ふかし」を土中から良く吸収するので、浄化竹と呼ばれ、汚染地域は竹に覆われています。

土中の汚染を吸収した竹は、刈り取られ、灰にされた後、最終処分用の巨大な穴に投げ込まれます。

除染作業に応募して来るのは、子供を作った後の中年男性です。法律で若者の作業は禁止されていますが、生活に困った若者が年齢を偽って応募してきます。

本編の巻末に、番外編の「若竹に吹く風」が収録されており、主人公が若き日に除染作業に潜り込んだ時の不思議体験が描かれています。

描写が細やかなので、除染作業が実感を伴って感じられます。

■ 三崎亜記の「失われた町」での除汚作業 ■

三崎亜記の「失われた町」でも、「除染作業」が描かれます。こちらの汚染物質は「思い出と記録」です。「人々が消えた町」の名前や人々の存在を、徹底的に記録から抹殺していくのです。多くの書籍や過去の記録から、一切の消えた町の名前が削除され、そこの住んでいた人々の記録も削除されます。そういった行為が、「消失」の伝播を食い止めるのです。

「消失」が起きた町の中でも、政府に選ばれた人達が除染作業に当たります。こちらの対象は写真であたり、表札であったり、子供の道具箱に書かれていた名前であったりします。除染作業員に選ばれるのは、最近身近な人を失って、大きな喪失感を抱えた人たちです。「町」はそのような人達に「影響」を与えないのです。

「失われた町」は素晴らしい作品なので、又改めて取り上げたいと思っています。

■ 白井弓子の新連載「WOMBS」はジェンダーSFの最先端 ■



ちょっと話がそれますが、白井弓子の新連載「WOMBS]は、意表をついてハードSFです。

独立的な殖民開拓惑星に連邦が干渉してきます。惑星の居住者達は連邦政府と戦争を行いますが、その戦力差は圧倒的です。そこで彼らが用いた作戦は「空間転送」。

その「空間転送」の技術たるや、驚愕を覚えます。出産経験の無い若い女性の子宮に、その星の「転送能力を持った生き物」を受胎させます。そうする事で空間転送能力が母体にも宿るという発想は画期的です。

彼女達「転送兵」は大きなお腹をプロテクターで防護します。そのプロテクターが「犬の日」に支給されるなど、作者の女性としての、そして母親としての感覚が際立っています。

「転送兵」たちはフォーメーションを組んで、攻撃部隊を戦闘地域に転送したり、あるいは撤退させたりします。
一見非常に便利な「転送能力」ですが、転送できる地点は限定的で、その星の原住生物が転送ポイントをして使用していた所でしか転送は不可能です。

さらに何人かの「転送兵」は原住生物の集合意識の様なものに囚われていきます。

白井弓子は「同人」の作家でした。「同人」として出品された「天顕祭」が、文化庁メディア大賞の優秀賞になり、一躍注目を浴びました。筆で書かれた様なタッチは個性的ですが、商業作家としての洗練さは無く、魅力的ですが、一般受けするかどうか心配でした。しかし、内容が評価されたのか、現在は多くのファンを獲得しています。

「白井弓子初期短編集」も発刊され、こちらは小粒ながら柔らかな発想の瑞々しい作品が満載です。

白井弓子は多分私と同世代の作家だと思います。「WOMBS」のSF世界は、往年のル・グィンや、ジェームス・デユプトリー・Jrといった70年代の偉大なる女性SF作家の世界に良く似た肌合いを持っています。

そういった意味では白井弓子は遅れてやって来たジェンダーSFの作家と言えますが、それゆえに、その作品は「ジェンダーSFの最先端」を表現しています。

最後におまけですが、皆さんご存知のリドリー・スコット監督の「エイリアン」もジェンダーを強く意識した作品です。女性が主人公ですし、宇宙生物の男性への受胎という設定も象徴的です。そしてH.R.ギーガーによるセットはセクシャルなイメージに溢れています。主演のシガニー・ウィバーもジェンダーを超越した存在でした(現実でも)。




「超絶技巧集」少女漫画・・・くらもちふさこ「駅から5分」

2011-04-13 05:09:00 | マンガ
 



■ 人々は同じ世界で違う夢を見る ■

先日の菅首相に関する評価ではありませんが、人々は同じ物を見ながら、異なる解釈をします。これはニュースに限った事では無く、日常の全てにおいて言えることです。

一つの街には色々な人が住んでいます。ほとんどが、駅ですれ違ったり、学校で顔を知っているだけの存在でしょう。時には、落とした物を拾ってもらったりする事もあります。

小さな街に住む人々は、どこかで接点を持ちながらも、それぞれの生活を過ごしています。
これは、あたかも「同じ世界に住みながら、違う夢を見ている」ような現象です。

少女漫画家、「くらもちふさこ」の新作、「駅から5分」は、どこにでもありそうで、どことも特定できない街、「花染町」に展開する、そんな「普通の人々の物語」です、

■ 花染町に住む人々 ■

「不良少年に告白されて戸惑う少女」というスーパー・ベタな展開から始まる短編漫画集「駅から5分」は、ものの数ページで現代漫画の表現手法の極地へ到達します。少年は交通事故で記憶を失い、物憂げな性格に変貌します。告白された少女は戸惑いながらも少年に引かれて行きます。・・・やはりベタな展開です。

しかし、「くらもちふさこ」の手に掛かれば、こんな使い古されたシチュエーションも魔法の舞台に変貌します。

すっかり物静かになった少年がいつも手にするのは、英語の暗記カード。勉強嫌いだった彼の机の上に置かれていたカードの単語を辿りながら、かつての自分を探していきます。「たんぽぽ」「電線」「塀」「マンホール」「ポスト」・・・およそテストとは関係無い単語の羅列を、2人は辿って行きます。それは、少年の家から学校へと続き、そして少女の机の横の「窓」で終わっています。記憶の断片を2人で辿りながら、少年は無くした自分の気持ちに気付き、少女は「宙ぶらりんになっていた告白」への答えを見つけるのです。

■ 全話が無関係で、全話が繋がっている ■

第二話で、少年と少女の恋の続きが読めると期待すると、大きく外されます。

次の話は、花染町から遠く離れた長野県から始まります。陰気な町役場の女性職員が、20年前に東京に越した幼馴染を訪ねる話がいきなり始まって面食らいます。しかし、彼女が尋ねるのは「花染町」。しかし、彼女の乗ったタクシーは少年を撥ねてしまいます。そう、あの不良少年です。彼のその後を気にする女性は、しばらくしてから再び「花染町」を訪ねます。しかし方向音痴の女性は道に迷い、尋ねた交番で、幼馴染の少年にようやく再会します。そう、彼は警官になっていたのです。

全てがこんな具合で、1~2年の時間軸をフワフワと漂いながら、花染町の住人達の本人達ですら気付いていない関係性を、あたかも探偵が探し当てるように描いてゆくのが「駅から5分」です。既に、単行本で3巻が発売され、毎回、アッと驚く切り口で様々なエピソードが展開します。

■ 漫画の「超絶技巧集」 ■

「駅から5分」の本当にスゴイ所は、全話の表現手法が異なる点です。王道少女漫画的な手法を用いる第1話。一切の主観表現を廃した第2話。・・・さらには、地域コミニティーのチャットだけで構成される話や、主婦の日常をコミカルに描いた回など、ほとんど考えられる限りの手法が詰め込まれています。

そのどれを取っても、ほとんど常人離れした表現力と切れ味で、「くらもちふさこ」という作家の力量に圧倒されてしまいます。

■ 「花に染む」というミステリアスなスピンオフ ■



「くらもちふさこ」は「駅から5分」と同時進行で「花に染む」という新作を展開しています。

花染神社の神主の息子とその姉、そして幼馴染を主人公に据えた、スピンオフ作品です。こちらは、神社の火事で焼死した兄と、その弟、姪、さらには幼馴染の恋愛感情が絡む、ミステリアスな作品です。

「駅から5分」の中でも、最も不可解なキャラクターの神社の息子(生徒会長)の過去の秘密が断片的に明かにされていきます。

「花に染む」は、「駅から5分」はと異なり、オーソドックスな大人の少女漫画の手法を使いながらも、適度に断片化さてたエピソードによって、読者は謎の本質になかなか迫る事が出来ない本格ミステリーです。これはこれで、とても素晴らしい作品です。

■ 進化し続ける「くらもちふさこ」 ■

「くらもちふさこ」を私が知ったのは、映画で「天然コケッコー」を見てからです。ポスターの写真に引かれて、当時小学生だった娘と銀座の映画館で見た「天然コケッコー」は、まだ初々しい夏帆ちゃんと岡田君、そして子役達の演技が素晴らしい映画でした。

島根の田舎町に引っ越してきた、都会の少年に思いを寄せる田舎の女の子の気持ちの揺れ動きと、田舎の人々の普通の生活や会話がかもし出すどことなくコミカルなズレ感を、豊かな自然の中で描いたこの映画は、原作を読んでいない人でも充分に楽しめる作品です。

映画があまりに良かったので、原作を大人買いして読んでビックリ!!こんな作家がいたなんて・・・。

どことなくフンワリとした田舎の話を描きながらも、そのタッチはあくまでもシャープで語り口は硬質。人を見つめる視線は鋭利な刃物の切っ先の様。

「天然コケッコー」の中でも「くらもちふさこ」は様々な表現手法を駆使して、漫画表現の進化に余念がありませんでした。台詞の一切無い回などは圧巻です。

彼女の進化は留まる事を知らず、そのスピードは「駅から5分」でさらに早まっている感じすら受けます・

■ 決して万人受けする作家では無い ■

多くの優れた作家同様、「くらもちふさこ」は決して万人受けする作家ではありません。その余りに冷徹な観察眼は、一般的な少女漫画の読者には、少々キツイものがあるかも知れません。

しかし、彼女の才能は孤高の粋に達しています。文学におけるジェームス・ジョイスやヴァージニア・ウルフの様な表現の極北に挑む作品が、商業誌で連載される事に、日本人は誇りを感じるべきです。(彼らの追及した「意識の流れ」のような表現は、マンガでこそ最適化されるのかもしれません。)

少しでも多くの方がこの素晴らしい作品に触れられたらと思い、今回取り上げました。

以前、ここで取り上げた「吉田秋生」と双璧を成す、円熟してなお、進化する作家です。

「海街diary」・・・本音をみつめる女性の視点
http://green.ap.teacup.com/applet/pekepon/20101103/archive


中東革命の行く末・・・超人ロック・[ロンウォールの嵐」「冬の惑星」

2011-02-22 07:43:00 | マンガ



■ 独裁者の戦い ■

カダフィー、アサド、カストロ、フセイン、アフマディネジャド(ついでにチャベス)と聞いて、眉根を寄せるのは常識人の反応です。欧米のマスコミに洗脳された私達には、彼らこそが「独裁者」だと思い込まされています。

カダフィー大佐はかつて国連総会で国連憲章を投げ捨てるパフォーマンスで、現状の世界秩序を批判しました。彼は15分の予定時間を大幅に上回る長い演説を行いヒンシュクを買いました。

ベネゼエラのチャベス大統領はブッシュの後に演壇に上り、「昨日悪魔がここに来た。(十字を切って天を仰ぐ) まだ硫黄の匂いが残っている。昨日、私が悪魔と呼ぶところの合州国大統領は、この演壇からまるで自分が全世界の所有者であるかのような演説をした。我々は精神科医を呼んで、昨日の合州国大統領の声明を診断してもらうべきだ・・・」と演説しました。

世界の鼻つまみ者の様な彼らの演説は、欧米のメディアでは冷笑され、カダフィーの演説の中継は中断されました。しかし、国連総会の会場では途上国の代表達が、カダフィーやチャベスの演説に拍手喝采を送っていたと言います。

私達はアメリカを中心とした偏った世界から、別の世界を見ているに過ぎません。

「中東の民主化」の流れの中で排斥されつつある「独裁者」達は、かつては大国から自国の利権を守る為に戦った英雄達なのです。

しかし残念ながら権力は腐敗します。崇高な志を抱いていたかつての指導者達も、日々先進国に政権を脅かされるうちに、政権維持が目的化して、国民を弾圧していきます。軍の力を背景にした権力の硬直化が、彼らを「独裁者」に変貌させていきました。

■ 「超人ロック」に学ぶ「民主革命」の行方 ■

「民主革命」の本質に迫る最高のテキストがあります。
聖悠紀の「超人ロック」の初期作品、「ロンウォールの嵐」と「冬の惑星」です。
(又マンガで申し訳ありません)

「超人ロック」については以前、このブログでも取り上げました。
http://green.ap.teacup.com/pekepon/77.html
「超人ロック・・・帝国の盛衰」
「成長の限界と破壊による再生」という、歴史の大原則について書いたものです。
(ずいぶん前のブログに、先日コメントを頂き、大変嬉しく思っております。)


超人ロックは超能力による再生能力を持ち、ほぼ永遠に生き続けます。
そんな彼が再生のトラブルで以前の記憶を失います。
普通の青年リヴィングストンとして成長したロックは、ロンウォールの独立運動に巻き込まれていきます。

人口爆発から宇宙移民を推進する地球政府は、殖民惑星のロンウォールに多くの移民を移住させます。しかし、開発が進んでいないロンウォールの食料生産は移民を受け入れる余裕はありません。

反対勢力は次第に勢力を増し、とうとう政権を揺るがす状況になります。地球政府は特殊部隊を派遣して反乱を鎮圧しようと試みますが、記憶を取り戻したロックの活躍によって、特殊部隊は壊滅、さらには地球軍の艦隊もロックによって撹乱され、ロンウォールは独立を果たします。

■ 権力抗争で自壊する革命 ■

しかし、指導者ジュリアスを欠いた革命軍は直ぐに内部分裂します。互いに疑心暗鬼に陥る中、地球政府と取引をしたクラウスが政権を握ります。彼は仲間たちを次々に暗殺、投獄して政権基盤を盤石化していきます。

クラウスはその見返りに、移民を受け入れますが、冷凍冬眠で運ばれて来た移民達は冷凍倉庫の故障で蘇生する事なく死んでいきます。

地球政府は移民を送り出せればそれで良く、ロンウォール政府は移民を受け入れれば良いのです。彼らの冷酷な妥協によって多くの命が失われていきます。

革命成立後、身を潜めていたロックは、事ここに至って再び立ち上がります。かつての仲間を脱獄させ、そしてクラウスに正義を問い詰めます・・・。

■ 独裁と傀儡 ■

マンガの話とは言え、「革命とその行く末」を見事に看破しています。

一時の勢いで革命が成立しても、烏合の衆からなる革命政府には政権担当能力が無く、旧勢力やそれを操る大きな存在に付け入られ、次第にコントロールされてしまいます。

それを防ぐ為に、「独裁制」に移行するケースが多く見られます。
しかし「独裁者」と言えども、政権に固執すればムバラクの様に大国の傀儡と化していきます。

一方、大国と対決姿勢を取るカダフィーやチャベスの様な独裁者も多くいますが、それとて地域の力の均衡の駒(緊張の創造)として利用されてしまいます。

今般の中東情勢を見ても、大国(あるいは影の勢)が、地域のパワーバランスを大きく変えようとする時に、「独裁者」達はいとも簡単に使い捨てられます。

中東の「民主化革命」は便利に利用された独裁者達の大掃除に他なりません。

■ 「超人ロック」は実在しない ■

実際の世界には「超人ロック」はいません。
いえ、「超人」と言われるロックですら、歴史や世界を支配する力に翻弄され続けます。

身近な人とて守れないのです・・・。



長々と書いてきましたが、実は上のコマを載せたかっただけです。
ロックが思いを寄せたエレーヌを失ったシーンです。

このシーンから、「超人ロック」は私には生涯忘れられない作品になりました。


中東のアスランの政変・・・エリア88

2011-02-01 09:44:00 | マンガ


■ アスランで政変勃発 ■

中東の小国「アスラン」で政変が勃発

「アスラン国軍は、隣国ブラシリアとタンドリアに侵攻し、スエズ運河に迫ろうとしたが、国王アブダエル・ヴァシュタールと対立する第一王子サキ・ヴァシュタールが率いる反政府軍が反攻を開始。反政府軍はタンドリアでスエズに侵攻する地上戦力を阻止すると共に、首都に侵攻を開始したと多くの通信社が報じた。アスランの首都では、アブダエル国王に反対する市民が蜂起し、市内各所から黒煙が立ち上っている。王宮でも戦闘が開始された模様で、市民の多くが王宮に不時着するハリアー戦闘機を目撃との情報も伝わっている。

アスランでは先代の国王の死後、兄アブダエルと弟ザクの間で政権を巡る内戦が続いていた。数年前に反政府勢力であったアブダエルが西側諸国の支援を受けて政権を奪還。国王の弟ザクと、国王の第一王子のサキ・ヴァシュタールが反政府軍を率いる形で、肉親同士の対立が激化。伝統的なアスランの継承を望んむアブダエルと、先進国の支援でアスランの発展を目指した弟ザクをそれぞれ支援する国々が、武器と資金を供与する形で内戦は泥沼化していた。

アスランは中東の小国であるが、水にも恵まれ比較的豊かな国であったが、政情が不安定なタンドリアやブラジリアと国境を接し、大国の利害の対立から内戦の収拾の目処は立っていなかった。

未確認であるが、現国王アブダエルと第一王子のサキが戦死したとの情報もあり、今後は亡命中のアブダエルの第二王子リシャールが政権を担うとの観測がある。」

■ エリア88 ■

知っている方は「ハハァーン」とお思いでしょう。
ご存知無い方は、今朝の新聞を読み直している方も?・・・

ゴメンナサイ、これはマンガの話です。

「新谷かおる」が「少年ビックコミック」で1979年から1986年まで連載した「エリア88」は素晴らしい作品でした。

中東の小国アスランの内戦を背景に、空軍基地「エリア88」に集う外人傭兵部隊の活躍を描く群像劇、クールでスタイリッシュでそれでいて人情に溢れていました。

親友、神埼の裏切りで図らずも外人部隊に所属する事になる風間シンは、日本に残してきた恋人涼子に生きて再会する為に、日々の戦闘を生き延び、エリア88のエースパイロットとして敵機に向かってトリガーを引き続けます。

一方シンを裏切った神埼は涼子と大和航空を我が物とする為、謀略を巡らせますが、失敗に終わります。復讐に燃える意神埼は、武器商人と資本家達の集団「プロジェクト4」に接近し、やがてそれを牛耳る立場までのし上ります。

「プロジェクト4」は中東やアフリカで終わる事の無い内戦を発生させ、そして双方に武器を売る事で永遠に設け続けることをビジネスモデルとしています。

「プロジェクト4」は一方で政府に資金援助し、一方で反政府軍に武器と傭兵を供与して内戦を泥沼化させ、さらには、隣国へ侵攻するなど戦闘の大規模化を画策し、地球規模での戦争ビジネスを構築していきます。

神埼はシンと同じ孤児院で育った親友ですが、シンとの間にある出生の秘密を彼だけが知っています。彼はシンを親友としながらも、一方でシンに対する私怨の情が膨らみ続けます。
神埼という一人の男の復讐が、世界を戦乱に陥れていきます。

■ もう一つの主人公 ■

「エリア88」の主題は肉親や友人の愛憎です。しかし、それだけでは韓国ドラマになってしまいます。

「エリア88」のもう一つの主人公は中東の砂漠の空を飛び交う戦闘機達です。

補給を考慮しれば、戦闘機の機種は限定しなければなりませんが、そこはマンガの話。補給を担当する武器商人のマッコイは、世界各地から中古や新品の機体や部品をかき集めてきて、外人部隊のパイロット達に売り付けます。
一人ひとりのパイロットの性格に合わせた、様々な戦闘機が登場し、物語に色を添えます。

シンの機体は、F-8クルセーダー、サーブ・ドラッケン、F-20タイガーシャク、グラマンX-29と追撃される度に乗り替えていきますが、どれもスマートで旋回性能を重視した機体です。

親友のミッキーは米海軍出身だけあって、F-14トムキャットに拘りますが、なんせ燃料は食うし、パーツは高いしで、外人部隊では維持費がかさみます。

アフリカの小国の王子キムの機体は垂直離着陸機のハリアーです。ハリアーはその機動力から様々な作戦で活躍します。

政府軍が採用しているのは、イスラエルのデルタ翼機、クィールです。これはフランスがイスラエルにミラージュの販売を中止した事から、モサドがミラージュの設計図を盗み出し、別の機体のエンジンを積み込んで完成したという機体です。政府軍がイスラエル製の戦闘機を採用している事からも、アスランを支援しているのがアメリカとイスラエルである事が分かります。アスランのモデルはヨルダンあたりでは無いでしょうか?

一方、反政府軍は最初はMIG19などソ連製の古い戦闘機を使用しています。古いとは言え、MIG19は旋回能力に優れた名機です。西側の新鋭機を相手に互角以上の戦いを繰り広げます。

■ 戦闘機が戦闘していた時代の戦争 ■

F15イーグルが出現するまでは、戦闘機はドッグファイトで敵機を追撃する能力が求められました。

しかし、F15に代表される第四世代戦闘機は長距離射程のミサイルを搭載し、視認すら出来ない射程からお互いに空対空ミサイルを打ち合うスタイルに戦闘が変化します。これらの戦闘で問題になるのは、レーダーの探知範囲の広さと、敵機のレーダーに捕捉されない機体形状です。

「エリア88」では、空対空ミサイルの打ち合いも描写されますが、やはり手に汗握るのはドッグファイトです。空戦がマンガとして成立する最後の時代のマンガなのかもしれません。

■ 第五世代戦闘機 ■


F22・ラプター

史上最強と言われたF15も、第五世代戦闘機の時代には性能不足です。

先日中国が発表した「殲20 」は第五世代戦闘機の試作機です。第五世代戦闘機に要求されるのはステルス性能です。長距離レーダーで敵を捕捉し合う現代の戦闘では、レーダーに捕捉されないという事が大事な性能になります。

第五世代戦闘機は機体を平面で構成し、レーダー反射を拡散すると共に、フェライトなど電波吸収剤を塗装してステルス性能を高めています。ミサイルも機内に収納するなど、極力機体の凹凸を無くしている事が特徴です。

アメリカは第五世代戦闘機の切り札としてF-22ラプターを開発しますが、情報漏えいを防ぐ為、友好国にも機体を供与できない事から、生産コストが莫大になり、結局F-22は187機しか生産されない事となりました(予定750機)。

その代替として、F16の後継機として開発していたF-35ライトニングを今後採用していく予定です。F-35は海軍の艦載機として短距離・垂直離着陸機を開発するなど、多用途の展開で機体コストの低減を図っていますが、F22が航空支配戦闘機という位置付けだったのに対して、F-35は従来の戦闘攻撃機です。

アメリカはリーマンショック後の財政難で、第五世代戦闘機の配備での圧倒的優位を失おうとしています。

■ 無人機こそが次世代戦闘機 ■


米海軍が開発中のステルス無人戦闘攻撃機 「X-47 ペガサス」

アメリカはイラク戦争やアフガン戦争で無人機を本格的に投入しています。

無人機にはいくつかの利点があります。

① パイロットの生命維持の為の装置が不要で小型軽量化できる
② 高い加速度(G)が発生してもパイロットが失神しないので
  運動性能を高める事が出来る。
③ パイロットの養成には高額なコストが掛かるが、無人機なら
  パイロットの消耗が無い。

このような利点から米軍は今後、無人機開発に主軸を移していくものと思われます。
血なまぐさい戦闘のコントロールは、地球の裏側のラスベガスの基地で行われる時代の到来です。

ドッグファイトの様に、0.1秒が生死を分ける戦闘とは違い、現代の戦闘は遠くからミサイルを打ち合う戦闘です。遠距離コントロールでも充分に対応可能です。

■ 非対称の戦闘 ■

快適なクーラーの効いたコントロールルームに繋がる無人機の照準の先には、熱砂の砂漠で生きる人々が居る・・・こんな、マンガの様な状況が現実に起こっています。

トリガーを引く兵士達に、命を絶っているという実感はどれだけあるのでしょうか?

テロという「非対称の戦争」に対するアメリカの返礼は、無人兵器という「非対称の戦闘」です。

ベトナムにしても、アフガンにしても、イラクにしても、兵士達の命が失われる事が、国民の厭戦感情に繋がります。

「兵士の死なない戦争」は戦争への障壁を低くし、戦闘を長期化するでしょう。

■ マンガは絵空事では無い ■

「エリア88」は架空の物語です。しかし、作品には「プロジェクト4」が投入する無人兵器が多数登場します。

それはまさに、現代の状況を先読みしていたとも言えます。

大国は自国経済の為に戦争を引き起こし、敵味方双方に武器を売って設ける。
戦闘で死ぬのは他国の兵士と、無垢の市民達。

1980年代に書かれたマンガが30年後の現代をこれほど予見しているとは・・・。
あるいは、世界は当時と何も変わっていないのかも知れません・・・。


■ チェニジア、エジプトそして中東全域へ ■

チェニジアの政変は、エジプトに飛び火しています。

アメリカの傀儡であるムバラク政権の30年の歴史に幕が下りようとしています。
エジプトは今後、イスラム勢力が台頭し、イランやトルコと連携を深めてゆくでしょう。

中東に広がる革命の波は、ヨルダンやサウジアラビアの政権を脅かしています。イエメンにも飛び火するかもしれません。

中東は元々、遊牧民の部族社会です。植民地が独立する際にイギリスが適当に直線の国境を引いて、適当に有力部族の頭首を「国王」に置いただけで、王権の正当性は極めて希薄です。

サウジアラビアなど王族は、石油利権を手中に収め、国民はそのオコボレに預かって生活してきました。

タダ同然の石油と、安定した食料さえあれば、一般市民は満足するものです。

■ 溢れかえるドルがももたらしたもの ■

アラブ諸国はアメリカと対立している様に思われますが、その政権の多くかアメリカの傀儡政権です。

中東諸国は石油決済をドルで行い、自国通貨はドルにペックしています。

リーマンショック後、米ドルはまさに津波の勢いで世界中にばら撒かれています。中東諸国はドルペックを維持する為に、中国と同様に米ドルと同じ規模で通貨を増刷し続けました。

その結果、インフレが発生し、食料価格が高騰しています。
同時にカーギルなどのアメリカの穀物メジャーと金融資本が、先物市場で売買を繰り返して穀物価格の高騰を引き起こしています。

食べ物は生活の基本です。いつの時代にも「食料」が人々を暴動に駆り立てます。

■ 急速に薄れるアメリカの利権とイスラエルの安全 ■

中東の大国エジプトのイスラム化は、中東におけるアメリカの利権とイスラエルの安全を脅かします。

しかし、その一方でロシアやEU諸国はパレスチナの独立を承認するなど、イスラム化を支援するかの様な動きを見せています。

アメリカ自身、食物の高騰を仕掛けてで中東や途上国情勢を不安定にしています。
イスラエルを含めた中東情勢は急速に悪化しています。

■ イスラエルの暴発 ■

ヨーロッパ諸国のパレスチナ承認はイスラエルを刺激しています。
さらにエジプトのムスリム同胞団はパレスチナのハマスを支援しています。

イスラエルは激変する中東情勢にどこまで我慢できるのでしょうか?

イスラエルが暴発する時、中東核戦争の危険が高まり、そして原油は一気に高騰するでしょう。

■ 温暖化問題の意味するもの ■

原油高騰で一気に息を吹き返すのが「温暖化問題」です。
IPCCの捏造疑惑(クライムゲート事件)で一気に勢いを失った「温暖化問題」ですが、その真の目的は、石油危機時の代替エネルギー開発です。

温暖化を理由に立ち上げてきた環境ビジネスが、原油高騰で一気に花開く時が来ました。

日産の電気自動車も「お買い得」に感じる時代が到来するのかも知れません。

・・・・最も、2012年に世界が今のままの姿でいられるかは???