テスト前二週間になり、また太郎と「スマート」での勉強会が始まった。
と同時に『街結君のいる喫茶店スマート』のチケット使用週間も始まった。
諦めなのか、慣れなのか、オレは結構この環境が平気になってきた。
公認専属カメラマンの亜美ちゃんには、軽く挨拶なんかもする仲になった。
しかし、亜美ちゃんは、決して近距離からの写真は撮らない。
「望遠レンズで隠し撮る」というスタンスを守りたいから、というのが理由らしい。
そういうわりには、時々遠くから、「右向いて」とか「ちょっとうつむいて」というジェスチャーをする。
そして、その写真は太郎にメールされ、太郎がみつくろってチケットに採用する。
いろんな「街結君」バージョンがあり、コレクションしたいという声があがった。
そして、太郎発案により、来店の際、裏にスタンプを押せば、そのチケットは回収しなくてよいという決まりができた。
回収済みのチケットまで、「売って欲しい」と言われて困ると太郎が言っていた。
「まちゆいが、珍しくふざけたポーズを取った写真のチケットはプレミアつけられるかもしれんなあ」
また何かたくらんでいそうで怖い。
法学部ご出身の方々から目をつけられるようなことだけはやらないでいただきたいものだ。
オレが、この勉強会を続けている一番の理由が、飯かもしれない。
マスターの作るご飯は相変わらずうまい。
勉強会初日は、イタリアンだった。
人数が増えると品数を増やせるから楽しいよなあと言いながら、マスターは魔法のように料理を作る。
トマトとチーズのカプレーゼ(という名前をオレはここで覚えた)
ポタージュは緑色。ブロッコリーらしい。
ピザ生地の手作りには驚いたが、パスタの麺も手作りと聞きさらに驚いた。
ママ猿が「パスタはアルデンテ!これがパスタの命なのよ。」といつもきゃんきゃん言ってるのだが
オレにはどうしても芯が残ってるだけにしか思えなくて
オレってパスタ嫌いなのだろうと思っていた。
しかし、マスターの手作り生麺パスタを食べた時、「これって、なんですかっ?」と叫んだほどうまかった。
マスターは、「オレの料理は、プロの料理人から言わせると邪道なことばっかりだろうけど
自分がうまいと思ったものがうまいんだって思ってるんだ。
ピザにしろパスタにしろ、『手作りだぜ』なんて威張るけど、まとめて粉コネて冷凍してたものだし、
野菜の下ごしらなんてレンジでチン!だしね。
だから、オレは、基本、コーヒーの金しか取らない。
どうせ、自分が3食食わなきゃならないんだから作るだろ。
ついでに、太郎や街結や、たまたまその時いた常連さんにも振る舞うってだけの話。
それにしても、ホントに味の好みって人それぞれ違うよなあ。
オレとまちゆいは、パスタに関してはたまたまぴったんこだったけど、
田畑のおっさんは、オレのパスタはパスタじゃないって言いやがる。
でも、末さんは、小学校の給食に出た「ソフト麺」を思い出すって、泣かんばかりに喜んでくれる。
毎回そこから思い出話が始まるんだよなあ。
末さん、オレより2つ上なんだけど、なぜかオレが千春ちゃんを好きだったことを知ってるんだよなあ。
3人とも同じ小学校、中学校だったんだけどさ。
末さんも、千春ちゃんを好きだったからじゃないかって思うんだけど、
頑なに否定するんだよな。この年になっても。
ま、恐妻家だからね、余計な火種は付けないってとこかな。
千春ちゃんって、太郎のかあちゃんね。
今もかわいいけどさ、あれ?会ったことないの?」
太郎のことすら顔で思い出せなかったオレだ、太郎のかあちゃんのことはさらに思い出せない。
「可愛い顔しててさ、しっかりしててさ、何でも出来て、ホントにみんなの憧れだったんだよなあ。
オレなんて、金持ちのボンボンっていうだけで、あとは何のうりもない男だったから
柱の陰からこっそり千春ちゃんを見てるだけだったなあ。
今、時々店に顔出してくれて、オレのコーヒーが世界で一番美味しいって言ってくれて
息子にオレの料理を食わせてくれって言ってくれて
その息子が「マスターに育ててもらったようなもんだ」なんて言ってくれる。
じめじめしてた中学時代のオレに、今のオレと千春ちゃんの関係を教えてあげたいよ、すんげー進歩だぜって。」
なんだか、微笑ましいとかいじらしいとかを通り越したマスターの恋バナを聞きながら店のテーブルをくっつけて、みんなで食べる。
そして、また、太郎とオレは勉強を始め、マスターはデザートを作り始め、常連さんはナイターを見始める。
今年のプロ野球は、なかなか白熱している。
この時期になってもまだ混戦中だ。
ついつい気になって、日本史の勉強よりテレビを見たくなるが、
太郎は黙々と勉強しているのでオレもまた日本史の世界へ戻る。
オレはひそかに、今度の中間テストで、一科目だけ太郎よりいい点数をとることを目標にしているのだ。
その一科目に、ひたすら暗記すればいいだけだからと日本史を選んでみたが、
やり始めるとなかなか深い世界である。
重箱の隅をつつくような問題づくりで定評のある福島先生のことだ、9割の男も苦戦するだろう。
オレは、今回、ほかの教科は捨てて、日本史にかける。
まんべんなく勉強する太郎よりは有利なはずだ。
太郎の悔しそうな顔を思い浮かべながらせっせと頭に叩き込む。
腹一杯で眠くなる帰りの電車の中でも、年代表を二時間見つめ続ける。
*街結君と太郎君①
*街結君と太郎君②
*街結君と太郎君③
*街結君と太郎君④
*街結君と太郎君⑤
*街結君と太郎君⑥
*街結君と太郎君⑦
*街結君と太郎君⑧
と同時に『街結君のいる喫茶店スマート』のチケット使用週間も始まった。
諦めなのか、慣れなのか、オレは結構この環境が平気になってきた。
公認専属カメラマンの亜美ちゃんには、軽く挨拶なんかもする仲になった。
しかし、亜美ちゃんは、決して近距離からの写真は撮らない。
「望遠レンズで隠し撮る」というスタンスを守りたいから、というのが理由らしい。
そういうわりには、時々遠くから、「右向いて」とか「ちょっとうつむいて」というジェスチャーをする。
そして、その写真は太郎にメールされ、太郎がみつくろってチケットに採用する。
いろんな「街結君」バージョンがあり、コレクションしたいという声があがった。
そして、太郎発案により、来店の際、裏にスタンプを押せば、そのチケットは回収しなくてよいという決まりができた。
回収済みのチケットまで、「売って欲しい」と言われて困ると太郎が言っていた。
「まちゆいが、珍しくふざけたポーズを取った写真のチケットはプレミアつけられるかもしれんなあ」
また何かたくらんでいそうで怖い。
法学部ご出身の方々から目をつけられるようなことだけはやらないでいただきたいものだ。
オレが、この勉強会を続けている一番の理由が、飯かもしれない。
マスターの作るご飯は相変わらずうまい。
勉強会初日は、イタリアンだった。
人数が増えると品数を増やせるから楽しいよなあと言いながら、マスターは魔法のように料理を作る。
トマトとチーズのカプレーゼ(という名前をオレはここで覚えた)
ポタージュは緑色。ブロッコリーらしい。
ピザ生地の手作りには驚いたが、パスタの麺も手作りと聞きさらに驚いた。
ママ猿が「パスタはアルデンテ!これがパスタの命なのよ。」といつもきゃんきゃん言ってるのだが
オレにはどうしても芯が残ってるだけにしか思えなくて
オレってパスタ嫌いなのだろうと思っていた。
しかし、マスターの手作り生麺パスタを食べた時、「これって、なんですかっ?」と叫んだほどうまかった。
マスターは、「オレの料理は、プロの料理人から言わせると邪道なことばっかりだろうけど
自分がうまいと思ったものがうまいんだって思ってるんだ。
ピザにしろパスタにしろ、『手作りだぜ』なんて威張るけど、まとめて粉コネて冷凍してたものだし、
野菜の下ごしらなんてレンジでチン!だしね。
だから、オレは、基本、コーヒーの金しか取らない。
どうせ、自分が3食食わなきゃならないんだから作るだろ。
ついでに、太郎や街結や、たまたまその時いた常連さんにも振る舞うってだけの話。
それにしても、ホントに味の好みって人それぞれ違うよなあ。
オレとまちゆいは、パスタに関してはたまたまぴったんこだったけど、
田畑のおっさんは、オレのパスタはパスタじゃないって言いやがる。
でも、末さんは、小学校の給食に出た「ソフト麺」を思い出すって、泣かんばかりに喜んでくれる。
毎回そこから思い出話が始まるんだよなあ。
末さん、オレより2つ上なんだけど、なぜかオレが千春ちゃんを好きだったことを知ってるんだよなあ。
3人とも同じ小学校、中学校だったんだけどさ。
末さんも、千春ちゃんを好きだったからじゃないかって思うんだけど、
頑なに否定するんだよな。この年になっても。
ま、恐妻家だからね、余計な火種は付けないってとこかな。
千春ちゃんって、太郎のかあちゃんね。
今もかわいいけどさ、あれ?会ったことないの?」
太郎のことすら顔で思い出せなかったオレだ、太郎のかあちゃんのことはさらに思い出せない。
「可愛い顔しててさ、しっかりしててさ、何でも出来て、ホントにみんなの憧れだったんだよなあ。
オレなんて、金持ちのボンボンっていうだけで、あとは何のうりもない男だったから
柱の陰からこっそり千春ちゃんを見てるだけだったなあ。
今、時々店に顔出してくれて、オレのコーヒーが世界で一番美味しいって言ってくれて
息子にオレの料理を食わせてくれって言ってくれて
その息子が「マスターに育ててもらったようなもんだ」なんて言ってくれる。
じめじめしてた中学時代のオレに、今のオレと千春ちゃんの関係を教えてあげたいよ、すんげー進歩だぜって。」
なんだか、微笑ましいとかいじらしいとかを通り越したマスターの恋バナを聞きながら店のテーブルをくっつけて、みんなで食べる。
そして、また、太郎とオレは勉強を始め、マスターはデザートを作り始め、常連さんはナイターを見始める。
今年のプロ野球は、なかなか白熱している。
この時期になってもまだ混戦中だ。
ついつい気になって、日本史の勉強よりテレビを見たくなるが、
太郎は黙々と勉強しているのでオレもまた日本史の世界へ戻る。
オレはひそかに、今度の中間テストで、一科目だけ太郎よりいい点数をとることを目標にしているのだ。
その一科目に、ひたすら暗記すればいいだけだからと日本史を選んでみたが、
やり始めるとなかなか深い世界である。
重箱の隅をつつくような問題づくりで定評のある福島先生のことだ、9割の男も苦戦するだろう。
オレは、今回、ほかの教科は捨てて、日本史にかける。
まんべんなく勉強する太郎よりは有利なはずだ。
太郎の悔しそうな顔を思い浮かべながらせっせと頭に叩き込む。
腹一杯で眠くなる帰りの電車の中でも、年代表を二時間見つめ続ける。
*街結君と太郎君①
*街結君と太郎君②
*街結君と太郎君③
*街結君と太郎君④
*街結君と太郎君⑤
*街結君と太郎君⑥
*街結君と太郎君⑦
*街結君と太郎君⑧