パパと呼ばないで

再婚した時、パパと呼ばないでくれと懇願した夫(←おとうさんと呼んで欲しい)を、娘(27)「おやじ」と呼ぶ。良かったのか?

街結君と太郎君⑧

2016年07月23日 | 野望
2学期が始まった。
始業式の朝、太郎はニコニコと、いや、ニタニタと近寄ってきて、オレも負けじとニタニタ笑い返し、
あっさりと仲直りした。
おそらく、ママ猿からの「だいぶ機嫌は治ってるわよ」的なメールが届いてるんだろうと思うと
意地を張り続けるのもアホらしい。
それに、ここでまた、以前のオレに戻るのは避けたかった。
変わりたいのはオレだし、それには、太郎が必要だった。
そして、太郎にも、オレが必要だと思いたかった。

碁石場高校の文化祭は9月の連休に開催される。
公立とはいえ、一応進学校だから、体育祭同様、あまり力は入れて欲しくないという先生たちの考えが如実に現れている日程設定である。
よって、いまひとつ盛り上がりに欠ける。
文化部の展示や、運動部による模擬店などが主流。
クラス単位でも、何かやらなきゃいけない。
去年は、3年4組に、たまたま演劇部の部長と演劇部の看板女優がいて、「時をかける少女」のお芝居をやった。
幼稚園のお遊戯会に始まって、小学校中学校と劇をやらされるたびに、見るのも演るのもウンザリだったオレだが、
この「時かけ」にはちょっと感動した。
舞台を暗転させたりと、かなり本格的だったし、舞台劇特有な大仰なものいいが無く、気恥ずかしく無く見ていられた。
クラス全員が一致団結して作り上げたという感じがあって、カーテンコールの時には、いつもは強面な先輩達まで泣いてるのには驚きながらもちょっと感動すらした。
とはいえ、これはかなり特殊なケースで、ほかは、準備のいらない簡単なものでお茶を濁すクラスがほとんどだ。
お化け屋敷なんてのは、単に女子に触りたいだけだろ。
クラスの出し物以外では、急きょ寄せ集めたような即席バンドによる演奏というのもある。
これはこれで、自分たちで頼み込んだサクラと、お互いの即席バンド同士で聴き合うことでそこそこ楽しそうにやってる。
今年、オレのクラスは何をやるんだろと思ってたら、案の定実行委員長になった太郎が
「皆さん予備校通いでお忙しいでしょうから、ちゃっちゃとやっちゃいましょう。
もう時間もあまりないことですから、喫茶店でいかがでしょうか。
その名も『まちゆいくんのいる喫茶店』」
「おいおい!またオレかよ!」とオレが反論するより早く、女子たちの「きゃーーーっ!いいっ!」
「まちゆいくんがマスターなの?じゃああたしメイドさんやるっっ!」
「メイド服、着ちゃう?」
「いいねえ~それ!」
「まちゆいくんの喫茶店の学校版ってことね。」
すんげぇうるさい。
オレの反論の声は、かき消される。
オレの名前があっちこっちから聞こえてくるのに、オレの声は誰にも届かない。
「街結君のいる喫茶店スマート」のチケット作戦は、テスト前限定なのである。
太郎曰く、「こういうのって、期間限定にしたほうがありがたみが増すんだよね。
年がら年中やってると、いい男にも見飽きるってことさ。
まちゆいが、トークの勉強でもしてくれれば別だけどね。」
だから、次は二学期の中間テスト二週間前から始めるからなと言ってたのに。
瞬発力に欠けるオレが、またも出遅れて呆然としてるうちに
太郎はどんどん話を進めて行く。
「まあまあ皆さん、お静かに!それじゃあまりに当たり前すぎるでしょ。
そこで!こういうイベントにはありがちですが、とりあえずウケるんで、男女入れ替わってもらいます。
男子にメイドをやってもらい、女子に執事をやってもらう。
それから、オレがマスターね!
まちゆいは、美味しいコーヒーなんて入れられないからさ。
まちゆいにもメイド服着せたいところだけど、似合い過ぎて怖い気もするので、
あえて、彼には入口で客寄せをしてもらいましょう。
ちょっとばかしカッコいいっていうだけで、まだまだ碁石場高校内だけでの知名度ですからね、
他校の女子や、ママさんたちを、教室の入口で集客する役をやってもらいましょう!」
教室内大盛り上がりである。
さすがに男子は盛り上がらないだろうと思いきや、メイド服を着られる10人の選抜じゃんけん大会が白熱していた。
そして、文化祭当日。
客寄せパンダのオレは、入口で、オシャレ女子がコーディネイトした、今一番イケテルらしい格好をさせられ
ご希望があれば一緒に写真も撮らされた。
カメラマンはもちろん亜美ちゃんだ。
この日のために、レンズを新調したらしい。
望遠レンズしか持ってなかったっていうのが逆にすごいな。
「もしや、その写真も売るのか?」と言うとにやりと笑い
「そこまであくどい商売はしないさ。サービスサービス。」
それから怒濤の忙しさが続き・・・
オレたちのクラスは、碁石場高校創立以来、過去最高の売上高を達成したのであった。
太郎が「オレ、やっぱり経済学部に変えようかなあ」とほざくのはお約束。
ちょっと驚いたのは、太郎がスマートのマスター伝授により、ものすごく美味しいコーヒーを入れたことと、
中間テスト二週間前14日分の「喫茶スマート」のコーヒーチケットも準備して売りさばいたこと。
太郎は、冗談抜きで、法学部は向いてないかもしれない。


街結君と太郎君①
街結君と太郎君②
街結君と太郎君③
街結君と太郎君④
街結君と太郎君⑤
街結君と太郎君⑥
街結君と太郎君⑦

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