高校男子とはいえ、今までが今までだったせいで、ママ猿は「遅かったわねえ~」と玄関に走ってお出迎え。
もう12時前なので、このまま寝たかったのだが、それはママ猿が許さない。
「どこで何を食べたの?
太郎君とどんなことしゃべったの?」
この人のなかでは、オレはいまだに小学生男児だ。
「勉強のやり方とか教えてもらった?もう少しあなたも成績を上げないと、行きたい大学には入れないわよ。」
だんだん矛先がヤバい方へ向かいそうになったので
「すごいんだよ、太郎は!一日8時間くらい勉強してるんだ。
オレも一緒に勉強してたらついついはかどっちゃって、こんなに遅くなったんだ。
期末まで太郎と一緒に勉強しようかなあと思ってるんだ。」と、少しずつ方向転換。
「太郎君のおうちで勉強会?ご飯はどうしたの?おうちの方、いらした?
あら、お礼のお電話差し上げなくて良かったかしら。って言っても、もうこんな時間だしねえ。」
太郎んちじゃないが、まあ、家みたいにくつろいでたし、「喫茶店で勉強した」なんていうとイコール不良に繋がる人だから、そのまま流す。
こういうところが、基本「田舎育ち」な人なのだ。
ま、ママ猿の実家あたりでは「喫茶店=夜はスナック」ってパターンだからね。
「太郎んち、母子家庭でさ、おかあさん昼も夜も働いてるんだって。
だから、会わなかった。ご飯は太郎が作ってくれたよ。」と、ホントの話と少しばかり創作した話をして、やっとお役御免となり部屋に戻る。
太郎から聞いたところによると、太郎の両親は太郎が小学校に上がる前に離婚して、
それ以来太郎は母親と二人暮らし。
と言っても、すぐ近くに母親の実家があり、小学生の頃はランドセルを背負ってばあちゃんちに帰り、飯食って、風呂入って、宿題して、テレビ見て、
仕事帰りの母親が迎えにきてアパートに帰るという生活パターンだったらしい。
中学生になったら、中学校とアパートとばあちゃんちの位置関係の問題もあり、
太郎は放課後まっすぐアパートに帰るようになった。
母親が帰ってくるまで、菓子パンをかじったり、おにぎりを握って食べたりしてたら
ある日、母親が太郎を喫茶スマートに連れて行った。
そして、マスターに
「この子がきたら、好きなものを食べさせてくれない?支払いはつけといて!」
マスターは大喜びで引き受け、太郎が行くとフルコースを作る勢いでいろんなものを食べさせてくれた。
太郎の、人見知りしないというか、人懐っこいところは今も昔も変わらず、といってもたかだか3、4年前の話だけど、
太郎はマスターや常連さんに可愛がられて、スマートに入り浸る。
「オレはじいちゃんばあちゃんとマスターに育てられたようなものだ」と言ってる。
かといって、母親と仲が悪いというわけでもなく、昼夜働いてる母親には、尊敬と感謝の気持ちを持ってるってのが話のあちこちから染みだしていた。
ただ、どこのうちも、母親っていうのは不思議な生き物で、太郎の母親も例外ではないようだった。
太郎が「母性ってのは、オレたちのばあちゃん世代くらいで消えたんじゃないかと思う。
今、オレとかあちゃんは、親子っていうより同志というか、いや、そんな重いものでもないな。
友達みたいなところがある。
オレとばあちゃんとの関係の方が親子を意識するっていうか、守られてるって感覚を持ちやすいっていうか。」
確かにその感覚はよくわかるなあ。
そのうち太郎は、毎晩晩ご飯をスマートで食べるようになり、宿題もカウンターでやり、
ナイターを見たり、常連さんとしゃべったりして過ごし、マスターの手伝いをして閉店まで過ごすようになった。
太郎の、オヤジギャクやエロ課長っぽい発言は、ここで培われたものらしい。
オレは、今まで知らなかった太郎の一面を知り、なんだかくすぐったいようなうれしいような気持ちになった。
何なんだ?これじゃまるで、付き合い始めたばっかのカップル、それも女子のほうじゃないか。
全くもって気持ち悪いぞ、オレ!
この勢いで行けば、今夜太郎の夢まで見ちゃうんじゃないか?
学校へ行くと、太郎が早速近寄ってきて
「おふくろさんのオッケー、出たか?」
期末試験まで、太郎と一緒に太郎んちで勉強するって話だ。
うなずくと、にやっと笑い、そこらの女子に向かって親指を立てる。
放課後、太郎と並んでスマートに向かう。
カランカランというドアベルが鳴り、一歩入ってびっくりだ。
満員。
それも女子高生で。
マスターがうれしそうにチョコレートパフェを作ってる。
太郎がにやにや笑いながら「大丈夫!勉強の邪魔はしないというのが条件だから。」
なんだかビミョーに店内のレイアウトまで変わっている。
隅っこのテーブルのみ空いていて、とりあえずそこに太郎と座る。
隅っこなのに、なぜか視線を感じるのはどういうことだ?
太郎が「オレは、バイトだから、まかないとしてタダ飯食ったりするのは当たり前だけどさ、
毎日ここで勉強して、コーヒーとタダ飯食わせてもらうのは、まちゆいの気が引けるだろ?
それで考えたんだ。
コーヒーチケットを作って学校で売って、客を増やす。」
意味がわかりません。
っつーか、オレ、昨日はマスターにゴチになったけど、これからはちゃんと金払うつもりなんだけど。
すると太郎が
「バイトもしてないくせに、毎日外食するなんて何様だよ。
ちりも積もれば山となる、毎日コーヒー代と夕食代で千円だとして、テストまで二週間、14000円だぜ。
おまえのこずかい、月いくらだよ。
そこで、マスターに交渉したんだよ。
客を増やすことで、まちゆいの飯代を免除してもらう。
そんなにたくさん客に来られても困るからチケット制にする。
そうすれば大体の客足のめどがつく。
今日は10枚売ったんだ。
10人くらいなら、常連さんに迷惑かけることもないし、マスターがばたばたすることもない。
と言っても、マスター、久々にみる女子高生にウキウキしちゃって、チョコパフェをサービスでつけたりしてるけどな。
採算合うんかなあ。
ま、それはいいとして、客が増えればマスターも喜ぶ。
女子はコーヒーの値段でパフェまで食えるから喜ぶ。
お前はタダ飯食えて喜ぶ。
な!すばらしいだろ?
オレ、法学部志望から経済学部に変えようかなあ。」
オレの疑問点を聞いてもらいたいんだけど・・・と、うっとり自分の計画を語る太郎の話の腰を折る。
「客が増えてマスターが喜ぶなら、別にいいんだけどさ、それでオレの飯代をちゃらにするってのは、
ちょっと話がずれてるんじゃないか?
オレだけいいとこ取りっていうか、オレ、何にもしてないのに。」
すると太郎が、「いやいや、まちゆい君には働いてもらっているのだよ。」と言ってテーブルに出したコーヒーチケットを見てびっくりである。
幼稚園のお店屋さんごっこレベルのちゃっちいぺらっぺらなチケットに
『街結君がいる喫茶店 スマート』と印刷されている。
ご丁寧にオレの写真入りだ。
いつの間に!と驚くと
「夕べ、夜なべして作ったんだよ、マスターんちのパソコンで。
写真は、3組の亜美ちゃんからメールしてもらったやつ。
亜美ちゃんは、おまえの隠し撮り歴が長いらしくて、いろんなバージョンを送ってくれたよ。
だから、彼女には今日、一枚チケットをサービスしといた。
ほら、あそこにいる。」と太郎は、奥のテーブル席の亜美ちゃんとやらに手を振る。
チョコパフェ食べながら手を振り返す亜美ちゃんのテーブルには、すげぇごっつい望遠レンズのついたカメラがのってる。
「突貫工事にしてはよく出来てるだろ?」
呆れて物も言えないオレを見て、「よしっ!事後承諾になるから、ちょっと気になってたんだけど、
まちゆいの許可も出たことだし、オレ、ちょっとチケットを増刷してくるわ。
お前は、ちゃんと勉強しろよ。
今度の期末で、お前を7割の男にするのがオレの目標なんだからな。」
オレは、外界をシャットアウトする勢いで、ひたすら勉強するしかなかった。
*街結君と太郎君①
*街結君と太郎君②
*街結君と太郎君③
*街結君と太郎君④
もう12時前なので、このまま寝たかったのだが、それはママ猿が許さない。
「どこで何を食べたの?
太郎君とどんなことしゃべったの?」
この人のなかでは、オレはいまだに小学生男児だ。
「勉強のやり方とか教えてもらった?もう少しあなたも成績を上げないと、行きたい大学には入れないわよ。」
だんだん矛先がヤバい方へ向かいそうになったので
「すごいんだよ、太郎は!一日8時間くらい勉強してるんだ。
オレも一緒に勉強してたらついついはかどっちゃって、こんなに遅くなったんだ。
期末まで太郎と一緒に勉強しようかなあと思ってるんだ。」と、少しずつ方向転換。
「太郎君のおうちで勉強会?ご飯はどうしたの?おうちの方、いらした?
あら、お礼のお電話差し上げなくて良かったかしら。って言っても、もうこんな時間だしねえ。」
太郎んちじゃないが、まあ、家みたいにくつろいでたし、「喫茶店で勉強した」なんていうとイコール不良に繋がる人だから、そのまま流す。
こういうところが、基本「田舎育ち」な人なのだ。
ま、ママ猿の実家あたりでは「喫茶店=夜はスナック」ってパターンだからね。
「太郎んち、母子家庭でさ、おかあさん昼も夜も働いてるんだって。
だから、会わなかった。ご飯は太郎が作ってくれたよ。」と、ホントの話と少しばかり創作した話をして、やっとお役御免となり部屋に戻る。
太郎から聞いたところによると、太郎の両親は太郎が小学校に上がる前に離婚して、
それ以来太郎は母親と二人暮らし。
と言っても、すぐ近くに母親の実家があり、小学生の頃はランドセルを背負ってばあちゃんちに帰り、飯食って、風呂入って、宿題して、テレビ見て、
仕事帰りの母親が迎えにきてアパートに帰るという生活パターンだったらしい。
中学生になったら、中学校とアパートとばあちゃんちの位置関係の問題もあり、
太郎は放課後まっすぐアパートに帰るようになった。
母親が帰ってくるまで、菓子パンをかじったり、おにぎりを握って食べたりしてたら
ある日、母親が太郎を喫茶スマートに連れて行った。
そして、マスターに
「この子がきたら、好きなものを食べさせてくれない?支払いはつけといて!」
マスターは大喜びで引き受け、太郎が行くとフルコースを作る勢いでいろんなものを食べさせてくれた。
太郎の、人見知りしないというか、人懐っこいところは今も昔も変わらず、といってもたかだか3、4年前の話だけど、
太郎はマスターや常連さんに可愛がられて、スマートに入り浸る。
「オレはじいちゃんばあちゃんとマスターに育てられたようなものだ」と言ってる。
かといって、母親と仲が悪いというわけでもなく、昼夜働いてる母親には、尊敬と感謝の気持ちを持ってるってのが話のあちこちから染みだしていた。
ただ、どこのうちも、母親っていうのは不思議な生き物で、太郎の母親も例外ではないようだった。
太郎が「母性ってのは、オレたちのばあちゃん世代くらいで消えたんじゃないかと思う。
今、オレとかあちゃんは、親子っていうより同志というか、いや、そんな重いものでもないな。
友達みたいなところがある。
オレとばあちゃんとの関係の方が親子を意識するっていうか、守られてるって感覚を持ちやすいっていうか。」
確かにその感覚はよくわかるなあ。
そのうち太郎は、毎晩晩ご飯をスマートで食べるようになり、宿題もカウンターでやり、
ナイターを見たり、常連さんとしゃべったりして過ごし、マスターの手伝いをして閉店まで過ごすようになった。
太郎の、オヤジギャクやエロ課長っぽい発言は、ここで培われたものらしい。
オレは、今まで知らなかった太郎の一面を知り、なんだかくすぐったいようなうれしいような気持ちになった。
何なんだ?これじゃまるで、付き合い始めたばっかのカップル、それも女子のほうじゃないか。
全くもって気持ち悪いぞ、オレ!
この勢いで行けば、今夜太郎の夢まで見ちゃうんじゃないか?
学校へ行くと、太郎が早速近寄ってきて
「おふくろさんのオッケー、出たか?」
期末試験まで、太郎と一緒に太郎んちで勉強するって話だ。
うなずくと、にやっと笑い、そこらの女子に向かって親指を立てる。
放課後、太郎と並んでスマートに向かう。
カランカランというドアベルが鳴り、一歩入ってびっくりだ。
満員。
それも女子高生で。
マスターがうれしそうにチョコレートパフェを作ってる。
太郎がにやにや笑いながら「大丈夫!勉強の邪魔はしないというのが条件だから。」
なんだかビミョーに店内のレイアウトまで変わっている。
隅っこのテーブルのみ空いていて、とりあえずそこに太郎と座る。
隅っこなのに、なぜか視線を感じるのはどういうことだ?
太郎が「オレは、バイトだから、まかないとしてタダ飯食ったりするのは当たり前だけどさ、
毎日ここで勉強して、コーヒーとタダ飯食わせてもらうのは、まちゆいの気が引けるだろ?
それで考えたんだ。
コーヒーチケットを作って学校で売って、客を増やす。」
意味がわかりません。
っつーか、オレ、昨日はマスターにゴチになったけど、これからはちゃんと金払うつもりなんだけど。
すると太郎が
「バイトもしてないくせに、毎日外食するなんて何様だよ。
ちりも積もれば山となる、毎日コーヒー代と夕食代で千円だとして、テストまで二週間、14000円だぜ。
おまえのこずかい、月いくらだよ。
そこで、マスターに交渉したんだよ。
客を増やすことで、まちゆいの飯代を免除してもらう。
そんなにたくさん客に来られても困るからチケット制にする。
そうすれば大体の客足のめどがつく。
今日は10枚売ったんだ。
10人くらいなら、常連さんに迷惑かけることもないし、マスターがばたばたすることもない。
と言っても、マスター、久々にみる女子高生にウキウキしちゃって、チョコパフェをサービスでつけたりしてるけどな。
採算合うんかなあ。
ま、それはいいとして、客が増えればマスターも喜ぶ。
女子はコーヒーの値段でパフェまで食えるから喜ぶ。
お前はタダ飯食えて喜ぶ。
な!すばらしいだろ?
オレ、法学部志望から経済学部に変えようかなあ。」
オレの疑問点を聞いてもらいたいんだけど・・・と、うっとり自分の計画を語る太郎の話の腰を折る。
「客が増えてマスターが喜ぶなら、別にいいんだけどさ、それでオレの飯代をちゃらにするってのは、
ちょっと話がずれてるんじゃないか?
オレだけいいとこ取りっていうか、オレ、何にもしてないのに。」
すると太郎が、「いやいや、まちゆい君には働いてもらっているのだよ。」と言ってテーブルに出したコーヒーチケットを見てびっくりである。
幼稚園のお店屋さんごっこレベルのちゃっちいぺらっぺらなチケットに
『街結君がいる喫茶店 スマート』と印刷されている。
ご丁寧にオレの写真入りだ。
いつの間に!と驚くと
「夕べ、夜なべして作ったんだよ、マスターんちのパソコンで。
写真は、3組の亜美ちゃんからメールしてもらったやつ。
亜美ちゃんは、おまえの隠し撮り歴が長いらしくて、いろんなバージョンを送ってくれたよ。
だから、彼女には今日、一枚チケットをサービスしといた。
ほら、あそこにいる。」と太郎は、奥のテーブル席の亜美ちゃんとやらに手を振る。
チョコパフェ食べながら手を振り返す亜美ちゃんのテーブルには、すげぇごっつい望遠レンズのついたカメラがのってる。
「突貫工事にしてはよく出来てるだろ?」
呆れて物も言えないオレを見て、「よしっ!事後承諾になるから、ちょっと気になってたんだけど、
まちゆいの許可も出たことだし、オレ、ちょっとチケットを増刷してくるわ。
お前は、ちゃんと勉強しろよ。
今度の期末で、お前を7割の男にするのがオレの目標なんだからな。」
オレは、外界をシャットアウトする勢いで、ひたすら勉強するしかなかった。
*街結君と太郎君①
*街結君と太郎君②
*街結君と太郎君③
*街結君と太郎君④