街結君と太郎君②

小学校に入ると、一段と女子はませていき、オレのファンクラブができたりした。
ぬけがけ禁止の掟まであったそうだ。
いつも、ファンクラブの女子に取り囲まれ、ちやほやされ、オレは男子のなかでどんどん浮いていった。
その対策として「全く女なんかに興味の無いクールなヤツ」を演じることにした。
そして、友達がいないことを思い悩む暇もないくらいに、習い事に力を入れた。
ピアノに習字、珠算にスイミング、空手に英会話。
そうすることによって、六年生になるころには、クラスで人気ナンバーワンのみくちゃんを好きな男子からも、
美人の畑中さんを好きなオタク系男子からも、それほど疎まれることもなくなった。
「あいつ、結構いいヤツだぜ。ちゃらちゃらしてないし！」と、
ちゃらちゃら女子のことばっかりしゃべる奴らからも褒められるほどだった。
やっと、そんなポジションを確立した頃、菱刈さんが転校してきた。
赤いリボンのポニーテールがトレードマーク。
少しだけつり加減の大きな目。
なぜかオレの胸はドキドキした。
明るく元気な彼女は、すぐに女子の輪の中に入っていった。
そして、早速オレのファンクラブに勧誘されていた。
それまで全く関心のなかった自分のファンクラブだが、彼女には是非とも入会して欲しいと思いつつ、耳に全神経を集中させた。
「まちゅゆい？え？まちゆい？変わった名前だね。あだな？え？ホントの名前なんだ！どの子？
ふ～ん、カッコいいね。でも、あたし、メンクイじゃないんだよね。
おもしろい人のほうが好き。
このクラスで、誰が一番おもしろいの？」
話題は、クラス一のひょうきんもの圭祐へと移っていった。
あっさりと、オレの恋は半日で終わった。

中学は、小学校がそのまま持ち上がったような代りばえしないメンバーだ。
よって、オレもキャラをそのまま続行。
「女子になんか興味ありません」風を装うヤツや、「女子？アニメの中の女子なら好きです」オタク系のヤツ、
「女子より男子が好きなんじゃないか、こいつ」と思えるようなヤツに
周りをがっちりと固められ、
それをファンクラブの上層部の女子達が遠巻きに囲み、
さらにその外側を新入りファンクラブの子達が囲んでいるというような図で、毎日を送っていた。
小学校時代ほど孤独ではなかったが、いつも自分を遠くから眺めてるような、変な感覚がぬぐい去れずにいた。

高校を選ぶ時、両親は、自転車で通学出来る大楠高校に行くのだろうと思ってたようだ。
しかし、オレは、同じ中学からはおそらく誰も行かないであろう碁石場高校へ行きたかった。
景気の良かった頃は、ちょっとした小金持ちっぽかった我が家であったが、
長く続く不景気で、オヤジにコンサルティングなんていうものを頼むところは激減した。
今は、小さな建設コンサルタント会社にもぐりこんで、何とかやってる風だ。
よって金のかからない公立高に行くのは当然のことと思ってたが、その公立高の中でも、
オレは、どうしても碁石場高校へ行きたかった。
今、振り返っても、なぜそんなに切望したのか不思議なくらい、オレは碁石場高校進学を親に熱く訴えた。
それまでは、なんでもママ猿のいう通りにしてきたので、少しママ猿は驚いていたが「遠くて、通学大変なんじゃないの？何回乗り換えで行けるのかしら。」と言い、
通学経路を検索したりしていた。
ママ猿は、何かって言うとパソコンで検索する。
しかし、少しだけセンスが悪いというか要領が悪いというか。
性格的なものもあるのか、いつのまにかパソコンの画面は、全く違うものを調べ上げてくれたりしている。
この時は、いつのまにかユーチューブで松田聖子が歌いはじめていた。
松田聖子と一緒に歌いはじめたママ猿に
「前、調べたら、一時間くらいかかるんだけど一回乗り換えで行けるルートがあるんだ！
碁石場高校は大楠高校より進学率いいし、オレ頑張るからさ。」
バブル全盛期を経験したママ猿は、「男は三高じゃなきゃ！」と思ってるふしがある。
今となっては死語の代表格のような「三高」とは、高学歴・高収入・高身長という、結婚条件のことだ。
とりあえずママ猿レベルの三高をクリアしたオヤジだが、今、
こんなしょぼくれた感じなのに、まだそんなこと言うか？って思うが
機嫌を損ねられてもめんどくさいので、
通学時間のさばを読み、勉強する意欲を見せるふりをする。
そして、無事オレは碁石場高校に入学した。

＊街結君と太郎君①