アンティークマン

 裸にて生まれてきたに何不足。

医者になってから言語学者に

2020年06月06日 | Weblog
 岩波新書が創刊80年になる。50年前は、常に何冊かの岩波新書が身近にありました。
 赤版、新赤版、青版、黄版。青版…私の目には「緑版」に見えました。「緑を青と表す…。交通信号は…世界共通で、「赤・黄・緑」。この緑、日本では、法令で「青信号」となっている。実際、信号は青色に見える。しかし、時折、緑色の信号機も見る…日本人は、「緑色」を「青色」と表現することがあるのでややこしくなってしまう。青色発光ダイオードの普及で、緑色ライトはなくなるかな。
  岩波新書、サイズがいい。ポケットに入る。書き下ろし作品。トリビアの宝庫。今は、1,000円前後だが、学生時代は500円でお釣りが来た。
 「島国的根性より我が同胞を解放し、優秀なる我が民族性にあらゆる発展の機会を与え、躍進日本の要求する新知識を提供す」
 なんとも大げさなこの文、岩波新書発刊の辞の一節。キャッチフレーズは、「現代人の現代的教養」でした。現在、改善していただきたい点は、活字を大きくしてほしいというところです。老眼がすすんで…。
 岩波新書青版、「ことばと文化(鈴木孝夫先生著)」。団塊世代には、「お、懐かしい!」と思われる本。私は、度重なる引っ越しの時も捨てずにまだ持っています。その中の、特に印象深い一部を御紹介させていただきますと…
 一人称代名詞が「わたし」で、二人称代名詞が、「あなた」…これ、正しいですよね。ところが、「ことばと文化」では、「西欧語文法をまねただけで、日本語の文法としては間違いだ」と、いうのです。
 日本語では、自分を称する場合、「お父さんはね、・・・」「おじいちゃんが、・・・」「絃ちゃんも、アイスたべたい」「おばさんが、かってあげる」など。自分を称することばは、「わたし、ぼく」より、親族関係を表す言葉が多く使われている…た、確かに。
  相手に呼びかける場合、子どもが母親へ「あなた」とは言わない。「おかあさん、今日の保護者参観に来る?」です。生徒が先生に、「あなた!私は宿題を忘れました」とは言わない。「先生、私、宿題忘れました」です。
 観光バスの客がガイドさんへ、「あなた、トイレへ行きたいので次のPAに寄って…」とは言わない。「ガイドさん、トイレヘ行きたい…」です。
 秘書が社長へ、「あなたの今日の予定ですが・・・」とは、言わない。「社長の今日の予定は・・・」。
 店員さんが、釣り銭をとり忘れた客へ向かって、「あなた!お釣りがあります」とは、言わない。「お客様、お釣りがあります」です。
 つまり、「あなた、きみ」が使われる方がむしろ限られている。親族関係を表す言葉と、職業(役職)名が多く使われている。
  目上の人に使える人称代名詞など日本語にはないと言ってもよい。…どうでしょう、鋭い御指摘です!
 自分を称する言葉を一人称代名詞と言うなら、「私、ボク、おれ、オラ、お父さん、お母さん、じっちゃん。ばっちゃん、花子、太郎、先生、ガイド、アンティークマン・・・」無限にある。人称代名詞が無限にあるということは、「おかしい!」と、いうわけです。二人称・三人称代名詞についても全く同じ、無限にあってはおかしい。だから、日本語の文法の人称代名詞は間違っている。
 そこで、ことばと文化(鈴木孝夫先生)としては、
 自分を称する言葉・・・・・・・「自称詞」
 相手を示す言葉・・・・・・・・「対称詞」
 対話の中に登場する第三者・・・「他称詞」
  とするのがいいのではないか。こうすると、無限にあっても何の問題もない。
 この、「ことばと文化」。鈴木孝夫先生は、大衆向けに易しく書いているのでしょうが、実際難しいです。日本語の他、英語、ドイツ語、フランス語、その他言語との比較が出てくる。…しかし、「なるほどぉ~~!」と、頷けるおもしろさです。 鈴木孝夫先生、言語学者には違いないのですが、医学部卒で、医者になってから文学部に入学した…。 
 岩波新書の著者は、このような人が多いです。学習歴ということではなく、良い意味で、「前しか向いていない」。あっちへフラフラ、こっちへフラフラではなく、一途に、ストイックなまでに追究し続ける。勉強させていただいております